執筆: Michèle de LATTRE
シャルトルの Hôtel & Spa Le Grand Monarque は、象徴的で威容を誇る大聖堂のふもとに建つ旧郵便馬車宿で、1968年から Jallerat 家が運営し、いまや街の名門として知られています。現在は Nathalie と Bertrand Jallerat が格式ある四つ星ホテルを率い、三つの異なる世界観をもつスパを併設しました。この独自性が評価されています。Bertrand がその歩みを語ります。
850平方メートル規模を誇るLe Grand Monarqueのスパ施設
「2007年に妻の Nathalie がスパをつくろうと考え、2010年に開業しました。当時としてはかなり先進的でした。ホテルにスパは必要だと理解していましたが、いま求められているような幅広い補完的オファーは当時は整っていませんでした。
現在のスパの場所には、かつてホテルに隣接するガソリンスタンドがあり、私たちはそれを買い取りました。
導入にあたっては Hydro Concept に助けてもらいました。モナコまで出向き、ガソリンスタンドをシャルトルのスパへと改装したいと相談したところ、相手は私たちが正気を失ったと思ったほどでした。
当館のスパは延床約850平方メートルで、トリートメントルームは8室、うちデュオ対応が2室です。」
時代に合わせ進化を続けるスパ運営
「飲食や宿泊と同じように、常に自問自答し続けることが欠かせません。この種のプロジェクトに踏み切るからには、最初の設計段階で適切な規模感を見極める必要があります。
その後に細部を調整します。核となる部分と構造を最初に固め、あとは時流に合わせて整合性を保てばよいのです。
開業から二、三年後、私たちはスパの運用を見直し、内容をさらに多様化しました。これによってスパの機能が明確になり、独立した商いとして成立するようになりました。Grand Monarque に完全に統合されており、お客さまは客室から直接アクセスできます。同時に地域に開かれた商業施設でもあり、出会いの場であり、小旅行の目的地にもなっています。」
三つの世界観をもつスパ
Nathalie は明確なビジョンを持っていました。お客さま一人ひとりに合わせた施術プロトコルを設計し、唯一無二のリラクゼーションと活力回復の体験を提供することです。そこで三つの世界観を用意しました。
Be By Oriental(ハマムの世界)
このエリアはハマムとオリエンタルの伝統世界へと誘います。エジプト式の所作に基づく特有の手技を用い、反射区への刺激とリラクゼーションを組み合わせます。やさしいストレッチと流れるようななで上げを合わせたリラックス系のボディワークで、心身を深くゆるめます。精油の香りとハマムの包み込むような熱が、全身の安寧感をもたらします。
設備は、アフュージョンのシャワーを備えたゴマージュ室、サウナ、コールドバス、アイスファウンテン、二つのエクスペリエンスシャワー、カスケードバケットです。
Be By Thermal(浄化のバスの世界)
スパプール内のウォーターコースでは、逆流スイム、マッサージベッド二基、背中用マルチジェット三基、Jacuzzi、腹部用マッサージステーション二基を備えています。
Be By Thermal は、浄化のバスとエネルギーワークの恩恵を体験へと昇華します。自発熱性の泥を用いる場合と用いない場合のいずれでも対応するドレナージュ系のボディワークは、体を浄化し活性化し、毒素の排出とエネルギーバランスの回復を後押しします。温熱要素を組み合わせ、深い浄化へ導きます。
Be By Essentiel(再生のウェルビーイングの世界)
Be By Essentiel は、再生と細胞レベルの更新を重視します。ここでのエネルギーワークは、肌に若々しさをもたらす宝物のような存在です。フリクションやストレッチなどの技法で血行を促し、細胞の更新を支えます。力強いタッチで、内側からのリフレッシュ感を与えます。
ハマムの世界では Charme d’Orient、そして Baïja の製品を使用しています。
本格的なヘアサロンも併設
Grand Monarque のヘアサロンは、ラグジュアリーと洗練を体現しています。スパ開業から三年後の2013年に開設しました。ねらいは「Spa du Cheveu」という体験をお届けすることにあり、浄化、保湿、補修、強化、再構築を行う一連のヘアケアリチュアルを提供します。仕上げでは髪の美しさを引き立てます。
鍵は補完性
「スパとフィットネス、そしてヘアの各部門のうち、どれが最も好調かと問われれば、Grand Monarque 全体と同じで、答えは補完性そのものだと申し上げます。スパ、ガストロノミーレストラン、ブラッスリー、バー、イベント、レセプションなど、すべてが機能してこそ成り立ちます。」
多様な顧客層
私たちには法人のお客様、個人のお客様、年末会食のお客様など、幅広い層がいらっしゃいます。この多様性こそが本当に意味を持っています。Le Grand Monarque には活気があります。ホテルには家庭的な雰囲気が漂い、まさに生活の場であり、ホテル、スパ、ヘアサロンといった異なる顧客層との調和が響き合っています。
スタッフの質が支えるホテルスパの経営力
採用について
現在、私たちはフルタイムの無期契約で6名の施術者を雇用し、その上にスパマネージャーがいます。どの業界も同じように、私たちも採用には困難を経験しました。お客様をしっかりとケアするためには高度な技術が不可欠です。それはレストランでもスパでも同様に難しいのです。多くの施術者は独立を望み、大きな組織では働きたがらない傾向があります。
良い採用と定着
解決策は、自分の仕事を理解し、丁寧に取り組み、フォローを徹底できるプロフェッショナルを採用することです。企業を支えるのはスタッフの質です。特効薬はなく、必要なのは良いチームなのです。適切な人材を見つけ、定着させることが重要です。そのためには、企業のプロジェクトに共感し、日々努力を惜しまないだけでなく、尊重され、成長でき、支援され、正しく業務を遂行できる環境を提供する必要があります。そして経営側が常に寄り添う姿勢を持つことです。
高い収益性
私たちは年間約75万ユーロの売上を上げています。スパは収益性があります。客室は54室で、宿泊客は70名程度です。スパの利用は平日で1日約15名、土曜日には40名ほどとなっています。
かつてはレストランやバーを併設しないホテルが多く、ロビーと客室だけの「オフィスホテル」が大流行しました。
現在ではホテルにバーを設け、再びレストランを提供する流れが戻ってきました。私たちはその真逆のスタイルを選びました。ホテルが生活の場でなければ、もう機能しません。今は「ライフスタイル型ホスピタリティ」が求められているのです。
大きな投資をしましたが、スパは確かな収益源となり、平日も週末もホテルの稼働を支えています。Le Grand Monarque には星付きレストラン、ブラッスリー、ワインセラー、バー、そして360°のスパがあります。
スパの利用について
ホテル宿泊者はスパを20ユーロで利用できます(外部客は55ユーロ)。ただし施術を受ける場合は料金に含まれます。宿泊客からはあまり好評ではありませんが、無料にしてしまうと利用者が殺到しすぎてしまいます。体験の質を守るため、同時利用者は25〜30名までとしていますが、それでも多い方です。
私たちの強み
私たちの強みは Nathalie と私の絶妙な補完関係にもあります。例えば新しいプロジェクトでは、まず Nathalie のビジョンからインスピレーションを得て、最終形を見据えた上で私が実行します。まさに補完し合っているのです。
私は、スパの収益性の秘密はオファーの多様性とスタッフの質にあると考えます。スパが遠方にあっても、お客様はその体験のために何キロも足を運んでくださるのです。
最後に―スパ経営者へのアドバイス
小規模すぎてはいけません。少し大胆に、大きな構想を描いてください。中にはわずか60平方メートルの空間に小物を詰め込んで「Hôtel & Spa」と名乗るホテルもあります。しかし私は、スパという言葉を使うのであれば、真のスパであるべきだと思います。