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「体験」は資本になる──LIPPS上場に見る、美容ブランドの次世代戦略

2025年6月、メンズコスメおよびヘアサロン事業を展開する株式会社リップス(本社:東京都渋谷区、代表取締役:的場隆光)が、東京証券取引所グロース市場に上場した。感度の高い若年層を中心としたニッチ市場と見なされてきたメンズ美容が、今回初めて成長産業として資本市場に明確に認知された転換点である。だが、この上場は単なる資金調達にとどまらない。LIPPSが挑むのは、「選ばれる理由」の再定義。価格競争に依存しないブランド価値の構築である。LIPPS上場を起点に、「体験」を核とした新しいブランドモデルの構造を明らかにするとともに、美容業界全体への波及効果を読み解く。

メンズ美容市場はここ数年で急激に成長を遂げている。

従来は最低限の身だしなみと捉えられていた男性美容が、Z世代を中心とする消費層によって、「自己表現」へと進化している。こうした潮流の中、株式会社リップスが東証グロース市場に上場した。同社は、2025年8月期第3四半期(2024年9月-2025年5月)時点で過去最高の売上(33.51億円)と営業利益(7.63億円)を記録し、メンズ美容企業として初の大型IPOを果たした。だが、評価すべきはその数字よりも、その背後にある「体験設計型ブランドモデル」である。

リップスの強みは、「店舗体験 × 製品開発 × SNS発信」を統合したブランド構造にある。
Z世代の「体験重視・共感重視」な志向と合致した戦略設計が、単なる製品スペックを超えて、ブランドとしての厚みを形成している。 この構造自体が、資本市場からの高評価に直結している点は見逃せない。

IPOとは、資金調達の手段であると同時に、企業が市場において“評価される理由”を提示する場でもある。LIPPSの上場は、メンズ美容市場が一過性のブームではなく、中長期的に投資対象として成立し得るフェーズに入ったことを象徴している。

参照:LIPPS Online「STYLING」ページ

D2C(Direct to Consumer)とは、ブランドが流通を介さず、自社チャネルを通じて顧客に直接価値を届けるモデルである。
日本ではコストパフォーマンスやスピードを武器とした「効率型D2C」が主流だったが、LIPPSはその枠組みを超えている。

例えば、同社の製品はすべて「サロン仕込み」。
スタイリスト自身が製品開発に関わり、施術現場の知見がそのままヘアスタイリング剤やスキンケア商品に反映される。それだけでなく、スタイリストがインフルエンサーとしてSNSやYouTubeで直接発信し、ユーザーとの関係構築も担う構造を持っている。

この一貫性は、ただのプロダクト開発ではなく、体験を核にしたブランド共創として機能している。製品の機能価値だけでなく、「LIPPSに通う/使う」ことそのものが自己投影やコミュニティへの参加につながる点が、第二のD2Cと呼ばれるゆえんだ。

LIPPSが構築しているのは、従来型D2Cの直接販売とは異なる文脈だ。
同社の戦略は、サロン体験を起点に、製品開発・SNS発信・ユーザー参加までを統合的に設計したエコシステム型ブランドに近い。 例えば、施術現場で得た知見が製品開発に還元され、製品が使われる様子がYouTubeやInstagramで可視化される。ユーザーは「買う」だけでなく、「関わる/真似る/シェアする」ことまで含めてブランドと接触する。この構造は、LIPPSが単なる“商品ブランド”ではなく、“体験共有型ブランド”として進化していることを意味する。

IPOによって、LIPPSはこの「体験×発信×拡張」の構造を、資本市場においても可視化された企業価値として証明した。メンズ美容の枠を超え、アパレル・飲食・ウェルネスなど、“体験を軸に再構築されるブランド”が新たな資産として成立する兆候でもある。

LIPPSの上場は、メンズ美容という成長市場の本格化を象徴するだけでなく、「体験をどうブランド価値に変えるか」という問いに対する一つの答えでもあった。単なるD2Cの延長ではなく、リアルな接点から得た知見を製品に反映し、それを発信と共感の循環に組み込んでいく。そうした統合モデルが、資本市場からも高く評価された点は見逃せない。

今、求められているのは“売れる商品”を作ること以上に、共感される体験をどう届けるかである。LIPPSの戦略が示すように、ブランドとユーザーの関係は一方通行ではなく、体験を通じて双方向に育まれていく。その積み重ねが、結果としてブランドの価値を支え、企業の成長を後押ししている。今後、“体験”を軸に再構築されるブランドが、美容に限らずアパレル・飲食・教育などさまざまな領域で「投資対象」として立ち上がることが予見される。LIPPSは、その先鞭をつけたにすぎない。

Inner Beauty Award 2025 ―受賞商品発表―

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