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結果を追求するエステティシャン流“おもてなし哲学” 〜タラサ志摩ホテル社長・今野華都子が語る成功の秘訣〜

花上:本誌の読者層の多くは、エステティックをはじめとした美容業界にかかわる人たちです。今野さんがこれまでエステサロン経営や現在のホテル経営を経験された中で、お客様にサービスを提供する上で一番たいせつになさっていることは何ですか?

今野:エステティシャンでも、ホテルマンでも同じお客様の前に立つ仕事だから、身だしなみを整えたり、さわやかな笑顔はもちろん大事。
しかし、それに先立つものとして、まずは人として自分がどういう生き方をしていきたいか? を、はっきりさせることです。
そして、目の前のことを一生懸命していくこと。エステティシャンなら自分の目の前の人に「結果を出してあげたい」、「喜んでいただきたい」、ということを突き詰めていくと、「どうしたらシミやシワを取ってあげられるの?」、「どうしたら若くしてあげられるの?」と考えるようになります。その想いは必ず、技術に反映され、どんどん具体的な結果となって表れます。

ホテルのサービスも同じです。
状況はいつも違います。目の前のお客様にとって何が一番かを良心にそって考え行動できることです。ですから、目の前のことに対して真正面から挑戦し、真剣に取り組んでいくこと。それが、お客様との喜びの共有につながるのですね。

花上:今野さんは、エステティシャンとして、働く女性として、多くの人々にとって生き方の指標となっていることと思います。どんな信念を持って今を生きていらっしゃいますか。

今野:自分という存在を、愛し、育ててあげることです。人は、最長100年という限られた人生の時間の中で自分を表現していきます。成長させ、自分を幸せにしてあげなければなりません。
自分の生き方が自分を幸せにし、周りの人の幸せにつながること。私にとってそれが仕事であり生き方です。

仕事は人生の大部分であり、仕事をすることで幸せを感じています。義務だと思ったことは一度もありません。
じつは、私は、生き方というのをすでに幼い頃から決めていました。というのも、じつは幼少のころから体が弱く大病を患っていました。これまでに6回の大手術を受けています。幼いながら「いつ死ぬかわからない」とも思っていました。「病気で人生が短いかもしれない、死んでしまうかもしれない。でも、死ぬんだったら、88歳まで生きる人たちよりももっと濃厚に生きたい。
もらった時間がどこまでかわからないから、私はもっと真剣に今を生きなければならない。」と、そんな風に思って生きてきたのです。

幼いころからのそのような考え方は、今も、大事にしていることです。ですから、私はいつも100%の幸せを感じています。自分の人生を、自分で決めてきた。そして、一瞬一瞬を満足して生きている、という自信があります。

花上:現在、このようにパワフルにお仕事をこなされているのも、そのようなタフなご経験があったからこそなんですね。生き方やメンタル面の強さがつくり上げられたのも、病気と闘われて、“生きること”をしっかりと踏みしめてこられたからかもしれませんね。

今野:そうかもしれません。「人は何のために生きるのか?」その疑問があって、すべての行動が派生していきます。一つひとつの行動に対して、どんな風に時間を使うか? 毎日何をするか?
すべて自分で決める。そのような子どもの頃からの価値観が、何が起きても動じない、強靭な精神力を身に付けたのかもしれませんね。

2004年第一回LPGインターナショナルコンテストフェイシャル部門で世界グランプリを受賞

今野華都子01_Ph01
花上:成人になられてからは生まれ育った仙台で農家に嫁がれて主婦業をされていたとのことですが、45歳のときに美容の世界に入られたきっかけはなんですか。

今野:私たちの夫婦には二人の子どもがいます。子どもが大きくなるにつれて学費などのお金が必要になってきたのを機に、仕事に就こうと決意しました。しかし、私には履歴書に書ける資格も、誇れる技術もありませんでした。
さらに1998年といえば、今と匹敵する不況の時代。それでも、“何かをやって、お金を稼がなければならない”その想いだけで事務所を一室、借りることにしました。

花上:そこから、どんなお仕事を始められたのでしょうか?

今野:そこで始めたのは、まつ毛パーマのお店です。知り合いから技術を学び、自分のお店を開きました。お店の経営なんてしたことがありませんでしたから、どんな風にお金を稼げばいいのか? どんな風に集客をしていいのか? ノウハウなんてありません。
さらに、ほとんど資金がないとこからスタートしたため広告を出すこともできなかったのです。そこで、私は老舗デパートの前に立ってお声掛けをしました。まつ毛パーマを知っている人はほとんどいなかったため最初は無視されました。
しかし200人目ぐらいで興味を持ってくれる人に会い、あっというまに口コミで広がっていったのです。不況の時代にもかかわらず、次から次へとお客様がいらしてくださいました。その頃の私は、経験やノウハウがないからこそ、常識にとらわれない発想ができたのだと思います。「ない」ということは、創意工夫する勇気を与えてくれるんですね。

花上:なるほど。不況とはいえ、順調にお店をスタートしたのですね。今野さんの真剣な姿勢が、お客様にも伝わったのではないでしょうか。

今野:開業して3ヶ月もすると、売り上げは180万円ほどに。お客様はみるみるうちに増えましたが、それだけお客様を施術していると、ある問題があることがわかりました。それは、「一人ひとりのお客様の毛質が違うのに、市場で販売されているロッドが3種類しかない」ということ。その不便を見逃してはならないと思い、手づくりで12種類の道具を作りました。
すると、あらゆるまつ毛の長さや性質に対応できるようになり、これまで解決できなかったお客様のどんな悩みやリクエストにも、応えることができるようになりました。人は真剣に悩むとちゃんと答えは出るもの。
目の前の問題に正面から向き合って、解決するために考えることがたいせつだと思いました。

花上:一つひとつの問題から逃げようとせず、正面からぶつかっていくのは簡単なことではないと思います。そんな風にして、施術のクオリティもどんどん向上されていかれたのですね。まつ毛パーマのお店をされていた今野さんですが、その後、フェイシャルに転向されましたね?

今野:はい。フェイシャルに携ったのは、お肌が荒れたお客様と出会ったこと。その方のお肌のお悩みを伺ったことがきっかけです。私自身もある程度年を重ねた頃から、女性としてシミやシワを気にするようになっていました。顔のお手入れやお化粧品に関心があり、多少の知識も持っていたので、そのお客様にできる限りのアドバイスをして差し上げたんです。
そこから他のお客様にも伝わり、フェイシャルをメニューとして出すようになりました。お客様一人ひとりに肌の悩みがあることに気づき、「肌が荒れる原因はなんだろう?」、「なぜ、ここにシワができるんだろう?」と、皮膚生理学や大脳生理学、リンパなどの勉強をしながら、フェイシャルの道を突き詰めていきました。

花上:ご自分が悩まれていたことをきっかけに、お客様にもアドバイスするようになったんですね。

今野:はい。私は45歳からのデビューだったので経験が浅かったですが、経験の長さで競おうとしても、ないものは仕方がないですね。
ですから、ないものを卑下するのではなく、「あるものを武器にしていく」という考え方で、私なりのアドバイスをしていきました。20代の素敵なエステティシャンがいらっしゃったとしても、40歳の悩みは実感としてはわかりませんよね。20代のお嬢さんよりも20年以上の経験があることを武器にして、お客様の悩みにリアルに応えていったのです。

花上:2004年には第一回LPGインターナショナルコンテスト フェイシャル部門で、世界110カ国の中から最優秀グランプリを獲られましたね。そのときはどんなお気持ちでしたか?

今野:おかげさまでフェイシャル部門において世界一という賞をいただきました。それは、ただひたすら、お客様一人ひとりのお悩みと向き合い、「どうしたらこの人をきれいにすることができるのか?」ということを日々、考えてきた結果なのだと思います。
目の前に来る人のことを考えて、その人を喜ばせるためにはなにをしたらいいか。来る日も来る日も、真剣に考えていましたから。

花上:短いキャリアの中で世界ナンバーワンになられたのも、お客様に向き合う真摯な姿勢や、細やかな心遣いをされる中から勝ち取れたものなんですね。そこから、現在のポジションである『タラサ志摩ホテル&リゾート』取締役社長に至るまでにはどのような経緯があったのでしょうか。

今野:エステティシャンとして講演を依頼され、そこで出会ったのが、現在の代表取締役である野沢宜巳氏でした。野沢氏は、私が講演の演台に立つまでの10秒足らずの合間に「『タラサ志摩ホテル&リゾート』の社長はこの人だ!」という直感が走ったといいます。
17年前、アジアで初めて代替療法のタラソテラピーを始めたのがこのホテルで、当時は一世を風靡しました。しかし、不況やさまざまな出来事を経て、私が野沢氏と出会ったときには、すでに36億円の累積赤字を抱えていました。ホテルの社長に、というお話をいただいたとき、私にはそのときの人生がありましたし、興味もなかったので、お断りしていました。しかしお誘いを受けている中で、人には運命というものがあるということを感じ、この仕事を引き受けようと思ったのです。

従業員150人と3カ月面談で赤字36億円をV字回復!“原因究明”で紡ぐリーダーシップの極意

今野華都子02_Ph01
花上:さまざまな事情から、当時のホテルはすでに36億円の累積赤字を抱えられていたとのことでしたが、社長というポジションを任せられて、いったいどのようなプロセスを踏んで好転させていかれたのでしょうか。

今野:当時の『タラサ志摩ホテル&リゾート』は、たった1年の間に支配人が4回も交代したり、スタッフの入れ替わりもはげしく、従業員一人ひとりに信頼できる上司がいないことに気づきました。そこで、150名ほどの従業員全員と、3カ月かけて面談をいたしました。

花上:従業員の方お一人おひとりと、マンツーマンでお話をされたのですか?

今野:はい。すべての問題は原因がわからなければ解決できません。
一人ひとりの悩みや不満を洗い出して“何がその問題の原因なのか?”ということを探っていきました。ヒアリングする中では、じつにさまざまな問題がありましたが、大概の問題は原因が不明瞭なものばかり。
たとえば「仕事がつまらない」などです。「仕事がつまらない」という場合、その原因として「忙しいのが嫌い」、「一緒に働いている人が気に入らない」、「担当の仕事が好きではない」、「残業したくない」など、さまざまな理由が考えられますね。そのように、一人ひとりの問題の根底にある原因を、一緒に解明していきました。社長として話を聴き、理解し、会社の問題を解決していくことはもちろん、「自分の悩みは何か?」、「何が原因で悩んでいるのか?」おのおのが、自分自身の問題を正面から捉えて、解決の方法を探していくことが大切だと考えました。

花上:悩んで立ち止まるのではなく、自発的に考えるようになったのですね。

今野:人は、原因を知ることをおざなりにすると、悩みの袋小路に陥っていきます。自分がやっていることはあれでいいのだろうか、これでいいのだろうか、と、とりとめなく思い悩むことになるのです。
すると、「上司と合わない」、「周りの人と合わない」など、ついつい他人のせいにしてしまうんですね。私は従業員たちに「話してくれたことはよくわかりました。では、あなたはどうしてここで働いているのでしょう?」と訊ねました。
つまり、今という大切な人生の時間をここで過ごすと決めたのは、自分自身。それなのに、どうして今抱えている悩みや不安に対する原因を探ろうともせず、目の前にあることに対して自分を活かそうとしないのでしょうか? と、問いました。個人の中にある問題は、会社にはどうにもならないことがあります。自分自身の心を前向きにするのは、一人ひとりが自分に問い、解決していくしかありません。

花上:なるほど。忙しくなるとついつい、周りが見えなくなったり、その先にある目標を見失ったりしてしまう人が多いように思います。つねに客観的に自分を見て、マイナス要素を剃り落としていくことが大切なんですね。
これまで、今野さんが人を育てる上で、心がけていらっしゃることはありますか?

今野: 従業員には、「目の前のことを好きになりなさい。大好きになりなさい」ということを、伝えています。
自分が持っている能力を生かして、目の前にあることに役立てること。そして、生きていく中で自分を使ってもらえることに幸せを感じること。それが結果的に、自分の心を高め、他の人の幸せにもつながるのです。また、好きなものはとことん突き詰めていけばいいと思います。
その中で、倒れるくらい頑張って、無我夢中にやってみたらいいと思います。それくらい必死になっているときに、一番、人は成長するもの。人にどう思われるかを基準にしていると、人のジャッジが気になりますが、大事なのは、「自分の価値観をしっかりと決める」ことです。
人にどう思われようとどうだっていい。次のステージに上がるためには、まず、目の前のことに必死に取り組んだらいいんです。
忙しいのはみんな同じ。そもそも、私の睡眠時間は平均3時間半くらいで、それをもう何年もやっていますよ。

花上: 3時間半ですか。体がこたえませんか?

今野:寝られなくて大変かといったら、そうでもないですよ。眠たい人は寝ればいい。
もちろん、寝なければ健康にも良くないですからね。でも、楽しくて寝られない人は寝なくてもいいでしょ?
私は仕事が大好きだから、仕事をしているときは楽しくて時間を忘れてしまうんです。ゲームでも、読書でも、好きなことをしているときは楽しいですね。
反対に、義務でやることは楽しくないものです。自分が働きたいから、睡眠時間を削っても働く。人は死にそうになったら必ず寝るから大丈夫よ、
って思っているんですよ。とくに、人は多くの時間を仕事に費やし、仕事によって自分の人生を運命づけるともいえます。ですから、「(今ある)仕事を大好きになる」ことが大切、ということもいえますね。

花上:かなりタフなお考えですね。とはいえ、そうして自分の能力を高め、磨いて、ステップアップしていくことが、人生の課題のひとつなのかもしれませんね。今野さんは『運命を変える言葉』(致知出版社)という本の中で、工学博士でありオピニオンリーダーでもある五日市 剛さんとの対談をされていますね。
ご自身が大切にされている言葉はありますか?

今野:「心は行動なり、行動は習慣を創り、習慣は品格を創り、品格は運命をも決す」という言葉です。
これは『運命を変える言葉』の中でも出てくる言葉。生き方で大事なのは、人は、毎日していることでしか、作られていきません。毎日、歯を磨いてご飯を食べて、仕事をして……。そのような日常の時間をどのような想いで過ごしていくか、それがすべてだと思います。習慣が、その人の生き方を決め、魂の品格を高めていくのです。その人が、どんな仕事をしていようが、同じことです。

花上:その言葉は、今野さんの人となり、そのものではないかと思いました。日常の小さな習慣をプラスに積み重ねてこられたからこそ、今野さんのひときわ高い品性が成り立っていくのですね。貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。これからのますますのご活躍を、お祈りしています。

今野華都子(こんの・かつこ)/株式会社アイテラス代表取締役社長。主婦から、45歳の時にエステの道に飛び込み第一回LPGインターナショナルコンテストL6(フェイシャル部門)において日本最優秀賞を受賞し、平成16年12月フランスで審査の結果、世界110ヶ国の中で最優秀グランプリ(世界一位)を受賞。

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