今から20年前に私が独立した当初、自分のサロンを「4人目の子ども」だと口にしていました。これは私自身にとって大きな誤りでしたが、同じ言葉を多くの施術者の口からも耳にします。
この言葉の裏には、確かに大きな愛情や深い愛着、そして本物の誇りがあります。 しかし、そのような気持ちで事業を捉えると、会社経営にとっては不向きな感情的なつながりが生まれてしまいます。
失うことへの恐れ、自分が十分でないのではないかという恐れ、この事業を育てられないのではという恐れ。こうした気持ちを抑えきれず、まるで子どもを過保護にするように事業を守ろうとしてしまうのです。
もしもその捉え方が、私がかつて直面した起業の困難と同じように、あなたの成長を妨げているとしたらどうでしょうか。サロンを「子ども」として抱え込むのではなく、生きたプロジェクト、あなたを超えてより大きなものへと導く推進力として捉え直す選択をしてみてください。サロンを「自分の赤ちゃん」と見なすことは、発展を阻む要因になり得ます。
サロン経営における感情的な執着と合理的判断の違い
赤ちゃんは大切にされ、守られる存在です。転んだり傷ついたりしないかと常に気を配ります。その結果どうなるでしょうか。常に過度な警戒心を持ち、絶え間ないストレスにさらされ、戦略的な意思決定ができなくなります。責任を背負いすぎ、守ることを最優先にしてしまうのです。
しかし、仕事においてそのような感情的な執着は不要です。むしろ適切な判断を妨げるものです。
私自身も、二つ目のサロンの経営がうまくいかなかったとき、本来であればすべてを閉じて健全に再構築すべきでした。ところが感情的に執着してしまったため、清算していれば避けられたはずの借金を背負う決断をしてしまったのです。その結果、二年間にわたる非常に厳しい時期を過ごすことになりました。冷静に理性的な判断をしていれば避けられた苦難でした。
感情に支配されたサロン経営が招くリスク
感情にとらわれているとき、人は大脳辺縁系が活性化します。大脳辺縁系は常に「苦痛を避ける」方向で判断を下します。けれども困難な状況では、目先の痛みを伴ったとしても、将来的な利益を得るために合理的な判断を下さなければならない場合があります。問題は、大脳辺縁系が短期的な視点しか持たず、長期的に物事を見ることができない点です。その結果、一時的な苦痛を回避しようとしたことで、かえって長期的に大きな苦しみを招いてしまうのです。
失うことへの恐れがサロン投資を止める理由
さらに、事業を「赤ちゃん」として捉えてしまうと、それが自立して生き残ることはできないかのように思え、失うことへの強い恐れが生じます。この恐れは投資への消極性を生み出します。
- 学ぶ機会に踏み出せない
- 人に任せられない
- リスクを取らない
恐れは自律神経を作動させ、生存モードに切り替えてしまいます。その結果「何もせず堂々巡り」「恐怖で身動きが取れず諦めてしまう」という状態を行き来するようになります。挑戦や成長の機会を避け、自らを無意識に制限してしまうのです。なぜなら脳は安全を求めるからです。成長は喪失のリスクであり、変化は見捨てられるリスクだと脳は捉えてしまいます。自律神経を理解し、制御できるようになることが、恐れを克服するための鍵となります。
喪失の段階を乗り越え変化を受け入れるには?
サロンを赤ちゃんと同一視すると、実はその裏に「喪失の恐れ」が隠れています。築き上げたもの、描いてきた未来、変わらないと思っていた姿を手放すことへの恐怖です。もし事業を子どもと重ねてしまえば、ほんの少しの変化や移行も試練のように感じられます。そしてその段階にとどまる限り、前進は不可能です。本当の変化は、サロンを守るべき存在ではなく、進化させるべきプロジェクトだと受け入れたときに訪れます。
喪失の主なステップ
- 現実を直視せず(否認)、古いビジョンにしがみつき、進化の必要性を認めようとしない
- 市場や顧客、あるいは自分自身に怒りを向ける
- 「なぜ以前のようにうまくいかないのか」「なぜうまくいっていたことを変えなくてはならないのか」
- 自分自身と取引を始める
- 「料金を下げれば」「もっと長時間働けば」きっと状況はよくなるはずだ、と考える
- 悲しみや無力感に押しつぶされる
- 失うことへの恐れが完全な麻痺を生む
私自身、2016年に二つ目のサロンを失った際、この過程を経験しました。神経科学と自律神経の調整に出会ったことで、物事の捉え方が変わり、変化を受け入れられるようになったのです。
感情に呑まれたときに残された三つの選択肢
感情に押し流されると、自律神経は三つの反応しか残しません。
- 固まる:「無力感を抱き、ただ状況に流される」
- 反応する:「恐怖に抗う行動に出るか、逃避に走る」
- つながる:「安心と調和を感じ、自分に沿った決断をする」
外部の出来事に対して固まったり反応している間は、創造も進化も落ち着いて行うことはできません。 「生き延びる」か「戦う」かのどちらかであり、「自信を持って進む」ことはありません。理想的なのは、自分自身や自分のニーズ、他者、そして外部環境とつながる状態です。
サロンを守る発想から育てる発想へ―認識を変えて行動に移す考え方
赤ちゃんは責任を抱えて守る存在ですが、プロジェクトは顧客とともに進める冒険です。サロンを自己同一化しすぎると、自らを閉じ込めてしまいます。顧客と共有する使命感を持ち、自分を超える大きなつながりを築く必要があります。
自分に問いかけてみてください。
- なぜ顧客は私のもとに来るのか
- どのように私たちの人生が交差しているのか
- 私が彼女たちに伝えるべきものは何か
こうした問いに答えていくことで、今あるものを超える存在をつくり上げることができます。そのとき、失敗や未来を恐れる必要はなくなるのです。
これは私の研修プログラムの対面講座で取り組んでいるテーマでもあります。なぜなら、こうした恐れこそが前進を妨げる最大の要因だからです。
サロンは守るべき赤ちゃんではなく、構築し、成長させ、躍動させるべきプロジェクトなのです。事業は守ることで成長するのではありません。力強く推し進めることでこそ成長していくのです。