9か月前にカナダの太平洋岸に位置するバンクーバーに到着したとき、ここでこれほどまでに「ウェルネス」が熱心に受け入れられているとは予想していませんでした。特に私が注目したのは「ウェルネスクリニック」と呼ばれる施設で、予防医療とホリスティックな健康づくりを組み合わせた新しい形態です。
それでは、フランスのスパが収益性を高めるために、カナダから取り入れるべき優れた実践例はあるのでしょうか。
予防意識と自然環境が支えるカナダのウェルネスライフスタイル
カナダのウェルネスクリニックを理解するためには、フランスと比較した際のマッサージの位置づけを把握することが欠かせません。
マッサージの専門家にとって、カナダはまさにカルチャーショックといえます。フランスでは「ウェルネス」中心のアプローチが一般的で、スパに関する教育は評価が低く、給与水準も高くありません。それに対してカナダは全く逆の状況です。
カナダではマッサージは正真正銘の治療行為として位置づけられており、一部の施術は顧客のベネフィット(フランスの相互保険に相当)によって補償されることもあります。ただし、その条件は施術者がRMT(Registered Massage Therapist、登録マッサージセラピスト)であることです。
この資格を得るには、全日制2年間の学習、クリニックでの実習、専門的な解剖学の知識習得、そして一定時間の施術経験が求められます。規制は州ごとに定められており、ケベック州では1800時間、ブリティッシュコロンビア州では3000時間が必要です。その結果、高い専門性を持つマッサージセラピストが多く輩出されており、彼らは主にウェルネスクリニックでフリーランスとして活動しています。そして非常に高い収入を得ているのです。
なぜカナダではウェルネス文化がこれほど重要なのか
バンクーバーの街を歩いて1平方キロメートルあたりに存在するウェルネスクリニックの数を数えれば、フランスと比べてカナダ人の生活習慣の中に「ウェルネス」が深く根付いていることがすぐに分かります。これにはいくつかの理由があります。
予防を重視する考え方
カナダ人は健康問題を避けるために予防の恩恵を重視しています。そのため、伝統的な中国医学の施術者を見つけて相談することはカナダでは非常に一般的です。ヨーロッパでは依然として「エキゾチック」、つまり「本物の愛好者だけが利用する」方法と見なされがちですが、カナダでは広く受け入れられています。さらに、この分野の施術は多くのベネフィット(フランスの相互保険に相当)によって補償されます。
恵まれた自然環境
広大な自然を持つカナダでは、屋外活動や自然とのつながりが促進されています。友人と一緒にアクティブウォーキングを楽しんだり、夏の朝6時に海辺で犬を散歩させたりと、アウトドアはカナダにおいて一種の宗教のように根付いています。自然は常に身近にあり、特にバンクーバーではこの傾向が顕著です。ここ数年、住宅賃料が急騰しているのも、海辺からダウンタウンのビジネス街、さらには市内の「緑の肺」と呼ばれる面積4平方キロメートルのスタンレーパークまで、徒歩20分で移動できる都市だからです。
多文化社会がもたらしたウェルネスの伝統
カナダは移民国家であり、世界中からの活力を受け入れてきました。インドとカナダが同じくコモンウェルスに属していることは、インド移民の流入を容易にし、彼らはアーユルヴェーダの伝統を持ち込みました。また、バンクーバーでは大量の中国人移民の到来によって、鍼灸や中国伝統医学の提供が高度に発展しました。予防を重視して健康を維持したいと考える人々にとって、これらは新しい実践を知る絶好の機会となっています。
公共および民間投資
屋外・屋内の市営プール、森林のアスレチックコース、都市型フィットネス器具など、無料で利用できる施設が数多く整備されています。バンクーバーには予約不要で自由に利用できる屋外テニスコートが何十面もあります。ただしルールは一つ、プレー中に次の利用者が到着した場合、30分以内に試合を終えて待たせないことです。こうした公共施設に対するカナダ人の自律性と尊重の精神が維持を支えています。さらに、無料かつ完全オンラインの団体も存在し、高齢者が経済状況や移動の制約にかかわらず、自宅からスポーツや文化活動に参加できる環境を整えています。
身体に耳を傾けるライフスタイル
カナダ人は日常生活の中で自然にウェルネスを取り入れています。勤務時間は明確に定められており、多くの管理職やマネージャーでさえ午後5時に仕事を終えることが一般的です。そのため、ランニングやスポーツを行う時間を確保できます。多くの集合住宅には共用スペースにジムが設置されており、その利用料や維持費は家賃に含まれています。天候や営業時間を言い訳にせず、誰もが運動できる環境が整っているのです。さらに、成果主義を基盤とした完全リモートワークが今も広く行われており、パソコンの前に強制的に座るのではなく成果で評価されるため、自由な時間を確保して運動に充てることができます。
医療とウェルネスを融合したカナダの多分野型クリニック
北米特有の形態
ウェルネスクリニック、すなわち「ウェルネスのためのクリニック」とは、健康全般を目的とした多分野型の施設で、顧客は生活の質を向上させるために個別にサポートを受けられる場所です。ここでいう「クリニック」という言葉は、フランスにある同名の大規模な医療機関を意味するものではありません。共通点があるとすれば、やや冷たく中立的な内装程度でしょう。
実際、これらの施設はフランスで一般的に見られるホテルスパの「華やかさ」や「美的」な雰囲気とは大きく異なります。受付や施術室に至るまで、空間は質素で、施術室は小さめ、ベッドも快適さを追求したものではなく、家具も簡素です。しかし、本質的に重要なのは設備そのものではありません。
また注目すべき点として、これらの施設にはサウナ、ハマム、プールといった「娯楽」としての湿式設備は備えられていません。
つまり、ウェルネスクリニックは医療、準医療、そしてウェルネスケアを統合的に提供する場であることが特徴です。その理念は、カナダのライフスタイルに根付いた予防とバランスの取れた生活習慣の推進に基づいています。フランスはまだこの「ウェルネス成熟度」に到達してはいませんが、毎年少しずつその方向性に近づいており、こうした施設の動向を注視する価値があります。
医療・準医療・ウェルネスを組み合わせた本当のホリスティック提供
ウェルネスクリニックには、多様な医療・健康分野の専門家が集まっています。
- 一般医や専門医(特に機能医学を軸とするケースが多い)
- ナチュロパシー医(自然療法を通じて健康を支える専門家で、4年間の学習が必須)
- フィジオセラピスト(フランスにおける理学療法士に相当)やオステオパス(骨格・筋肉系の課題に対応)。フランスと違い、ここでは一般医の処方箋なしで直接利用できます。
- 栄養士や食事指導の専門家によるパーソナルな栄養アドバイス
- マッサージやホリスティックケアの専門家(マッサージセラピスト、リフレクソロジスト、レイキ施術者など)
- 心理士やメンタルヘルスコーチ(精神的なウェルビーイングに特化)
一般的には、最初の来院は特定の目的に基づきます。例えば「腰痛を和らげるためにマッサージを予約する」といったケースです。その後、施術者や受付スタッフと相談する過程で、全体のケアプログラムに精通した彼らの提案によって、別の専門家への予約へと自然に広がることがあります。これが大きな特徴の一つといえます。
施設が「成功を収めた」といえる瞬間
顧客が「どのような健康問題(身体的・精神的・感情的)であっても、まずはこの場所で解決策を探すことができる」と理解したとき、その施設は真に成功したといえます。
フランスのスパとカナダのウェルネスクリニックにおける根本的な違い
カナダの科学的・予防的アプローチと、フランスにおける限界
カナダのウェルネスクリニックが持つ包括的で医療的かつホリスティックなアプローチ、そして提供される施術の多様性は、両国の大きな違いです。フランスのホテルスパは、主にフェイシャルやマッサージに特化しており、先進的な施設でもレイキ、催眠療法、バッチフラワーなどをリクエストベースで提供する程度にとどまります。こうした施術はごく一部の専門施設を除けば依然として稀であり、医療的な相談は完全に排除されています。これに対し、カナダのウェルネスクリニックはより科学的で予防に重点を置いているのです。
よりダイナミックなビジネスモデル
カナダの医療志向と多分野的な強みには、さらにダイナミックなビジネスモデルが加わります。一部の施術は従業員のベネフィット制度により直接請求されるため、顧客は前払い不要で受けられます。さらに、多様なサブスクリプション制度を導入しており、一度限りの収益だけでなく、安定的な月額収益も確保しています。結果として、単発の施術販売に比べ、顧客単価は大幅に上昇します。
固定費を抑えた運営
フランスのスパ、特にホテル内スパは今なお単発利用に依存しており、安定的な収益基盤に欠けています。そのため再投資の余力も限られます。さらにスタッフ(受付や施術者)の給与が固定費として重くのしかかります。対して、ウェルネスクリニックは基本的にフリーランスと契約します。彼らは週に数日キャビンを借りるか、あるいは固定賃料を避け施術ごとに一定割合をオーナーへ還元する形を選びます。いずれにしても、クリニック側には大きな固定費が発生せず、フランスのスパが直面する給与負担から解放されているのです。
カナダ型ウェルネスクリニック ― フランスにそのまま導入できない理由
この北米型施設は、医療とウェルネスを組み合わせたホリスティックなビジョンを体現しており、フランスの業界関係者や投資家が長年目指してきた姿そのものです。しかし、いくつかの要因が全国レベルでの導入を阻んでいます。
- 法的枠組み:フランスの法律は、医療職と非医療職の同一空間での協働を制限しています。
- 予防意識の不足:フランスでは病気になってからケアする文化が根強く、予防は十分に浸透していません。
- 初期投資の高さ:運営コストは抑えられる一方、多分野施設を立ち上げるための投資額は大きくなります。
- 異なるメンタリティ:フランスでは「ウェルネス=贅沢」と捉えられがちですが、カナダでは「必要不可欠」と考えられています。
1
2