日本の高度医療海を渡る(下)~健康・医療戦略ファンド創設検討へ
2013.11.29
編集部
コンソーシアムを組んでプロジェクトを具体的に推進する際、医療機関や医療関連企業は、金融機関からの借り入れで資金を手当てするなど資金面が大きなネックとなっている。このため政府は、内閣官房が中心と なって「健康・医療戦略ファンド」(仮称)の創設や政府系金融機関によるファイナンス支援の拡充などの検討を始めた。金融面からのテコ入れを図ることで、 医療のアウトバウンドを含む民間の国際展開に繋げる狙いだ。
背景には、医療、医薬品、医療機器を戦略産業として育成し、日本経済再生の柱とすることを目指す━という政府の狙いがある。そのため、政府は今年2月「健康・医療戦略室」を内閣官房に設置 し、厚生労働省、文部科学省、経済産薬省など府省横断型の推進体制を組んだ。その中で、医療機器・サービスのアウトバンドを戦略の重要な柱に位置付け、医療途上国対象に日本式の病院や医療センターを現地に設立し、日本の高度医療の現地化を官民連携で加速。同時に、日本製の医療機器や医薬品、医師、看護師などをパッケージ化して輸出することで、医療産業の国際競争力を高めることにした。
政府の政策に呼応するように、民間の動きも活発だ。例えば、加速した粒子をがん細胞に集中照射する粒子線装置システム(陽子線、重粒子線)の海外受注に向けた動きが目をひく。粒子線装置は、一般的な放射線治療と比べて正常細胞を傷つけにくいことや副作用のリスクが小さいのが特徴。すでに国内では30の医療施設が粒子線装置システムを導入している。
国内に加えて海外でも受注拡大につなげようと東芝は、2013年5月にアルクドラホールディング社とアブダビ首長国向け重粒子線がん治療施設の事業化(フジビリティスタディ=FS)に関する覚書を締結した。また、マレーシアのデベロップメント社(IMDB)ともFS契約を交わした。現在、調査結果に基づき重粒子線がん治療装置の導入に適した施設の選択などに入っている。
住友重機械は、住友商事と共同で、陽子線装置や断層撮影装置などの先進医療機器についてロシア・モスクワ、ウラジオストクで受注促進に向けた情報収集活動を行なっている。
日立は、ロシア最大級の民間病院「ヨーロッパ医療センター」と国立「ブドケル核物理学研究所」の間で、粒子線装置の施設建設に関する協定を結んだ。
特に、4社(東芝、日立、住友重機械、三菱電機)が粒子線装置の受注に食指を伸ばしている案件としてロシア・モスクワに開設する「日ロ先端医療センター」(仮称)プロジェクトとカザフスタンでの「がん診断センター」の2プロジェクトがある。
「日ロ先端医療センター」のプロジェクトは、がんを撲滅する陽子線装置導入による治療が主軸でサイクロトロン1基と任意の方向から粒子線照射が可能なガントリー2基を導入する計画。
粒子線装置のシステム受注規模は、数百億円にのぼることから各社の受注に賭ける期待は大きい。また、前述の4社は、2プロジェクト案件とは別に、我が国に技術協力を要請してきたUAE・アブダビに開設する「日本・UAE先端医療研究センター」の重量子線受注にも熱い視線を向ける。
同先端医療研究センターは、アブダビ政府がファンド協力、日本がファイナンス融資を行なって建設する。内視鏡治療センターや消化器治療センター、重粒子線センターを設置し、内視鏡、消化器などの機器導入を先行して行い軌道に乗った段階で粒子線装置導入によるがん治療を始める計画。重粒子線装置は、加速器(サイクロトロン)1基と任意に回転しながら照射するガントリー2基を導入する計画。受注額は、数百億円にのぼる見込みで、各社の受注に賭ける意気込みは大きい。