各科で漢方薬処方増え、安易な併用は避けるべき
2015.10.27
編集部
日本漢方生薬製剤協会(東京都中央区)主催の第18回市民公開漢方セミナー「漢方の得意な病気」が26日、都内で開催され、講師として登壇した東京女子医科大学 東洋医学研究所 教授の伊藤隆氏は、漢方薬の処方が増えてきている現在、複数の科から処方されるケースが考えられることから、「安易に2~3剤の漢方薬を併用しないこと」と注意を喚起した。
同セミナーでは、病体を見る上で漢方独自のキーワードとなる“気血”を中心に、症例と処方などを紹介。漢方で言われる“気”は、「わき上がる上昇気流」とたとえられ、心と身体をめぐっていると病気にならない。ところが何らかの原因で“気”は、“気虚”“気滞““気逆”という病体になることがある。このうち身体がだるい、疲れやすいなど“気虚”となった場合の代表方剤として、補中益気湯、六君子湯があるとした。
この2方剤は、五臓の中の“脾”の気が虚した“脾虚”の場合に用い、「脾」は現代医学的には消化吸収系統を指す。また、“腎”の気が虚した“腎虚”には八味地黄丸を用いる。“腎虚”は「男性では40代以降、女性では60代以降に見られるという統計データがある」(伊藤氏)という。
補中益気湯は、手足倦怠、言語に力がない、目の光が鈍く力がない、などの症状を使用目標としているが、「胃下垂などが良くなる人もいる」(伊藤氏)といい、骨盤に胃が垂れた56歳男性の症例を紹介した。
胃下垂だけにとどまらず、アレルギー性鼻炎の10歳男子に小青龍湯などと併用した症例や、慢性腎不全の68歳男性に投与して効果を得た症例も紹介。中でも慢性腎不全の症例については、「補中益気湯を飲んで2年以上透析の導入を延期できた」(伊藤氏)として、透析医療費の削減につながると強調した。
また、“気”と“血”が同時に虚した“気血両虚”には、十全大補湯や人参養栄湯を使用。中でも十全大補湯は「ガンで広く使われており、術後の転移予防や元気がなくなったときに飲む」(伊藤氏)。具体的に、乳がんの後傷の治りが悪い49歳女性に投与して有効であった症例や、そのほか学会報告の症例を紹介した。
一方、漢方薬を飲む上で気をつけるべき点についても言及。約90%の医師が臨床で漢方薬を処方している現在、各科で漢方薬が出されることが想定される。「漢方薬の7割以上に甘草が入っているが、甘草は血圧上昇や低カリウム血症などの副作用がある。複数処方されると、自ずと甘草の服用量が多くなってしまう」(伊藤氏)として、安易に複数の漢方薬を飲むことに対して注意を促した。
当日は、会場からの質問にも対応。漢方薬が苦くて飲みにくいとの問いに対しては、「苦い薬は自分に合っていない場合がある」(伊藤氏)といい、身体が欲するものは苦くないとの認識を示した。また、「お湯に溶かすことで揮発性有効成分が効く」(同氏)といい、匂いも有効に働くとアドバイスした。
このほか、「虚証向けの薬と実証向けの薬を一緒に飲むとかえって効かない」(伊藤氏)と指摘。また、身体を温める薬と冷やす薬の併用も避けるべきだと強調した。
- 参考リンク
- 日本漢方生薬製剤協会