【連載】化粧品が起こすイノベーション・この技術に注目⑩リコピンナノ化技術、富士フイルム「ナノリコピン」開発(上)

2020.03.16

特集

編集部

トマトなどに含まれ、美容効果が高い健康成分「リコピン」をナノ化して化粧品に配合する技術を富士フイルム株式会社(東京都港区)が開発した。リコピンとは「カロテノイド」の一種であり、トマトやスイカ、柿などに豊富に含まれる赤色色素である。活性酸素の消去能を有していることで知られており、抗ガン作用や糖尿病改善作用などの健康作用もあるなど優れた化合物といえる。

深紅色をした天然色素リコピンは、動植物等に含まれるカロテノイド色素の一種。体内の活性酸素を消去する働き「抗酸化作用」があることで注目を集めている。
抗酸化作用とは、体内の活性酸素を消去する働きのことを言う。活性酸素は、普通の酸素に比べ、酸化力が強い酸素のこと。元々は、人間の体内に侵入する細菌などを退治する一方、科学物質を無毒化する役割を持っている。

ヒトの皮膚は、加齢や、強力な紫外線を浴びることによって酸化ダメージ(活性酸素の影響)を受け、それがシワやシミなどの原因となってしまう。酸化ダメージから身を守るため、本来、ヒトは生体内で抗酸化成分を産生する機能を備えてはいる。しかし、その機能も加齢と共に弱まってしまうため、年齢と共にシミやシワなどが増えてしまう。

しかし、その強い酸化力は「両刃の剣」ともなり、体内で活性酸素が過剰になると、身体の正常な組織まで傷つけてしまう。リコピンはこの活性酸素を消去する作用が強く、がんや老化などの予防に効果がある、ことでも注目されている。だが、リコピンは、分解しやすい不安定な化合物であり、また結晶性が高いという特性を持つ。
理想としては安定的にナノ化することが効果の面から望ましいが、これまで実現されてこなかった。光や熱にデリケートで、化粧品に配合するには高い壁があった。

そこで、同社は、結晶化しやすい性質を制御し、独自の技術で世界最小クラスの70nmまで安定的にナノ化した「ナノリコピン」の開発に成功。同時に、複数の成分を組み合わせて複合的に安定性を保つ技術も開発した。
同社がナノリコピンの研究で着目したのは、生体内に存在する抗酸化成分の産生を促進するといわれるタンパク質だ。
このたんぱく質は、通常、細胞中の細胞質に存在する。しかし、酸化などのダメージを受けるとたんぱく質は、細胞の核内へ移行し、一連の抗酸化遺伝子群の発現を誘導して種々の抗酸化成分の産生を促進するという仕組みだ。

同社は、リコピンが、ヒト皮膚細胞において核中タンパク量を増加させ、生体内抗酸化成分である「グルタチオン」(3つのアミノ酸=グルタミン酸、 システイン、グリシンから成るトリペプチド=アミノ酸3個でできたコラーゲンの最小ユニット)である合成酵素(二つの分子を結合させる反応を触媒する酵素の総称)遺伝子発現を誘導すること。また、細胞内のグルタチオン量を増加させることを新たに見出した。さらに、長年蓄積してきたフィルム技術をベースに、高い抗酸化能を有する「アスタキサンチン」(優れた抗酸化力を有する色素物質)とリコピンを共存させるなどさまざまな有用成分を独自技術で安定的にナノ化し、浸透を高めることに成功。アスタキサンチンの抗酸化能の持続性を向上させることも実現した。

#

↑