【連載】再生医療ビジネスが勃興(1)再生医療ビジネスが勃興

2013.04.30

特集

編集部

細胞シートで目や食道、軟骨などを再生

細胞をシート状に培養して機能障害の解消や臓器を再生させる細胞シートが再生医療製品として浮上してきた。すでに医療ベンチャーを中心にヒトの皮膚や軟骨などを取り出して人工的に培養・加工した細胞シートを病院や研究機関に販売を始めるなどiPS細胞と合わせて「再生医療ビジネス」に弾みがつくのは必至の情勢。

細胞シートは、食道、軟骨、心筋などの細胞を大腿部、粘膜などから採取し、生体外で調整、培養、加工してシート状にして損傷した部位にシートを貼ることで、傷んだ組織を組成・再生させるもの。iPS細胞と同じ再生医療製品に挙げられ細胞シートは、東京女子医大岡野光夫教授が世界に先駆けて開発した。岡野教授開発の細胞シートは、培養皿と細胞シ―トの間に温度応答性に優れた高分子を挟んで高分子を固定化し、温度変化をコントロールすることで、酵素を使わずに細胞接着と剥離が安全にできる無傷の細胞培養シ―トを実用化した。現在、細胞シートの大量生産技術の開発を進めている。

岡野教授が取締役として技術開発に当たるバイオベンチャーのセルシード(2001年5月設立、ジャスダック上場)は、細胞シート(写真)を錦の御旗にして再生医療ビジネスに参入した。現在、細胞シートの開発・販売を行う再生医療事業と培養器材の開発・販売を行う再生医療支援事業の2事業をメインに国内、海外事業を展開している。

同社は、これまで、移植時に縫合が一切必要ない角膜、食道、軟骨、心筋、歯周組織など5つの再生細胞シートを開発(2012年6件の国内特許成立)し市場投入。同時に、角膜再生上皮シートについて欧州、イスラエル、オーストラリアなどで販売提携するなど海外展開に乗り出している。また、培養器材の開発・販売を行う再生医療支援事業に関してフナコシ、島津ジーエルシ―、和光純薬工業と相次いで代理店契約を交わし、病院や医療研究機関向けに販売を始めている。さらに、東京女子医大、大阪大、東海大と提携して細胞シートを患者に移植し、機能再生や臓器移植の臨床試験を始めるなど委託研究や共同研究を加速させている。

同社の2013年12月期業績(連結)は、米エマウス社との事業提携に伴う一時金の収入で売上高5億円(前期7500万円)、営業利益▼2億4500万円(同▼8億4000万円)、当期利益▼2億3000万円(同▼9億1000万円)と増収減益を予想。先行き、細胞シートの生産自動化システムの開発など先行投資による資金需要が膨らむ。売り上げ確保を狙って化粧品の販売にも乗り出している。
ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC・ジャスダック上場)も参入した。

同社は、2010年に富士フイルムホールディングスが株式の41%を取得した持ち分適用会社。生きた人間の細胞を使って組織や臓器を人工的に作り出すティッシュエンジニアリングを標榜し、ヒトの細胞と人工的に作られた材料、生理活性物質の3つの要素を有機的に組み合わせて開発した再生医療製品の自家培養表皮「ジェイス」(商品名)を2007年10月に厚労省から製造承認を取得。続いて2012年7月に自家培養軟骨「ジャック」(同)の製造・販売を取得し、公的保険の適用(2013年4月)を受けた。ジャックの保険償還価格(薬価)は、208万円に決定。

こうした再生医療製品の製造・販売承認と公的保険の適用に伴い同社は現在、病院や医療研究機関などをターゲットに販売攻勢をかけ収益の向上に打って出ている。ここへきて京大iPS細胞研究所に細胞を増殖させる自家培養シートの提供を行った。

2015年3月期の全社売上高(連結ベース)は、再生医療製品の販売が奏功して2013年3月期比2倍増の約13億円から20億円に膨らむ見通し。

日立と産業技術研究所、北大の三者は「ナノピラ―細胞培養シート」と呼ぶ微細加工技術(ナノインプリント技術)を使った細胞培養シートを開発した。ナノインプリント技術は、微細な凹凸のある型を樹脂に押し付けて成形する加工技術でナノスケールの構造を安価に製作でき培養条件に合わせて培養シート上のナノピラ―構造の外観設計や材質を変更することができる。
だが、現在の細胞シートは、単一組織でゲル状、シート状が多い。患者の組織細胞は、複合的に欠損していることから効率よく再生させるためには、3次元形状の細胞シートが必要。

帝人やグンゼは、培養技術、高機能人工素材、三次元診断、三次元複合組織(再生骨、再生軟骨、複合型再生皮膚)の作製技術に取り組んでおり人工臓器の実用化に繋げる。

現在、細胞シートなど再生医療製品、再生医療機器などのビジネスに参入した企業は、iPS細胞の作製受託、創薬開発などに参入した国内企業80社に比べて約20社程度と少数の状況。今後、iPS細胞の治験、臨床の進展や細胞シートの大量生産技術の確立などに伴い細胞シート再生医療製品の需要拡大も上昇傾向を辿ろう。

図1

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