【連載】化粧品・美容関連ベンチャーの考証⑦VCとベンチャーが金の呪縛を巡って軋轢
2017.03.15
編集部
「赤字でも上場できる」事を歌い文句に開設されたベンチャー向け市場の第二店頭市場(特則市場)は、一般投資家から信任が得られず買い手不在の状況に陥った。
このため、日本証券業協会は、1998年に店頭市場の改革に踏み切った。店頭市場での株式の流動性を高めて流通量の少ない銘柄も取引できる事を狙いに、それまで株式取引に採用していた競争売買取引から新たに証券会社が常時、売りと買いの気配値を提示して投資家の注文に応じる「マーケットメーカー制度」(*注釈)を導入。また、本則市場と特則市場の二つに分かれていた店頭市場について、本則市場を一般企業向けの第1号基準に変更。同時に、ベンチャー向け第二店頭市場を第2号基準として株式公開する企業が自由に選択できるように改革した。この改革により同年12月に第二店頭市場を廃止した。
1998年度末時点での店頭登録企業数は、868社(店頭管理銘柄含む)を数え、その内の約半数が社歴10年以上、社員300人以下の中小企業で占められるなど実態面で、ベンチャーの上場市場登竜門としては活力に欠けた。
第二店頭市場廃止とともに、銀行、保険、証券系列のVCの整理、撤退が進み、それまで250社あったVCが160社程度にまで急減。また、VCの投資も1996年をピーク(投資額2318億円)に1997年1721億円、1998年1220億円と大幅に減少した。さらに、バラマキ型補助金の代名詞「中小創造法」の認定企業件数も1998年度(認定件数1467件、補助金予算額2884億円)、1999年度(同1543件、同2676億円)の2年間をピークにそれ以降、認定件数、補助金予算額とも減少傾向を辿った。
こうした中でVCは、出口戦略として投資先のベンチャーが株式公開することで株価収益を得るハイリターンを狙って上場を目指すベンチャーに集中投資を行った。
ところがこの出口戦略が狂って投資を行ったVCと投資を受け入れたベンチャー企業との間で金の呪縛による軋轢が全国レベルで吹き荒れた。
株や不動産バブルがはじけた1991年に金の呪縛による軋轢の動きが見られたが、1998年にこの軋轢を巡る動きが一挙に噴出した。
VCから投資を受けたベンチャー企業は、事業の成長による配当や上場をVCに約束して投資を受け入れ、合わせてVCから役員派遣を受け入れる。一方、VCもベンチャーの株式公開による株価収益を期待して投資を行った。しかし、ベンチャー企業が思い通りに事業収益が上がらず事業を頓挫。この結果、VCは、投資資金の回収不能に陥りベンチャー企業の株式をベンチャー経営者に買い戻しを請求するとともに、ベンチャーの株式を第三者に売却するなど金の呪縛による軋轢が起きた。
VCがベンチャー企業に投資するということは、ベンチャー企業の株式を取得して株主になることを意味する。VCは、株主としてベンチャー企業の経営に関与し役員を送り込んで業績等の計数を管理する。
ベンチャー企業は、VCから投資を受けた段階で、資本と経営の分離を明確に意識しなければならない。つまり、ベンチャー自らが作った会社とはいえ、VCの資本が入ることで、経営の実行支配は、資本家のVC側にあり代表者はVCに経営資源についての許認可を取りながら経営を行うことになる。特に、ベンチャー企業の業績が不振であればあるほどVCの軋轢は増す。
*注釈
マーケットメーカー制度
金融商品市場における取引方法の1つ。特定の銘柄に関して一定量の在庫を持ちウチネと買値を参加者に提示して売買に応じる証券業者のこと。2008年3月に同制度は、廃止された