【連載】化粧品・美容関連ベンチャーの考証⑭経営革新事業認定に付加価値額を導入、補助金制度乱立
2017.04.5
編集部
化粧品業界にとって1999年は、美容ベンチャーで口コミサイト事業を行うアイスタイルやドクターシーラボなどの企業が設立された。特に、美容ベンチャーのアイスタイルの事業展開は、美容業界にとって初のベンチャー企業として口コミサイトの先頭を走る時代の寵児として一躍、期待が高まった。
こうした中、経済産業省・中小企業庁は、新事業創出促進法を施行(1999年2月)して間もない1999年7月に中小・ベンチャー支援法「中小企業経営革新支援法」(*注釈)を施行した。
同法は、新製品や新規サービス開発などによる企業活動の全体像を経営革新計画で把握するとともに、企業が生み出す収益を付加価値額で評価することで、中小企業の経営基盤を強化し併せて国の税収や雇用拡大、景気回復に繋げる狙い。
同法を根拠に中小企業が新製品・新技術開発や販売、新サービスの開発・提供などの経営革新や新規に第二創業として取り組む事業に対して補助する制度。
これまでの法律を根拠とした補助金交付を中心とした金融支援制度と変わらない。が、目新しい点は、補助金(総経費の3分の2補助)交付するに当たって中小企業に対し、経営目標として付加価値額(*注釈)の目標伸び率と一人当たりの付加価値額、経常利益の伸び率を盛り込んだ3年から5年の経営革新計画(経営計画)を立案させて評価・認定する。
同革新計画を立案して都道府県に申請し、知事承認を得て補助金交付が決定する。
同計画を立案する際、ポイントとなる点は、経営の目標として既存事業と新規事業を合算した付加価値額の目標伸び率と一人当たりの付加価値額伸び率のいずれかを5年計画で15%以上、経常利益の目標伸び率を5%以上に設定して立案することを申請の主要条件としている。また3年計画の場合、付加価値額の伸び率5%以上、一人当たりの付加価値額の伸び率を3%以上に設定して記載することが要件。
経営革新計画が認定された中小・ベンチャー企業に対する支援策として、研究開発補助金交付(国と都道府県が各3分の1補助)に加えて、民間のVCがファンドを運営し中小基盤整備機構(中小機構)がファンドに出資して設立したベンチャーファンド(投資事業有限責任組合)と中小投資育成㈱からの投資及び政府系金融機関による低利融資、高度化融資などの金融支援や中小機構主催の展示会(中小企業総合展)出品への機会付与による販路開拓支援及び特許審査請求の半減措置、設備投資減税などが適用される。
こうした支援策を含めて中小・ベンチャー企業の経営革新計画に弾みを付けるため中小企業庁は、全国9つのブロックに設置した中小企業・ベンチャー総合支援センターや商工会、商工会議所などの官益組織において同計画書作成のアドバイスを行うなどの支援体制を組んだ。
「中小企業が経営革新計画を立案するのは難解。それでも補助金が欲しい」と言う中小企業の声を反映して、税理士、中小企業診断士、コンサルタントなどが“自分たちの指導領域”と勝手に主張しながら、全国各地で中小企業経営者向けの経営革新セミナーを開き同計画の立案・作成を個別に有償で請け負う動きが広がった。
経営革新計画の承認件数(全国)は、1999年度だけで1348件にのぼった。だが、1999年時点で、同法を含めて中小創造法、新規事業創出促進法を合わせて3つの中小・ベンチャー支援法に基づく研究開発補除金制度が乱立し、中小・ベンチャー企業の間から「同じ補助金で何が一体どう違うのか」と言う悪評が湧き起こった。また、「経営革新に付加価値額を採用する意味がどこにあるのか。計画申請書を記載する事自体、中小・ベンチャー企業にとって複雑で難解すぎる。全体にお墨付き申請書の簡素化、補助金交付の審査・評価基準を簡素化し研究開発補助金制度を一本化すべきだ」との声が高まった。
*注釈
中小企業経営革新支援法(経営革新法)
1998年制定の新事業創出促進法と1999年制定の近促法、新分野法を統合して制定した。ベンチャー企業や中小企業等が経営革新計画を作成して都道府県に提出し、承認を受けると
①国民金融公庫、中小金融金庫など政府系金融機関からの低利融資
②信用保証の特例
③特許料などの減免措置
④中小企業総合展の展示・出店補助
⑤販路開拓支援など
付加価値額
企業が一定期間に生み出した利益。経営向上の程度を示す指標。営業利益に人件費、減価償却費を足した額。営業利益+人件費+減価償却費で算出