【連載】化粧品・美容関連ベンチャーの考証⑯SBIR補助制度、中小企業に根付かず(下)
2017.04.10
編集部
米国での中小企業政策の成功を真似て中小企業庁は、中小企業の研究開発に関わる補助事業「日本版SBIR制度」を打ち出した。
同制度は、中小企業向け研究開発資金をSBIR特定補助金(補助金と委託金に区分)に指定し、総務省、国土交通省、内閣府、警察庁、経産省など7省庁が参画してスタートした。総務省に省庁横断組織「SBIR関係省庁連絡会議」を設置して、毎年、制度の運用を含めて意見を調整し、閣議に諮って交付総額を決定し、中小企業の研究開発費に特定補助金を振り向けた。
しかし、日本版SBIR制度は政府が年度ごとの交付額を決定するだけで、SBIR特定補助金の運用や交付は、各省庁の出先機関や各省が所管する独法に委託金を交付して運用を行った。
特定補助金を交付するに当たって各省と独立法人は、SBIR特定補助金として複数の研究開発テーマを提示し、その中から中小企業が研究開発するテーマや内容を精査した上で、研究開発計画を提出し審査・承認する仕組み。補助率は、3分の2。また、特定補助金の交付承認を受けた中小企業が事業化する場合、特許料の減免、中小金融公庫の運転資金、設備投資資金の貸付、中小投資育成からの投資などの支援を行う。
通産省が委託研究費(委託金)として支出した総額は、1999年度で1980億円にのぼる。だが、日本版SBIR制度の中味は、7省庁が縦割りで省庁ごとに行ってきた産学連携による研究開発補助事業を含む、玉石混合の補助事業であること。同時に、独法が公募する研究開発テーマが多く、中小企業がその中から選択するのに手間がかかること。また、国、独法の委託研究内容も中小企業にとって高度化し過ぎることなどから、中小企業にとって使い勝手の悪い制度となった。特に、実態面で委託金の交付先のほとんどが大学のTLOを介した研究機関や大手・中堅企業に選定して交付するなど、中小企業にとっては縁遠い存在となった。日本版SBIR制度は、PR不足も含めて制度や運用の問題を抱えながらの船出となった。
言って見れば、我が国のSBIR制度は、7省庁が個々に行っている補助事業をSBIRの傘に全て組み込み、中小企業の技術革新に政府が一丸となって取り組んでいることを対外的に誇示したに過ぎない。裏を返せば、7省庁が縦割りで個別に行っている委託・補助事業をSBIRの傘にぶち込み、中小企業の技術革新制度として声高に叫びながら補助金をばらまく構図だ。しかも同制度の成果検証がどこにも見当たらない。
このため、多くの中小企業は「日本版SBIR制度と特定補助金制度の関係が難解で掌握しづらい。何が中小・ベンチャー支援策なのか、段階的支援と言っても支援の中身が分からない」と酷評の体。
日本版SBIRの問題として、国と独法が公募・認定する研究開発テ―マは、国として重要な技術に位置付けているハイレベルの基盤技術で占めているため、中小・ベンチャーの製品開発テーマや事業化テ―マと乖離していること。同時に、国や独法が認定した委託金交付先は、大手・中堅企業で占められ、SBIRの本来の目的である中小企業の技術開発力の強化は、運営面で形骸化した。さらに、特定補助金を受けて開発した新製品を各省庁が購入する政府調達も色あせて見るべき成果が出ないなど問題点を抱えながらSBIRの看板だけが独り歩きする状況が続いた。