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Grand-Hôtel Four Seasonsに学ぶ、ラグジュアリースパにおけるウェルネス・リトリート導入の実践事例


日常生活におけるウェルネスへの関心が高まっていることに加え、自分自身と向き合う時間を求めるニーズと、施設側の収益性の確保という経営的要請が重なり、多くのホテル運営者が「ウェルネス・リトリート」の開催に注目するようになっています。

ウェルネス・リトリートとは、参加者が心身を整えることを目的とした滞在型プログラムであり、スパ施設にとって新たな価値を提供するとともに、施設の利用率やサービス単価の向上を図る有効な手段となります。このようなリトリートの企画・運営は、単なる施術サービスの提供を超えた「体験の創造」として捉えられ、今後のホスピタリティ業界において大きな可能性を秘めています。

ウェルネス・リトリートの基本と導入事例

この取り組みの原理は至ってシンプルです。参加者がホテルに滞在しながら、ヨガや瞑想、気功といったウェルネスをテーマとしたプログラムに取り組むという構成です。滞在中はホテルに宿泊し、食事を取り、さらに施術やマッサージも受けることができます。

主催者は通常、そのリトリートを指導・運営する人物であり、自らが企画の発起人として宿泊先と協力関係を築きます。ホテル側にとっては、宿泊や館内消費を行う顧客を新たに受け入れる機会となります。しかも、これらの顧客は主催者自身が集客してくれるため、ホテルとしては集客にかかる広告・販促費をかける必要がありません。

こうした好機を最大限に活かすためのヒントをお伝えすべく、Grand-Hôtel Four Seasons Cap-Ferratのスパ部門責任者であるCharlotte Cointement氏にお話を伺いました。Charlotte氏は、2013年にFour Seasons George V(パリ)のハウスキーピング部門にてキャリアをスタートさせ、2020年にはゲストリレーション部門に転属。その後スパの魅力に惹かれ、この分野に転向しました。現在は、Grand-Hôtel Four Seasons Cap-Ferratで2024年に複数のウェルネス滞在プログラムを実施しており、施設運営の視点から、その経験と実践的なヒントを共有してくれました。

成功するウェルネス・リトリート企画の実践例と組み立て方

Charlotte Cointement氏
Grand-Hôtel Four Seasons Cap-Ferratにて、複数のウェルネス滞在プログラムを実施。
── Grand-Hôtel du Cap-Ferratでウェルネス・リトリートを導入されたきっかけは何ですか?

2024年3月にGrand-Hôtel du Cap-Ferratのスパ責任者に就任して以来、私はお客様にとって忘れがたい体験を創り出すことを常に意識してきました。

私はこれまでに、アイスバスとゴングセラピーを組み合わせた4回の没入型セッションを開催しました。これらのプログラムは日帰り形式で実施し(宿泊なし)、冷却療法による活性化効果と、ゴングの音波がもたらす深いリラクゼーションを融合させたホリスティックなアプローチを提供するものでした。参加者の心と体の再接続を目的としています。

また、これらの取り組みは、ホテルの既存顧客や地域住民が将来的にウェルネス・リトリートにどの程度関心を持つかを探る試みでもありました。

ターゲットの明確化

次に、10月(閑散期)に向けたリトリート企画に取りかかりました。私は明確なテーマを設け、特定のターゲット層に訴求する構成にしたいと考えていました。その対象は、女性です。木曜の夕方から日曜の昼までの3日間にわたり、宿泊、食事、スパでの施術、ガイド付き瞑想、海を臨むヨガ、自然の中でのハイキング、そしてゴングセッションを含むオールインクルーシブ体験を提供しました。この企画のため、ホテル内のヴィラを貸し切り、他の宿泊エリアとは離れたプライベートかつ特別な空間を演出しました。

リトリートの構成方法

グラン・ホテルのような大型施設の運営は、非常に複雑です。南フランスにある多くのホテルと同様に、10月は自然と稼働率が下がります。そのため、売上を確保するためには、それぞれの立場で代替策を見出す必要があります。2024年現在、「ウェルビーイング」は明確な社会的ニーズとなっており、こうした背景から私はリトリートの導入を始めました。

初回は、以前から信頼しているウェルネス分野の専門家Marta Hobbs氏と協働することにしました。彼女はリーダーシップ・コーチ、スピリチュアル・メンター、起業家、そしてSoul Care® Meditationの創設者であり、パリですでに同様のリトリートを開催してきた実績があります。Instagramでも12万4千人のフォロワーを抱える高い認知度を誇っており、彼女との協働はこの企画に説得力を与えると考えました。テーマ設定とパートナー選定は、リトリートの成否を分ける重要な要素です。

テーマ選定の基準とは?

私にとって大切だったのは、現在のウェルネス業界におけるトレンドを正しく把握することです。当施設では、現代の多くの女性が関心を寄せる3つの課題、すなわち「ストレス管理」「睡眠の質の向上」「デジタルデトックス」に着目しました。集客につながるテーマを見つけることが基本だと考えています。

テーマは、滞在期間に応じてバランスの取れたプログラムを構成できるものでなければなりません。範囲が広すぎると体験の一貫性が薄れ、変化への期待も曖昧になります。一方で、絞り込みすぎると参加者が限定されてしまう恐れがあります。そこで私は、特別な施術、高機能な設備、ユニークなアクティビティなど、リトリートに独自性を与える要素を重視しました。

主催者選定の基準とは?

もちろん、テーマと親和性のある専門家を選ぶことが前提です。さらに、SNSやオンラインでの発信が重視される今の時代では、すでに一定の知名度を持ち、イベントに信頼性を与えてくれる人物を選ぶことが成功の鍵になります。すでにフォロワーとの関係性を築いている人物であれば、ターゲット層を的確に惹きつけることができるでしょう。

また、ホテルの客層と合致する顧客基盤を持つ人物であることも重要です。Grand-Hôtel du Cap-Ferratは高級ホテルであり、客室価格も非常に高額です。Marta Hobbs氏を選んだ理由の一つは、彼女がInstagram上でも「ラグジュアリーなウェルネス・リトリート」を専門に展開しており、その顧客層が当施設にふさわしい経済的背景を持っていると確信していたためです。

パートナー選びとビジネスモデルの最適化|リトリート運営の実際

── パートナーは一人と組むべきでしょうか?それとも複数と連携した方が良いですか?

調整という点では複数のパートナーと連携する方がスパマネージャーにとって難易度は上がりますが、やはり異なる分野の専門家同士が補完し合える構成の方が、総合的で質の高い体験を提供できると考えています。例えば、ヨガのコーチ、栄養士、特定領域のホリスティックセラピストなどの組み合わせが理想的です。

── リトリートは先行投資が必要なため、経済的リスクがあると考えるホテル経営者もいますが、実際にどのような投資をされましたか?

当ホテルでは、大きな先行投資は行いませんでした。私は、リスクの少ない報酬体系である「コミッション制(歩合制)」を選択しました。具体的には、主催者には実際に得られた売上に対して一定割合を支払う形を取りました。販売がなければ支出も発生しません。確かに、SNSやウェブサイトへのビジュアル掲載などに少しだけ時間や費用を使いましたが、必要最小限にとどめています。

さらにこのモデルでは、パートナー側も自主的に広報活動を行うインセンティブが高まります。というのも、集客ができなければリトリート自体が開催されず、当然報酬も発生しないからです。

── コミッション制以外のビジネスモデルもありますか?

はい、Four Seasonsグループ内の他の女性責任者たちに話を聞き、リトリート運営における3つの代表的な収益モデルを把握しました。

  • 100%固定報酬型:参加者数にかかわらず、主催者にあらかじめ一定額の報酬を支払う方法です。

  • ハイブリッド型(固定報酬+コミッション):少額の固定報酬を支払い、主催者の時間と労力を確保しつつ、参加者数に応じて変動報酬(コミッション)を加える方式です。参加者が多ければ変動部分が増えます。

  • 物品・サービスとの交換(バーター):場合によっては、金銭ではなく物品やサービスを報酬とする方法もあります。とくに高額にならない範囲の施術提供などは、美容業界ではよく行われている手法です。Grand-Hôtel du Cap-Ferratのような施設では、多くの人が施術を受けることを歓迎してくれます。

これらのモデルは、それぞれ異なるリスクレベルを伴います。初めてリトリートを開催する場合は、コミッション制のようなリスクの低い方式を選ぶことで、仮に参加人数が集まらなかった場合にも金銭的負担を抑えることができます。

── リトリート参加者はスパでの施術も受けますか?

はい、基本的にリトリートに参加する方々は、スパでの施術を積極的に利用されます。彼らは総合的なウェルネスや心身の回復を求めており、それらはプログラムに含まれるアクティビティを通じて得られるものです。

私たちは販売するパッケージの中に、1名につき1回のマッサージを組み込んでいますが、多くの方が自主的に2回目の施術を追加予約されていました。

── 食事については、特別な要望はありましたか?

リトリート中の食事は、レストラン部門と料理長との連携により、ホテル内部で一貫して企画・運営しました。地元産の食材を使用し、ビタミンやミネラルを豊富に含むバランスの良い食事を提供するよう努めました。

ただし、グルテンフリーや特定の食事制限、断食といった過度に制限的なテーマは避けました。私たちの目標は、ホテルのラグジュアリーなイメージと調和する、高品質な食材を使った上質で洗練されたガストロノミック体験を提供することでした。

お客様と直接会話をする中で、「ヨガのリトリートに来たからといって、種子類ばかり食べたいわけではない」という声があることにも気づきました。

ターゲット選定と販促戦略がリトリート成功の鍵に

── リトリート参加者はホテル宿泊者ですか?それとも外部の方々ですか?

テーマやパートナーの選定と同様に、ターゲットとする顧客層の設定は、ウェルネス・リトリートを成功に導くための非常に重要な要素です。

  • ホテル顧客:もし没入型で非常に高級志向のリトリートを企画するのであれば、ホテル宿泊者を対象にするのが適しています。彼らは新しい体験に対して好奇心が強く、施設のクオリティに対する期待も高いため、ウェルネス滞在に関心を持つ可能性があります。特にリピーターの顧客には効果的です。また、Four Seasons各施設で同様のプログラムがあれば、それらを横断的に体験できるという一貫性も魅力になります。
  • 地域住民:より身近で継続的なアプローチを考えるのであれば、地域住民をターゲットにするのも安定した選択肢です。遠出をせずにウェルネスの時間を確保したいというニーズがあり、週末の短期リトリートなどが適しています。その場合、宿泊を含まない料金プランの設定が必要になります。

私たちは、Grand-Hôtel du Cap-Ferratにて、複数回にわたり日帰り型のポップアップイベントを実施することで、地域の方々の関心を試す機会を設けました。まずはsoundbath(音浴)などから始め、段階的に取り組むことで、地域に見込み顧客がいることを確認できました。

── どのようにリトリートを販売・告知しましたか?

販売戦略は、リトリートを成功に導くために非常に戦略的な要素です。Four Seasonsの名があるからといって、すべてのイベントが自動的に満席になるわけではありません。

私たちは通常のスパ新サービスと同様に、次のような方法で告知を行いました。

  • リトリート情報をチェックイン時および事前の宿泊案内に含める
  • 客室内にパンフレットを設置する
  • 開催前には短時間のポップアップ型ワークショップを実施する
  • SNSや公式ウェブサイトでの発信を強化する

この広報活動を軽視すると、それまで準備してきた努力が無駄になります。集客ができなければ意味がないからです。

── フランスではホテルスパでのリトリート事業はまだ一般的ではない中、今夏に初開催されたとのことですが、振り返っていかがですか?

非常に多くの関心と前向きな反応をいただきました。参加者は8名で、大半がモナコからお越しの地元女性客でした。

また、Marta Hobbs氏の協力により、顧客およびスタッフ向けの体験の幅を広げることができました。ホテル宿泊者向けには朝のガイド付き瞑想セッション(約10名)、スタッフ向けには夜のセッション(約20名)を実施しました。さらに、リトリートプログラムに組み込まれていたゴングセッションを外部向けにも開放し、5名(ホテル客および地元の方)が参加してくださいました。

── スパマネージャーにとってのアドバイスがあればお願いします。

今回のリトリートは、当初の予定から変更を重ねたものの、多くの学びを得ることができました。

  • ホテル顧客に限定せず、外部向けにも枠を設けましょう。 宿泊による売上にはつながらないかもしれませんが、新たなターゲット層を獲得でき、将来的なリピーターにもつながります。

  • 多様なフォーマットを用意しましょう。 価格が高く内容も充実した「フルバージョン」のリトリートに加え、「サンセット瞑想」「朝焼けヨガ」「3時間のゴングセッション」といった単発型のプログラムを組み合わせることで、時間的・金銭的な制約のある顧客層にもアプローチが可能になります。

  • 「ウェルネス=顧客向け」という固定観念を見直し、スタッフ向け施策も検討しましょう。 2025年現在、スタッフ側からの需要も非常に高まっています。もし施設や講師がそろっているなら、社員向けセッションを実施する絶好の機会です。たとえ申込者がゼロであっても金銭的負担はなく、従業員満足や企業ブランドにおける大きな価値につながります。

  • イベント告知を決して軽視してはいけません。 有名ホテルブランドや人気講師がいるからといって、集客が約束されるわけではありません。Marta Hobbs氏には12万1千人のInstagramフォロワーがいますが、それでもFour Seasonsのようにウェルネス分野のイメージが強くないブランドでは、Six Sensesのような既に確立されたウェルネス型ホテルに比べて告知の難易度は高いのです。

だからこそ、繰り返しになりますが「伝える・広める・知らせる」ことが極めて重要です。


ヌーヴェル日本版(LNE)公式サイトwith美容経済新聞 2025年6月正式リリース!

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FLORENCE KOWALSKI

FLORENCE KOWALSKI

ウェルネス・コンサルタント

フランス雑誌「Les Nouvelles Esthétiques」の寄稿者であり、ウェルネス分野のコンサルタントとして活躍しています。ウェルネスやコスメティクス分野のウェブ記事編集者でもあり、美容分野でCAP資格やBTS資格を取得後、ホテルスパ業界の発展を目指してマーケティングと経営のコンサルタント会社「Spaboosting」を設立しました。顧客エクスペリエンスの向上や収益性の確保を目的とした手法を開発し、スパ収益性のエキスパートとして高く評価されています。

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