2025年8月に中国・北京で開催された「AIロボット運動会」には、日本を含む16か国から500体以上のロボットが集結した。競技の舞台裏に見えるのは、そしてAI覇権をめぐる国際競争である。ロボットの失敗すら貴重なデータとして解析され、未来市場を争う国家戦略に組み込まれる。この波は美容市場にも及びブランドが直面する「体験消費 × AI」の時代を加速させる。
中国が仕掛ける「覇権の舞台装置」
北京国家速滑館で行われた本大会は、サッカーやリレーのほか、清掃や物資搬送といった実用的な種目まで網羅した。結果は、中国は全26種目のうち6割以上を制し、AI翻訳やリアルタイム字幕の導入でも技術的優位を明白に示した。
これは単なる娯楽とはいえない。中国政府はAI・ロボット産業に数兆円規模の投資を行い、国家ファンドを通じてスタートアップ支援を拡大している。今回の「AIロボット運動会」は、産業覇権の前哨戦として設計された舞台装置ともいえるだろう。
国際競争と「体験消費 × AI」
AIロボット運動会は、各国の技術を披露する場であると同時に、観戦者に「AI時代の未来像」を体感させるショーケースでもあった。競技はサッカーやリレーといった娯楽性の高い種目に加え、清掃・搬送など生活に直結する実用種目まで含まれており、AIが人々の暮らしや消費体験にどう結びつくかを可視化していた。
体験としての技術提示は、美容市場とも深く重なる側面も提示していた。
従来は製品の品質や価格が競争の中心だったが、今や消費者は自分に最適化された下記3点の体験を求め始めている。
- AI診断により、パーソナライズされたスキンケア提案が可能になる。
- バーチャル試着によって、購買プロセスは「製品を試す」から「体験をシミュレーションする」へと進化する。
- 越境レビューが広がることで、国境を越えた消費者体験の共有が加速する。
こうした動きは、国際競争の焦点が単なる製品の性能比較から「体験設計の優劣」へと移りつつあることを示している。「体験消費 × AI」が、次世代の市場覇権を左右する軸になる可能性がある。
美容市場を揺るがす次世代テクノロジー

参照:株式会社ファンクる「AI美容についての消費者調査」(PR TIMES、2025年8月26日公開)
「AI × 美容体験」がー消費者に浸透しつつあることは、データにも表れている。国内調査では、肌診断AIやスマートミラーなどのテクノロジー活用について、77%の消費者が「興味あり」と回答した(ファンくる調査、2025年8月26日公開)。日本市場でも、AIが美容の体験設計に組み込まれることは避けられない流れとなっている。
世界的にも同様だ。調査会社InsightAce Analyticによれば、美容・化粧品分野におけるAI市場規模は2021年の約27億ドルから、2030年には133億ドル超に拡大すると予測されている。市場において「BeautyTech」が注目分野として位置づけられる背景には、こうした成長期待がある。
- 肌診断AI:膨大な画像データを解析し、瞬時に肌質を判定。
- バーチャルメイク:購買プロセスを「試す」から「シミュレーションする」へ転換。
- 接客AI:24時間稼働し、ブランドと顧客の関係を深化させる。
これらは単なる便利な機能ではない。「BeautyTech」は、消費者体験を根本から再設計する市場の核であり、同時に投資家が注目する新しい成長領域なのである。
日本美容産業への示唆
日本の美容産業は高品質と信頼性によって国際的に高い評価を築いてきた。
しかし、AI活用の領域では、グローバル全体の潮流と比べて後れを取っている。欧米の大手ブランドはすでにAI診断やバーチャル試着を標準化しており、中国や韓国も同様にこれらを積極的に導入し、越境ECやAIカウンセリングと組み合わせて市場拡大を加速させている。
日本では、資生堂や花王をはじめとする企業がAI導入を進めつつあるが、その取り組みはまだ限定的で、国際競争のスピードに照らすと遅れが際立っている。日本には「精緻な品質管理」や「ブランド信頼度」といった他国にはない資産がある。これをAIと結びつけることで、独自の差別化戦略を描く余地は大きい。そのために求められるのは、次の3点である。
- データ活用
顧客の肌データや購買履歴を解析し、提案型サービスを標準化する。単なる「販売」から「最適化された体験提供」への転換が不可欠である。 - 体験設計
オンライン診断と店舗カウンセリングを統合し、購買プロセスをシームレスにつなぐ。AIはスタッフの接客価値を補完・強化し、店舗を「データと体験のハブ」へと進化させる。 - 国際展開
言語対応や越境ECを前提に、グローバル顧客へのアプローチを拡大する。体験の共有が国境を越える時代に、日本的な「信頼性 × AI」は強力な武器となり得る。
これからの時代、AIをどう取り入れるかは日本の美容ブランドにとって決定的な鍵となるともいえるだろう。今だからこそ「信頼性 × 高品質 × AI」という日本ならではの強みを磨き上げることで、新たな成長のチャンスを掴むことができる。
まとめ──AIと共に歩む美容産業の未来
AIロボット運動会は、技術競争の最前線を示すと同時に、AIが社会や消費の在り方を大きく変えていくことを象徴していた。美容市場においても同様に、製品の優劣だけではなく、AIが設計する「体験」が競争力を左右する時代が始まっている。
世界ではすでに欧米やアジア各国が積極的にAIを取り入れ、新しい市場を切り拓いている。その流れに対し、日本も大手を中心に芽は育ちつつある。重要なのは、日本独自の強みを活かした「信頼性 × 高品質 × AI」戦略をいかに早期に確立できるかにかかっている。
今後、日本の美容産業が国際競争で存在感を維持・強化していくためには、AIを単なる補助技術ではなく、中核的な成長戦略として実装へと結びつけることが不可欠であると考えられる。