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美容スパの人材課題を競争力に変える世代間マネジメントの実務知

離職を防ぎ競争力に転換する世代間マネジメントの前提理解

2025年、スパの現場におけるチームマネジメントは、単に適切な人材を採用することだけでは成立しません。本質的な課題は、異なる価値観や生活リズム、参照する基準を持つメンバー同士が、離職せずに、満足感を持って、円滑に共存し続けられるかという点にあります。この現実は、緊張や摩擦を生む要因にもなり得ますが、逆にマネジメントの革新を生み出す契機にもなり得るのです。

スパの現場には現在、次のような人材が混在しています。

  • 年齢が若く、学校を出たばかりの人材で、即時的なバランスを求め、キャリア志向よりも「意味」や「納得感」を重視する層
  • 経験はあるものの、日々の単調さや評価不足によって早々に意欲を失いがちで、現場に留まるためには知的刺激が常に必要となる層
  • 40代以上で、以前の職業人生を経て転身してきた人材。遅れて芽生えた使命感に動かされ、自身の価値観に沿った仕事に従事しながら、知見や姿勢を伝えたいという強い欲求を持つ層

混成的な人間集団が一つの箱の中で共存している状態であり、スパマネージャーにとっては容易にコントロールし、前進させられる環境とは言えません。ましてや、この領域で体系的な訓練を受けた経験がない場合はなおさらです。

前号の Spa de Beautéですでに取り上げた最初の5つの誤りは以下の通りです。

  • 誤り1 ―全員が同じ仕事観を共有していると決めつけること
  • 誤り2 ―オンボーディングと継続教育を軽視すること
  • 誤り3 ―年齢に関わらず、動機形成の要因は同一だとみなすこと
  • 誤り4 ―コミュニケーションスタイルを一律に押し付けること
  • 誤り5 ―世代間の衝突を放置し、自ずと消えると信じてしまうこと

世代をミックスして知識移転と付加価値を最大化する運用戦略

誤り6 ― チーム全員に同じ方法で感謝を伝えること

マネジメントにおける基本として、チームの全員が同じ種類の感謝表現に反応するわけではありません。このために、チームとの個別の年次面談が存在するともいえます。加えて、この差は年代が大きく異なる人材が混在している場合には、さらに顕著になります。

避けるべき対応

  • 相手の感受性や行動特性を考慮せず、全員に同一の方法で称賛すること。

取るべき対応

  • 誰がどのような言動や表現に反応しやすいかを把握すること。
  • 若年層の場合は、1つのエモジだけでも十分に励みになる
  • 以前に形式的な文化にいた人の場合は、5分間でも落ち着いた一対一の口頭での言葉掛けや、チームの前で評価すること、あるいは個別メッセージ(たとえ WhatsApp を通じてでも、抵抗感がある人に最低限の情報共有を促す効果がある)

誤り7 ― 年齢に基づいて役割を制限すること

転身してきた人材の中で、以前にマネジメント経験を持つ人がいると、入社直後でもチームのマネジメントを任せたくなる誘惑があります。しかしその一方で、若くても在籍期間が長く、その職務に挑戦する機会を待っている人材が存在する可能性もあります。逆に、すでに家庭を持つ世代の人に対して、身体負荷が大きい業務や時間制約のある任務を意図的に避けることも、同様に誤りです。その理由は次の二つです。

  • 能力や成果は年数に比例しない
  • 苦労も含めて複数の職務を経験することが、チーム内における正当性や信頼を高める

このテーマに先入観を持たず、客観的事実のみに基づいて判断することが求められます。

避けるべき対応

責任ある任務を年長者のみに割り当てたり、運用業務や施術技術の新テクノロジーを若年層にのみ任せたりすること。前者は経験、後者は革新への適応力という先入観に基づく判断です。

取るべく対応

役割を特定の人物に固定せず、交替制とすることで複数の領域を経験させ、自然と快適領域に留まらないようにすること。例として

  • 顧客対応の予期せぬ事態に向き合うための受付 polyvalente
  • 「キャビン清掃」または「リテール販売」の担当として、環境維持や施術後の商品販売を促す役割
  • 月ごとの「サステナビリティ推進担当」として、良い取り組みを可視化・評価する役割

最終的に各人を適切な領域に配置し直すとしても、年齢に関する先入観なしに多様な経験を積ませることが不可欠です。

誤り8 ― 世代が異なる人をペアにしないこと

人は、生活面で自然に近い者同士の方が業務もうまく進むと考えがちです。しかし複数世代が同居するチームでは、年齢ごとの集団が生まれ、知識や技術の移転が難しくなるリスクがあります。最良のケースでもチーム全体の成長機会を逸し、最悪の場合は前述の誤り5(世代間の摩擦を放置する誤り)を助長することになります。

避けるべき対応

  • 年齢や相性の近さだけを基準にペアを組ませること。

取るべき対応

  • 受付、デュオ施術、ワークショップなどの共同作業において、意図的に年代をミックスさせること。

経験差に基づく視点の違いが相互の価値となります。あるスパでは、異世代ペアによる4ハンド施術を顧客に提案し、スタイルの補完関係によって、同一の教育背景・経験値を持つ療法士2名よりも仕上がりが豊かになった事例があります。

誤り9 ― スパ療法士の情熱と活力は年齢に反比例すると考えること

確かにボディワークは身体的消耗が大きく、一日中立ち続ける勤務は体力を要します。また、20年続けていれば飽きや倦怠が生じても不思議ではなく、学校を出て2年目の人材のほうが熱量が高いと考えることは自然に見えます。しかし、実際の現場では必ずしもその図式が成立するとは限りません。

ある人は45歳で転身します。長年ウェルビーングへの憧れを抱き続けてきた末にこの道を選び、失われたと感じている時間を取り戻すかのように、途切れることなく学び続けるのです。こうした人材は高度に訓練され、解剖学的に精度の高い手技を短期間で提供できる存在となり、結果として顧客に高い付加価値をもたらします。

反対に、進路に失敗した結果として CAP Beauté に進み、その後は親を安心させるために BP に進学し、明確な確信もないままスパに入ったような人からは、そのような結果は得られません。

避けるべきこと

  • 再就職者は若い採用者よりも持久力に欠ける、あるいは若い方が最近社会に出た分だけ情熱的だと決めつけること。

取るべきこと

  • 個々の才能を認識し、評価すること。たとえば、作業の速さ、傾聴力、感覚的な創造性、顧客への共感 など

こうした兆しに先入観なく耳を傾けることで、一人ひとりの持つ力を最大限に引き出し、結果として顧客を満足させる充実したスパ療法士として育つことになります。

誤り10 ― 世代が混在する現場のマネジメント課題に一人で立ち向かおうとすること

スパマネージャーとしての訓練を受けていようといまいと、結論は変わりません。マネジメントに関する教育は実質的に存在せず、ほとんどは現場で痛みを伴いながら学ぶものです。そこに世代間マネジメントが加わることで難度はさらに増し、どう対処してよいか分からないと感じることもあります。衝突は増え、受動攻撃的なコミュニケーションが常態化し、いつになったらスパの収益創出に集中できるのかという思いに駆られることもあるでしょう。

避けるべきこと

  • 状況が自然に解消されると信じ、ひとりで抱え込むこと。

取るべきこと

  • ホテル付帯スパの場合は速やかに経営陣へ報告し、感情を排して事実ベースで困難な状況を説明し支援を要請すること。

社内の人事部に支援リソースがある可能性もあります。なければ外部支援――コーチ、トレーナー、スパ分野のコンサルタントなど――を求めてください。価値観が合い、感覚的な相性のある人物を選び、伴走支援を受けることが重要です。

注意すべき点 ― 自らの正当性を確保すること

大切なのは、あくまで自分自身がチームの窓口であり続けることです。この関係性を失わないことが、自らの立場を守ることにつながります。私が支援した事例として、若く有能なスパマネージャーが、年長のスパ療法士に対して影響力を持てずにいたケースがありました。その療法士は長年の慣習を理由に水曜勤務を拒否していましたが、それはスパの成長過程では維持不可能な状態であり、他の五名は同日勤務を強いられていました。数回のセッションを通じて、マネージャー自身が状況を解きほぐし、その本人と必要な対話に踏み切ることができました。

世代の違いを強みに変えるスパ経営の要諦

スパで世代の異なるチームを率いるには、緻密さ・創意・柔軟さが求められます。また、価値観や働き方が異なる人材を扱うには、時間と関与がより必要となり、その差異に適応する姿勢が不可欠です。しかし、ここで挙げた誤りを避けられれば、多様な人材と年齢構成は、革新・定着・差別化の推進力となります。世代が語り合い、耳を傾け、共創するスパは調和に満ち、その空気は必ず顧客にも伝わります。

Inner Beauty Award 2025 ―受賞商品発表―

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FLORENCE KOWALSKI

FLORENCE KOWALSKI

ウェルネス・コンサルタント

フランス雑誌「Les Nouvelles Esthétiques」の寄稿者であり、ウェルネス分野のコンサルタントとして活躍しています。ウェルネスやコスメティクス分野のウェブ記事編集者でもあり、美容分野でCAP資格やBTS資格を取得後、ホテルスパ業界の発展を目指してマーケティングと経営のコンサルタント会社「Spaboosting」を設立しました。顧客エクスペリエンスの向上や収益性の確保を目的とした手法を開発し、スパ収益性のエキスパートとして高く評価されています。

  1. 美容スパの人材課題を競争力に変える世代間マネジメントの実務知

  2. 予防医療発想を取り入れたホテルスパ運営―バイオハッキングがもたらす新たな成長機会

  3. チーム運営における世代間マネジメントの課題と成功への5つの回避策

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