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水中施術で差別化する『Spa Clemens』の成功レシピ


モニュメント、グルメ、ラグジュアリーブランドのブティックなどで知られるパリには、見逃せないスポットが数多く存在します。その中のひとつがSpa Clemensです。

今回は、美容専門メディアであるSpa de Beautéが、同施設の共同創業者であるPauline Picaut氏にインタビューを行い、同サロンが成功を収めている秘訣について話を伺いました。

パリ中心部に誕生した水中リラクゼーション特化型スパの魅力

静かな中庭に佇むウェルネス空間

Spa Clemensは、パリ7区サン・ペール通り沿いの小さな中庭の奥にひっそりと佇んでいます。共同創業者でありオステオパスの資格を持つPauline Picaut氏は、顧客に水中でのリラクゼーションを提供したいという想いからこの施設を立ち上げました。

彼女はこれまで、自身の施術室で理学療法士と共に、水中でのリハビリテーション施術を行ってきました。そして患者が治療を終えた後も「水の中でリラックスを続けたい」という希望が多く寄せられていたといいます。「パリには冷たい大型プールはあるものの、リラクゼーションを目的とした水中施設はあまり発展していません」と彼女は語ります。こうした背景のもと、Spa Clemensは2021年に誕生しました。

400㎡の非日常空間

施設の広さはおよそ400㎡。3つの施術キャビンと4つの水槽が設けられており、温かみのある空間が心身を癒します。特に注目すべきは、18世紀の石造りのアーチ天井を有する地下空間に設置された水槽で、唯一無二の雰囲気を醸し出しています。

「幸運なことに、私のパートナーであるMarc Idoineはスパ設計のプロフェッショナルであり、エンジニアでもあります。建物の構造要件を満たしながらスパを設計・施工することができました。構造上の課題は多かったのですが、換気や配線などは全てうまく隠されており、快適な空間に仕上がっています」とPicaut氏は語ります。この空間を完成させるための工事費用は、100万ユーロを超えたといいます。

特化型メニューと継続的な刷新

Spa Clemensの専門分野はマッサージです。同施設では、角質ケアや脱毛、フェイシャルトリートメントなどは行っていません。「私たちの専門はマッサージです」とPicaut氏は説明します。水中での施術だけでなく、ベッドの上での施術も提供しており、ドレナージュ(リンパ排出)、ストレッチ、指圧、リラクゼーションなど、顧客のニーズに合わせた施術法を用いています。

また、1年に1〜3種類の新しい施術メニューを自社チームで開発しています。2024年末のホリデーシーズンには、親子向けのトリートメントが導入されました。前年には4〜12か月の赤ちゃんを対象とした施術が新たに提供され、2025年第2四半期には、生後0〜1か月の新生児向け施術の追加も予定されています。

明確な料金体系と製品販売を行わないポリシー

Spa Clemensでは、施術の種類ごとに明確な料金が設定されています。

  • フローティング・マッサージ(ソロ、60分):150ユーロ
  • 水中リフレクソロジー(60分):150ユーロ
  • 水中ソフロロジー(60分):150ユーロ
  • リラクゼーション・マッサージ(ソロ、30分):80ユーロ

なお、製品の販売は一切行っておりません。

施術で使用するマッサージオイルは、化粧品ブランドGreen Spaが提供していますが、店頭での販売は行わないという方針をとっています。これは、Pauline Picaut氏の明確な選択によるものです。「私はスタッフの技術力を重視して採用しています。彼女たちはプロのマッサージ技術者です。他の多くのスパとは異なり、私たちはエステティシャンの採用をほとんど行っていません。Spa Clemensはスキンケアを専門にしている施設ではないのです」とPicaut氏は語ります。「それに、個人的に販売という行為がとても苦手です。ですので、スタッフにもそれを強要したくありません」とも付け加えています。

水中施術がもたらすリラクゼーション効果と導入の難しさ

水中施術の恩恵とは

パリで初となる水中ウェルネス専門施設であるSpa Clemensは、そのコンセプトに大きな強みを持っています。

水中での施術は、ベッド上のトリートメントとは異なる多くの恩恵をもたらします。なぜなら、温水が心身を深くリラックスさせてくれるからです。施術中、利用者は仰向けの姿勢で浮かび、頭部は水面に、脚はフロートに乗せられます。「温かい水に浸かることで、脳内の下垂体という部分が変化し、脳波にも影響を及ぼします。極度にストレスを感じている方でも、自然に心を解きほぐすことができるのです」とPicaut氏は解説します。

水中施術にはコストがかかる

このような水中施術がもたらす効果を考えると、スパにおいて定番メニューとして導入する価値は十分にあると言えるでしょう。しかし、現実的には多くの施設が導入を見送っています。その理由として、Picaut氏はこう説明します。「まず、温水プールを一定温度に保つ必要がありますし、設置にも高度な技術が求められます。さらに、施術スタッフにも専門的な長期トレーニングが必要です。情熱がない限り、やり遂げるのは難しいでしょう」。

チームの専門性と相互理解が支えるSpa Clemensの現場力

Pauline Picaut氏

スタッフの希望に寄り添う柔軟なチーム構成

Spa Clemensでは、3人のスパマネージャーが率いる3つの専門チーム(水中チーム、陸上チーム、受付チーム)が組織されており、きめ細やかなサービス体制が整っています。現在、施設を支えているのはおよそ30名のスタッフで、正社員(CDI)、インターン、パートタイム、フルタイム、フリーランスなど、多様な雇用形態が共存しています。

「私たちは、スタッフが自分の仕事を楽しめるよう最大限配慮しています。ただし、コアメンバーは正社員かつフルタイムで構成されています」とPicaut氏は語ります。

長期的に信頼されるチームづくりとは

他のスパと同様、Spa Clemensでも人材採用には課題があります。そのため、採用活動においては候補者の希望に柔軟に対応する姿勢を大切にしているそうです。

「正社員希望の方にはCDIで雇用しますし、週35時間勤務を希望される方にはその形態を用意します。施術だけでなく受付業務も希望される方には、兼務のポジションを提案するようにしています」とPicaut氏は話しています。

成長に合わせた柔軟なチーム運営

「スタッフの希望は時間とともに変化していくものです。その変化に合わせて私たちも柔軟に対応しています」と、Pauline Picaut氏は語ります。

Spa Clemensで働くスタッフは、総じて定着率が高いといいます。現在のスパ業界において、これは大きな強みです。

「昨年からメンタリング制度を導入しました。ベテランの施術者が新人の教育を担い、ペアで施術練習を行うことで信頼関係を築いていきます。この取り組みは、実際のマッサージの質にも良い影響を与えていると思います」とPicaut氏は述べています。

専門を超えたチームの進化

採用時には、全員に包括的なトレーニングが提供され、受付業務、水中施術、陸上施術すべてを学びます。これにより、スタッフの急な欠勤にも迅速に対応でき、チーム内で役割を柔軟に入れ替えることが可能となっています。

「最初は各チームが専門領域の業務のみを担当していましたが、ある施術者がケガをして施術ができなくなり、受付に回ったところ非常に楽しんでくれたのです。その影響で、他の受付スタッフも施術を学びたいと申し出てくれました。そこから、私たちは役割の垣根をなくすようになりました。この変化によって、チーム内の相互理解が深まり、互いの仕事に対する敬意が育まれました」とPicaut氏は振り返ります。

スパマネージャーの役割は多岐にわたります。シフト管理、新メニュー開発、コミュニケーション戦略の策定、新人の採用、そして顧客満足度の維持が主な業務です。Picaut氏自身も施術が好きなため、頻繁にキャビンでの施術を担当し、時には受付にも立っています。

顧客満足と品質重視で築くSpa Clemensのブランド価値

顧客満足を最優先に

Spa Clemensの運営において、最も重視されているのは顧客満足です。

「数字で見ると、当施設はパリでもっとも収益性の高いスパとは言えません。しかし、“リラックス度”や“満足度”、“提供するサービスの質”、そして“スタッフ同士が学び合いながら楽しく働いている割合”で見れば、非常に高い成果を上げていると感じています」とPicaut氏は語ります。

「このスパを立ち上げたのは、かつて仕事やストレスで限界を感じていたときに、自分が行きたいと思える場所がなかったからです。ですから、利益以上に人々を癒やすことを目的にしています。その意味で、私たちは人の役に立っており、それが“良いカルマ”につながっていると信じています」と微笑みます。

進化を止めない専門チーム

Spa Clemensでは、経験豊富なマッサージ技術者を採用し、入社後には陸上マッサージのトレーニングを必ず実施しています。これは、水中での施術において高い成果を上げるためにも必要不可欠だとPicaut氏は考えています。

続いて、水中での施術に関しては、1週間単位のトレーニングを3回、さらに多数の実技練習を重ねる形で進められます。

「社内には専任トレーナーが在籍しており、日々のスキル向上を支援できる体制が整っています。技術者が退屈を感じる職場は、長くは続かないと私は思っています。ですので、毎年すべての施術者に対して、陸上と水中の両方で継続的な研修を実施しています。その際には、水中リラクゼーション分野のトップクラスの外部講師を招いて指導してもらっています」とPicaut氏は強調します。

妥協なき品質管理

Picaut氏は、サービス品質の維持にも強いこだわりを持っています。

「私は今でも施術スタッフのマッサージを頻繁に受けています。たとえ初期から在籍しているスタッフでも例外ではありません。自分の要求水準が高いことは自覚しています。少しでも施術の質に違和感を覚えた場合は、再度トレーニングを提案します。品質を落とすことは決して許しません」と語ります。

この“妥協のない姿勢”は施術技術だけでなく、清掃や接客の品質にも及んでいます。お客様との時間が「かけがえのない体験」となるように、細部まで配慮が行き届いているのです。

スタッフの声に耳を傾ける経営姿勢

Spa Clemensでは、施術スタッフの声がサービスの源泉となっています。Pauline Picaut氏は、「私はスタッフの意見を積極的に聞くようにしていますし、スタッフも同様に私の話に耳を傾けてくれます」と語ります。

「例えば、私は水中でのRebozo施術を提供したいと思っていましたが、今のところスタッフの希望には合っていないため、導入していません。逆に、スタッフは水中での“潜水型施術”をやりたいと考えていますが、私にはまだピンときていない状況です。こうして意見交換をしながら、メニューを共に進化させていくことが重要なのです」と説明します。

また、Picaut氏はマネージャーでありながら、施術や受付、清掃といった日常業務にも積極的に参加しています。「現場でスタッフと同じ作業をすることが、信頼関係の構築やチームの定着につながると考えています」。

現代人のストレス社会に寄り添うスパの新しい価値提案

パリという都市のライフスタイルは非常にストレスフルであるため、リラックスできる場所を求める人々が多く存在します。Spa Clemensは、まさにそうしたニーズに応える施設です。

「私たちの施設には、なかなかリラックスできない方々が来られます。そして、ようやくリラックスできたと思っても、すぐにまたストレスに晒されてしまう。そうした方にとって、水中施術は非常に有効です。というのも、努力せずとも短時間で心が解きほぐされるからです。パリジャンはリラックスのために“努力”したくないのです」とPicaut氏は分析します。

Spa Clemensの顧客層の大半は妊娠中の女性です。水に浮かぶことで体重負荷から解放され、快適に過ごせることがその理由です。「第一子のときにいらっしゃった方が、第二子でも再び来てくださることが多いのです」と微笑みます。

そのほか、常連客と一見客のバランスもよく、プロポーズの演出や新製品のローンチイベント、大企業の福利厚生としての貸し切り利用など、多様な目的で利用されています。

Spa Clemensの1日の来客数は30名から60名ほどです。

顧客は“投資”として支出する

施術料金は安価ではありませんが、それでも多くの顧客が遠方から訪れます。

「今の時代、メンタルヘルスが非常に大きなテーマとなっています。多くの方が、抗うつ剤を服用したくないと考えています。また、SNSやデジタル機器の使用によって、常に情報に接続されている状態が続いています。夜の睡眠以外に“切断”の時間が取れない。だからこそ、私たちのスパが選ばれているのだと思います」とPicaut氏は話します。

Spa Clemensは、現代人の心のケアにおいて重要な役割を果たしているのです。

リピーターが語る体験価値が新規顧客を呼び込む理由

美容やウェルネス業界のプロフェッショナルたちとの対話の中で、口コミの力がいかに大きいかが浮き彫りになります。Spa Clemensもその例外ではなく、紹介によって顧客が増える仕組みが定着しています。

「一度体験された方が、その感動を大切な人に贈りたくなるようです。それが私たちの知名度拡大の大きな要因になっています」とPicaut氏は説明します。

“担当制”とサブスクリプションによる顧客維持

Spa Clemensでは、1人の顧客に対して基本的に同じ施術者が担当します。その施術者が受付・水中・陸上施術すべてに精通しているため、顧客の状態や要望に応じた的確な提案が可能です。これにより、パーソナライズされた体験が実現され、高いリピート率に繋がっています。

さらに、Spa Clemensではサブスクリプション制度も導入しており、継続利用を後押ししています。「5回券と10回券をご用意しており、それぞれ650ユーロと1,200ユーロで提供しています」とPicaut氏は紹介します。


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DORIANE FRÈRE

DORIANE FRÈRE

国際版コラム責任者/ジャーナリスト

フランス雑誌『Les Nouvelles Esthétiques』のコラム責任者でありジャーナリスト。

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