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スパのトリートメントメニューにおける作成のポイントと注意点



執筆:Alexandra CAUCHIE, コンサルタント、国際講師(化粧品ブランド & スパ)

スパのトリートメントメニューは単なる機能的な資料ではなく、スパのアイデンティティを映し出し、非日常の体験へと誘う招待状でもあります。構成が不十分なメニューは、利用者に混乱や不満を与えかねません。ここでは、各ページを心地よい体験への誘いへと変えるための方法をご紹介します。

感情を喚起することは、メニュー作成の段階から始まります。デザインは感覚的な旅として構想する必要があります。それぞれのトリートメントや説明文が世界観や物語、一瞬の特別な体験を思い起こさせるものであるべきです。単なるサービスを超えて、顧客に儀式のような時間、時を忘れる瞬間を提供することが目標です。

効果的なメニュー構築の鍵は、多様で一貫性のある提案を行いながら、魅力的で興味を引く雰囲気を創り出すという繊細なバランスにあります。

施術効果をわかりやすく伝える説明と表現のポイント

メニューの見栄えを整える

これは基本中の基本です。メニューのビジュアルと読みやすさは、顧客体験に直結します。よく考え抜かれたメニューは注意を引き、トリートメント内容を探求したいという気持ちを高めます。反対に、手を抜いたり整理が不十分なメニューは、来店意欲を削いでしまう可能性があります。メニューは明快で余白があり、読みやすくなければなりません。

細部にまで気を配る

視認性の高いタイポグラフィ、調和のとれた色合い、スパの雰囲気を反映する質の高い写真を選ぶことが大切です。細部までの配慮が求められます。情報量が多すぎたり、デザインが複雑すぎると、顧客は迷ってしまいます。一方で、整然とした見やすい構成は、内容を理解しやすくし、スパの魅力を効果的に伝えます。メニューはしばしば顧客との最初の接点です。したがって、シンプルさとエレガンスを兼ね備えながら、スパのイメージや価値観を即座に伝える必要があります。

洗練されたシンプルなメニューを提示する

スパのメニュー作成においては「少ないことは豊かなこと」という考え方が有効な場合があります。厳選された高品質な施術を提供することで、情報や選択肢の過剰を避けることができます。

高級レストランのメニューが限られた品数で構成されているのと同じように、よく考え抜かれたスパのメニューも選択肢を無限に増やすべきではありません。選択肢が多すぎると、顧客は迷い、決断できなくなってしまいます。

大切なのは、顧客の特定のニーズに応えつつ、幅広く一貫性のある施術ラインナップを提供することです。提供数を絞り込むことで、顧客にとって明快で探索しやすいメニューとなり、それぞれの選択肢が意味を持つものになります。顧客は導かれていると感じ、無数のオプションに迷うことなく選べるのです。

一貫したストーリーテリングを構築・展開する

トリートメントの物語を語る

ストーリーテリングを効果的にするためには、スパのイメージと整合性を持たせることが重要です。それぞれの施術は、リラクゼーションや非日常、ウェルビーイングを語る大きな物語の一部でなければなりません。例えば「リラクシングマッサージ」と単に表現するのではなく、「ゆったりとした穏やかな手技に導かれる感覚的な旅で、調和と安らぎを取り戻す体験」といった表現で伝えることができます。施術の物語を語ることにより、顧客は頭の中でその体験を想像し、実際に施術を受ける前から効果を感じられるのです。

施術の結果と効果を強調する

効果を具体的に示す

顧客は目に見える結果や具体的な効果を求めています。そのため、各施術から得られるものを明確に示すことが重要です。リラクゼーション、筋肉回復、精神的な安らぎなど、施術がもたらす効果を提示することで、顧客はその価値を理解し、選択の助けとなります。

効果をわかりやすく、かつ印象的に伝えることで、顧客に施術を選ぶ理由を与えることができます。例えば「フェイシャルトリートメント」とだけ記載するのではなく、「顔の輝きを取り戻し、肌を落ち着かせ、しわを和らげる」と表現する方が適切です。このアプローチは施術の魅力を高めるだけでなく、各メニューに具体的で測定可能な目的があることを示し、信頼関係の構築にもつながります。

顧客ニーズに沿った最新の施術を提案する

最新の技術を取り入れる

顧客の期待や市場の変化に応えるためには、常に最新のトレンドを把握して提供内容を進化させることが欠かせません。市場の進展に即した施術を取り入れることで、スパが新しい実践や革新に敏感であることを示せます。これは定期的なメニューの更新によって実現でき、先進的なアンチエイジングケア、革新的なリラクゼーション技術、エコロジーやオーガニック志向のケアなどを導入することが効果的です。

フェイシャルケアを進化させるには、ストレッチングフェイシャルやフェイシャルリンパドレナージュなど高度な手技を組み込み、さらにグアシャなどのツールを活用する方法があります。これらは目に見える効果をもたらします。施術効果を高めるLEDマスクのような革新的アイテムも人気で、他との差別化につながります。

ボディケアにおいては、汎用的すぎるマッサージから脱却し、よりパーソナライズされた施術へとシフトすることが求められます。特にスポーツマッサージは大きな注目を集めており、深い圧とストレッチによって筋肉を活性化し、緊張を和らげます。また、呼吸法によるリラクゼーション法である「心拍のコヒーレンス」を組み合わせると、さらに深いリラクゼーションへと導くことができます。

メニューの革新は顧客とスタッフ双方に利益をもたらす

シグネチャートリートメントを創る

シグネチャートリートメントは、他の施設との差別化を図り、強固なアイデンティティを築くための優れた手段です。その施設独自に設計された特別な施術は、真の強みとなり、顧客にここでしか体験できない排他的な価値を提供します。

シグネチャートリートメントを具体化する

シグネチャートリートメントは、特定の技術、希少な成分、あるいはスパの本質に合致する革新的なアプローチを基盤とすることができます。これは、施設のブランドイメージを強化するだけでなく、顧客の記憶に残る唯一無二の体験として提供できるため、リピーターの獲得にもつながります。この施術は専門性を象徴し、新規顧客を惹きつける強力な要素となります。

「アドオン」を導入する

追加施術(アドオン)を提供することは、顧客体験を充実させながら客単価を上げる優れた方法です。顧客のニーズに合わせたパーソナライズされた施術を追加することで、ラグジュアリー感と独自性を高め、期待に応えることができます。これは顧客にとってもスパの収益性にとっても有益です。

例えば、ハンドマッサージ、フットケア、アンチエイジングマスク、リフレクソロジーなどが挙げられます。これらのアドオンは顧客に体験の幅を広げる選択肢を与え、心地よさを深めます。さらに、アドオンは個別に料金を設定できるため、施術全体の収益性を最大化しながら、一人ひとりの要望に合わせた包括的なサービスを提供できます。

スパ施術メニューで避けるべきことと注意点

専門用語を多用しすぎない

施術メニューを作成する際には、誰にでも理解しやすい表現を心がけることが重要です。専門用語を過度に使うと、顧客にとって理解が難しく、近寄りがたい印象を与えかねません。特定の施術を説明するために専門用語が必要な場合もありますが、複雑な言葉で顧客を迷わせることは避けなければなりません。

例えば「ラジオ波による皮膚刺激」や「クリオセラピーによるリジュベネーション」といった言葉は顧客を混乱させる恐れがあります。

シンプルでイメージしやすい説明を選ぶ

「ヒアルロン酸配合セラムを塗布し、細胞吸収を促すイオン導入を行う」と表記する代わりに、「潤いを与えるセラムとリラクシングな手技で肌に輝きとハリを取り戻すフェイシャルトリートメント」と記述する方が適切です。

ストーリーテリングを欠かない

ストーリーテリングのない施術メニューは、冷たく無機質に見えてしまいます。顧客は単なるサービス以上のものを求めています。心を動かし、夢を与える体験を期待しているのです。各施術に込められた物語こそが、感情的なつながりを生み出し、顧客を選択に積極的に参加させます。

ストーリーテリングを取り入れることで、顧客は特別な体験を想像し、各施術は単なるリストではなく、約束や逃避、特別な時間へと変わります。例えば「Soin Ultime Lift: アンチエイジングフェイシャル」と記載する代わりに、「Soin Ultime Lift: 肌に輝きとハリを与える集中フェイシャル。成分の力を感じながら、純粋なリラクゼーションに包まれるひとときをお楽しみください」と表現すると効果的です。

デジタル版メニューを軽視しない

スパにおいて、デジタル版の施術メニューは欠かせません。物理的なメニューと同じように、整然として一貫性があり、機能的である必要があります。オンライン上でも顧客がスムーズで心地よい体験を得られるようにしなければなりません。逆に、デジタル版のメニューが整っていない場合、スパが無秩序な印象を与え、顧客体験を損なう恐れがあります。

顧客の利便性を損なわない

デジタル版メニューは、施設の雰囲気を映し出すだけでなく、顧客が施術内容を簡単に確認し、オンライン予約を行い、必要な情報をワンクリックで得られるように設計されていなければなりません。デジタル面を軽視することは、顧客の利便性を高める機会を逃し、スパとのスムーズなやり取りを妨げることにつながります。特に、オンライン予約の手軽さを好む顧客にとっては重要です。

男性顧客を無視しない

男性顧客を対象外にすることは、スパにとって成長の妨げになり得ます。男性も女性と同じように、自分のニーズに合った施術を求めています。男性向けのオプションを用意しないことは、メニューの魅力を狭めてしまいます。

フェイシャルケア、リラクシングマッサージ、あるいは脱毛やアンチエイジングケアなど、男性の期待に応える施術を取り入れることが不可欠です。男性顧客を意識したメニューを拡充することで、新しい顧客層を開拓し、ビジネスチャンスを広げることができます。

ホリスティックな体験を欠かさない

身体、心、全体的な健康を含めたホリスティック体験を提供しないことは、戦略的な失敗につながる可能性があります。近年、多くの顧客が従来の施術だけでなく、呼吸法やリラクゼーション、さらには包括的なウェルビーイングプログラムを求めています。

包括的な提案を行う

こうした需要に応えるためには、ボディケアやリラクゼーション技術に加え、ヨガセッション、瞑想クラス、栄養指導、スポーツコーチとのプログラムなどを組み込むことが重要です。複数のウェルビーイング要素を融合させることで、顧客の期待に沿った、より現代的でパーソナライズされた包括的なアプローチを提供できます。

パーソナライズされた施術を欠かさない

個別対応の施術は、スパにとって大きな付加価値です。顧客は自分のニーズに合った体験を求めており、オーダーメイドの施術は「理解されている」と感じさせる特別な価値を提供します。

すべての施術を顧客に合わせて

肌タイプに合わせたフェイシャルケア、特定の部位に焦点を当てたマッサージ、あるいは好みに応じたウェルビーイングプログラムなど、施術を顧客ごとに調整することで、深い信頼関係を築くことができます。こうしたアプローチは記憶に残る体験を創り出し、再訪の動機となり、顧客ロイヤルティを高めます。

まとめ―ブランド価値を高めるスパメニュー

スパの施術メニューは、単なるリストではなく、提供したい体験そのものを映す鏡です。シンプルさ、明確さ、パーソナライゼーションを融合することで、顧客を導き、唯一無二の体験を届けるツールとなります。各施術や説明文は物語を語り、想像力を喚起し、体験への期待を膨らませるものであるべきです。

情報過多やデジタル面の欠落といった典型的な誤りを避けることは、現代の顧客ニーズに沿った、見やすくスムーズなメニューを維持するうえで欠かせません。

さらに、最新で個別対応された施術を取り入れ、包括的なウェルビーイングの提案を行うことで、現代の顧客が求める総合的な体験を提供できます。

こうして丁寧に設計されたメニューは、顧客を惹きつける大きな武器となり、スパのブランドアイデンティティを強化し、顧客が再び訪れたいと思う体験を創り出します。


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編集部(フランス)

SPA DE BEAUTE編集部(パリ)…フランスのLes Nouvelles Esthétiques社が2016年に創刊したSPA向けの専門月刊誌です。スパの経営者や施設関係者を対象とし、世界のリゾート、ホテルスパ、ディスティニースパなどを特集。本誌は20数か国でライセンス供給されており、スパ業界で最も信頼されているメディアの一つとして高く評価されています。

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