【連載】化粧品が起こすイノベーション・この技術に注目①花王、ES法で人工皮膚を実用化(下)

2020.01.22

特集

編集部

花王が開発したファインファイバー技術は、直径がサブミクロンの極細繊維を肌に直接噴きつけることで軽く、やわらかく、自然な積層型極薄膜(人工皮膚・写真)を肌表面につくる。
ファインファイバーの元になっているのは、同社独自に開発したポリマー溶液。このポリマー溶液を使った美容用の人工皮膚を2019年12月から売りだした。
ファインファイバーは、不織布技術で培ったエレクトロスピニング法(ES法)と呼ばれる極細紡糸技術を応用して開発した。不織布は、繊維を織ったりせずに絡ませてシート状にしたもので、おむつや掃除用品など様々な領域で活用されている。

開発した人工皮膚は、おむつなどに使われている不織布の繊維に比べて約20分の1の細さのファインファイバーから作られている。従来の不織布より 通気性がある上、化粧水などの液体を吸い取って保持したり膜全体に液体を均一に広げたりする特長が強化されている。

人工皮膚の開発を主に担当したのが膜形成技術など基盤技術を担当する加工・プロセス研究所と技術を商品化して実用化に繋げる商品開発研究所及びスキンケア研究所が連携しておこなった。
ES法は、プラスに帯電したポリマー溶液をマイナスに帯電した対象物表面に向けて噴射する技術。蚕が繭を紡ぐときのように、ポリマー溶液がノズルを通して糸状に引き伸ばされながら勢いよく噴き出し、対象物の表面で幾層にも重なりあって膜を形成する。
でき上がった膜は、端面(ふち)に向かって薄くなるため、肌に自然になじみ、肌との境目が見えない。また、膜と肌の段差が極めて少ないことから、はがれにくさも実現する。

ファインファイバー技術の実現に向けて同社は、生活環境下で安定した性質の極薄膜を形成することをめざし、装置の小型化と最適な電圧・流量制御を検討するなど多様な事業分野での不織布開発に関する総合力を生かして実現した。
これまで同社は、紙おむつ、生理用品などのサニタリー製品、住居用ワイパーに代表されるホームケア製品などの分野で、さまざまな特性の不織布を開発してきた。さらに、次世代の不織布開発につなげるため、繊維の「細さ」が生み出す毛管力、やわらかさ、密着力といった機能に着目して自社製ES装置の開発に着手。研究過程でつくりだした繊維膜の性状が皮膚(角層)に近いことを発見し、化粧品への応用を着想。機械、電気、素材、安全性、構造解析など社内の専門部署の技術を結集して人工皮膚の開発に繋げた。

今度開発したファインファイバー技術は、1μmの極細で極薄の膜がもつ毛管力がスキンケア剤の保持力だけでなく将来的には、ケミカルピーリング(薬剤を使用して創傷の治癒に従って皮膚再生を促すこと)、レーザー治療後のケアや損傷を伴う皮膚疾患に対しての治療などが考えられている。また、痣(あざ)や傷あとなどを隠すカバーメイク、アピアランスケア(患者のストレスを軽減するためのケア) といった分野にも貢献していく方針で、治療領域への応用も視野に入れて研究を深耕していく。

ファインファイバー技術は、新たな用途開発を切り開き新事業を誕生させるイノベーターとして大きな期待を膨らませる。

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