【連載】化粧品が起こすイノベーション・この技術に注目③DDS技術、ロート製薬が化粧品開発に先鞭(上)

2020.01.30

特集

編集部

薬物送達システム「ドラッグデリバリーシステム」(drug delivery system=DDS)とは、体内での薬物分布を制御することで、薬物の効果を最大限に高める一方、副作用を最小限に抑えることを目的とした製剤技術の一つ。薬の投与部位から作用発現部位に至るまで、薬物の体内動態を1つのシステムとして捉え疾患部位に必要な薬効成分を適切な時間のみ作用するように調整することで、治療効果を高め、副作用の危険性を減らすのが狙い。マサチューセッツ工科大教授ロバート・ランガーが開発した。

米国ではDDS製剤の開発・実用化が成功し、1974年に患者への投与が行われた。1980年代に入るとDDSに関する技術や知見が集積されることに伴い、わが国でもDDS製剤が医療の場で使用され、バイオ製剤技術への応用・実用化が図られている。
特に、我が国においてDDS技術は、薬の製剤分野のみならず化粧品開発に応用されるなど新たな取り組みがみられる。

DDS技術を化粧品開発に応用して商品化に先鞭をつけたのは、ロート製薬株式会社(大阪府大阪市)。同社は、株式会社LTTバイオファーマ(東京都港区)と共同でスキンケア「オバジーパーフェクトリフトAA」を開発し2005年6月に市場投入した。
同スキンケアは、シワやシミに対して効果があるビタミA(レチノール)を炭酸カルシウム(直径約100ナノメ-トル・1ナノは10億分の1)の殻に閉じ込めたナノカプセルを開発し、封入することによりDDSに応用したもの。 図にレチノールナノカプセルの構造を示す。
これを契機に現在では、レチノール含有化粧品が多種類発売されるようになった。また、両社の共同研究で、レチノールは、ナノカプセル製剤に封入することによってレチノールの安定化が非ナノカプセル製剤よりも3倍以上、レチノールの浸透量に関しては20倍以上にもなることが確認されている。

ともあれ、これまで配合が難しかった成分も炭酸カルシウムのカプセルに閉じ込めることで有効成分の安定化が図れること。また、皮膚に刺激を起こしやすい成分もナノカプセルに封入すれば刺激が少なく皮膚内への浸透を高めるとともに、有効成分を徐放することが明らかになっている。

ロート製薬がDDS技術を化粧品開発に先鞭をつけて以来、国内企業がこぞってDDS技術を化粧品開発に応用するなどナノテクノロジーの進化に取り組む動きが活発化している。

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