執筆:Galya ORTEGA
フランスやヨーロッパにおいて、私たちはスパに先駆けて、ウェルネスの世界における先駆者として、タラソテラピーや温泉療法(テルマリズム)を発展させてきました。そして過去10年ほどの間に、アジアでも数多くのタラソ関連プロジェクトが展開されるようになっています。
海水の恩恵はすでに証明済み
100年以上前から、タラソテラピーはフランスや地中海沿岸地域で大きな成功を収めながら発展してきました。スパの登場や顧客の習慣の変化に伴って、提供される内容も大きく進化しています。
タラソテラピーとは?
誰でも「タラソ」と名乗れるわけではありません。本来、「タラソテラピー」は海辺の特別な立地に設けられた施設であり、海水、海洋気候、海藻など海の資源の恩恵を活かしたケアを中心に行います。これらのケアは、運動器系の不調を和らげたり、ウェルビーイングや体力回復を目的とした治療的・予防的なプログラムとして構成されます。また、使用される海水は原則として沖合から汲み上げられ、ろ過処理されたものであり、プールやバス、シャワーなどすべての施術に利用されます。
本来の定義を厳密に守るならば、この条件を満たさないものは「タラソテラピー」とは呼べません。
アジアにおける「適応と進化」
ただし、アジアにおいてはフランスや地中海地域とは異なる制約が存在するため、海水やその副産物を中核とした独自の適応型タラソテラピーが提案されています。私たちは、この健康とウェルネスの宝物をアジアに輸出できたことを誇りに思います。
どんなモデルがどのように発展しているのか?
アジアにおけるタラソテラピーは、主に高級ホテルや沿岸のリゾートにおいて提供されています。その多くは、ヨーロッパ発の海洋療法にインスパイアされたスパやウェルネス要素を組み合わせたハイブリッド型のサービスとなっており、しばしば「マリン・スパ」と呼ばれます。注目すべき点は、それぞれの国がこのヨーロッパモデルをベースにしながら、文化に応じたアレンジを施していることです。
日本
温泉とタラソテラピー
日本は天然の温泉で有名ですが、一部のウェルネスセンターでは、これらの温泉とともに、海藻や海洋ミネラルを活用したタラソテラピーに着想を得たトリートメントを組み合わせています。このような施設は、沖縄や北海道の沿岸地域に見られ、海水を使用したマリンスパが展開されています。
TAOYA志摩
三重県に位置するこの施設は、日本国内で数少ない本格的なタラソテラピー専門施設の一つです。 フランス式タラソテラピーのケアやプログラムを提供しています。
日本特有の課題
日本は島国で、海岸線が非常に多く、施術プログラムの構築においても厳格な姿勢があるため、タラソテラピーの展開には理想的な条件がそろっています。しかしながら、地震や台風、津波などの自然災害が頻発し、施設インフラが大きな影響を受けやすい状況です。そのため、国内におけるタラソ施設の数は限られています。
ベトナム
高級沿岸スパ
ベトナム、特にニャチャン、ダナン、フーコックなどの都市には、多くの高級ホテルやウェルネスセンターが存在します。
これらの施設では、塩湯や海藻パックなどのマリンケアが提供されており、タラソテラピー本来の定義には当てはまらないものの、関連する施術として利用されています。
アクアセラピー
一部の施設では、タラソテラピーに触発された水療法要素を取り入れ、クラシックなスパ・ウェルネスケアを補完する形で展開されています。これらは主に沿岸リゾートのラグジュアリー施設内に見られます。
中国
ハイナン島(海南島)
「中国のハワイ」とも呼ばれるハイナン島は、中国におけるタラソテラピー施設の有力な拠点とされています。
温暖な海水とビーチに恵まれたこのエリアには、海水入浴や海藻パックなどのタラソテラピー的施術を備えたリゾート施設が展開されています。
マリンスパ
チンタオやダーリェンなどの沿岸都市にあるホテルやスパでも、タラソテラピーにインスパイアされた施術が行われていますが、その提供範囲はヨーロッパの専門施設と比べて限定的です。
環境的課題
注目すべき点として、太平洋は世界で最も汚染された海域のひとつとされており、2兆個のプラスチック片や、世界全体の3分の1に相当する海洋ごみが北太平洋環流内を循環していると報告されています。そのため、海水の純度がケアの品質に影響するリスクがあります。ただし、一部の施設では海水の浄化に積極的に取り組み、質の高い施術の提供に努めています。
バーレーンにおける素晴らしい成功事例
「The Bahrain Pearl」は、海水を活用したトリートメント、ハイドロセラピー、マッサージ、ウェルネスケアなど、幅広い施術を展開する施設です。
この施設は、Sofitel系列のホテルと連携した本格的なタラソ施設「Thalassa Sea & Spa」であり、ペルシャ湾の島嶼国家での展開という点でも注目を集めています。
施設のコンセプトは、古代叙事詩『ギルガメシュ叙事詩』に着想を得ており、主人公が不死の祖先を探し、海を越えて旅をする物語に由来しています。
フランスのノウハウが世界を魅了する
現在、この事例は、フランスにおける確かなノウハウが、ウェルネスや予防的健康分野に関連するさまざまなコンセプトを引き寄せていることを如実に示しています。
この発展を担うのは誰か
タラソテラピーのコンセプトが、これまでその経験を持たなかった多くの国々の関心を集めるようになった際、各国の事業者はフランス国内で成功を収めていた施設に支援を求めました。たとえば、Thermes Marins de Saint-Malo や Thermes Marins de Monacoなどがその代表であり、これらの施設はコンサルタントとして世界のプロジェクトに関与しました。この分野におけるフランスの専門性は、すでに広く認知されています。
さらに、Thalassa Sea & Spa グループは、フランス、ヨーロッパ、北アフリカにおいて十数か所以上のタラソ施設を開発・運営している企業であり、このコンセプトを熟知した専門チームが、そのノウハウをもとに施設の設計・導入を支援しています。
こうしたタラソの魅力が世界的に広がりを見せている今、今後さらに多くの国が海洋要素を取り入れたウェルネスセンターの開発を進めていくことは確実といえるでしょう。予防的健康ケア、リバイタライゼーション、自然志向のウェルネスが、現在のウェルネスプロジェクトにおいて欠かせない目的である今、タラソテラピーは間違いなく未来における最有力コンセプトとなっています。それは、感覚的なアプローチでありつつ、医療に近い側面も持ち合わせた手法なのです。
東南アジアで進行中の注目プロジェクト
Brigitte Dumont de Chassart氏は、30年以上のキャリアを持つインテリア建築家であり、その実績は国内外で高く評価されています。高級ホテルやスパ分野での豊富な経験を持ち、アジア市場に関する深い知見と、ウェルネスにおけるホリスティックなニーズの理解により、多くのプロジェクトで高く評価されてきました。同氏は、この2年以上にわたって、東南アジアにおける非常に優れたタラソ施設の開発に携わってきました。現在、その施設は近いうちに開業予定となっており、プロジェクトの詳細についてはもうしばらくの間、守秘義務のもとにあります。
世界の果てで実現するタラソテラピー
この施設は、フランスで確立されてきた方法に基づき、本格的なタラソ施設として設計されたものです。沖合から汲み上げた海水をろ過し、すべての施術に使用するシステムが導入されています。また、この施設は五つ星の大規模ホテルコンプレックス内に組み込まれており、タラソケアとスパケアという2種類のウェルネスアプローチが提案されています。Brigitte氏は、両アプローチをつなぐ中央のハブエリアを設計し、両方の空間から容易にアクセスできる動線を確保しました。
特にタラソテラピーの空間に関しては、病院のような白と青のタイル張りで無機質な空間にならないよう細心の注意を払い、五感に訴える環境の創出を目指しました。その空間には、本物の素材や感覚的発見に満ちた体験が随所にちりばめられています。Brigitte Dumont de Chassart氏は、タラソに不可欠な高い技術的精度と、アジア特有のホリスティックな感性を見事に融合させることに成功したのです。
次世代ウェルネスとしてのタラソテラピー
今後15年間におけるタラソテラピーの未来展望
タラソテラピーの今後15年間は非常に有望であると予測されますが、その発展はウェルネスやヘルスケア分野の変化と新たな潮流に大きく影響されることになります。利用者のニーズが高まっている今、プロフェッショナルたちも進化が求められています。
予防医療との統合
近年、人々は病気の予防や健康維持の重要性をこれまで以上に意識するようになっています。 タラソテラピーは、血行促進、ストレス軽減、免疫力強化といった効果が科学的に証明されており、今後は予防医療のプログラムと統合される動きが強まる見込みです。各施設では、医療従事者と連携して、海洋ケアと医療的サポートを組み合わせた滞在型プログラムがより多く展開されるようになるでしょう。
テクノロジーと革新
技術革新は、タラソテラピー体験の進化において極めて重要な役割を果たします。たとえば、バイオフィードバックセンサーを備えた海水ジェットバスや、人工知能によるパーソナライズ分析などが導入されることで、顧客の個別ニーズに応じた施術の提供が可能となります。また、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)を活用することで、五感を刺激する新たな体験価値の創出も期待されています。
持続可能性と環境配慮
環境問題への関心の高まりは、タラソ施設の設計や運営に大きな影響を及ぼします。<今後は、エコロジカル・フットプリントの削減や海水の持続可能な利用、エコ志向の運営体制がより一層重視されるようになります。たとえば、水のリサイクルシステム、太陽光発電、環境に配慮した建築資材の導入など、グリーンテクノロジーの積極的な採用が進むでしょう。
ホリスティックアプローチによる心身のトータルウェルネス
タラソテラピーは、今後よりホリスティックなアプローチへとシフトしていきます。海水や海藻などの海洋資源の活用に加えて、ヨガ、瞑想、アロマセラピー、栄養療法といった要素を組み合わせることで、心身の再生を目的とした総合的な体験が提供されます。
また、マインドフルネス、呼吸法、代替療法などを取り入れた包括的なプログラムも主流になっていくと予測されます。
ケアのパーソナライズ化
個別最適化されたウェルネス体験へのニーズが高まる中で、各施設では、診断結果に基づくオーダーメイドのプログラム設計が進んでいます。これは、ストレス管理、慢性的な痛みの軽減、全体的な健康促進など、それぞれの課題に対応するためのもので、顧客一人ひとりに合わせたケアの提供が標準となるでしょう。
地理的拡大と普及の加速
これまでタラソ施設は海辺の地域に限定されることが一般的でしたが、人工的に海洋環境を再現する技術の進化により、非沿岸地域への展開も現実のものとなりつつあります。さらに、さまざまな予算層に合わせた価格帯のプランの導入が進められることで、より多くの人々がタラソ体験にアクセスできるようになり、その普及が一層加速していくと考えられます。
ウェルネス・ツーリズムとの融合
ウェルネスを目的とした旅行の需要は年々拡大しており、タラソテラピーは今や、ホテルリゾートや観光地のウェルネスパッケージの一部として組み込まれる存在となっています。人々は、休暇中に健康や癒しの時間を過ごすことを求める傾向を強めており、その結果、海辺のリゾートや観光地におけるタラソ施設の需要も右肩上がりとなっています。
タラソテラピーが描く持続可能な未来像
このように、タラソテラピーの未来は非常に明るく、消費者の新たな期待やテクノロジーの進展に的確に対応しながら発展していくでしょう。同時に、環境への配慮と持続可能性の確保を前提とした運営が求められており、タラソテラピーは今後も進化を続けながら、グローバル・ウェルネス市場の中核的存在として位置づけられていくと予想されます。