近年、フェイシャル用の手技マッサージツールは一般消費者だけでなく、美容の専門家の間でも高い人気を集めています。これらのツールは施術メニューに新たな価値をもたらすことができるといわれています。フェイシャルヨガの専門家であるSylvie Lefranc氏が、代表的なツールについて、その起源から施術への活用法までを解説しています。
ローラー(ROLLER)
簡単な使用法とすべての肌タイプに適応
肌の手入れを好む人々の間で人気の高いローラーは、中国の伝統医学に由来するツールです。成熟肌やセルフマッサージ初心者に補助的に用いることが推奨されています。Lefranc氏によれば、ローラーは転がす動作で使うため非常に安全であり、皮膚を強く引っ張ったり、過度に弾力を刺激したり、炎症を起こす心配が少ないといいます。敏感肌や赤ら顔になりやすい方にも適しています。
ローラーは「手以外で肌をマッサージしたいときに基本となるアイテム」と同氏は説明します。手では摩擦が起こりやすいのに対し、ローラーはオイルをあまり使用しなくても滑らかに肌をすべらせることができます。
肌への効果
ローラーはリンパの流れを促す優れた道具です。効果を得るためには、顔の中心から外側へ、首では上から下へ向けて動かすことが推奨されています。また、コラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸で構成されるファシア(筋膜)の癒着を解放する効果も期待できます。
Lefranc氏は「ローラーを使うことで組織同士が滑り、ファシアの潤滑が促されます」と説明します。定期的に使用すると滑らかな動きがファシアを整え、肌の輝きを引き出すことができます。さらに、このツールは冷温どちらでも使用可能です。冷やす場合は冷蔵庫に入れ、温める場合はお湯に通します。冷却は引き締め、排出促進、むくみの軽減に効果があり、温めることで筋肉をリラックスさせる効果が得られます。
施術での活用
ローラーはセルフマッサージで広く用いられていますが、施術者がプロトコルに取り入れることも十分可能です。Lefranc氏は「両手に1本ずつ持ち、同時に使うことを推奨します。これにより、顧客が自分ではなかなか行えない左右対称のタッチを実現できるのです」と語ります。これは極めてリラックス効果が高く、神経系の緊張を和らげ、マインドフルなリラクゼーション状態へ導くことにもつながります。
材質の選択
一般的にローラーはローズクォーツなどの半貴石で作られています。ただし、この石はエネルギーを吸収する力が比較的弱いため、水と石けんで一日に数回洗浄すれば再利用が可能です。その他にも、ジェイド、アベンチュリン、オブシディアンといった石がローラーの素材として用いられます。
フェイシャルヨガの専門家であるSylvie Lefranc氏は「オブシディアンは強いアンチエイジング効果を持つとされていますが、非常に早くエネルギーを溜め込んでしまうため、異なる人の顔に使用するのは難しいのです。サロンでの施術にはローズクォーツの方が適しています」と助言しています。
グアシャ(GUA-SHA)
力を与える道具
グアシャ(かっさ)も中国の伝統医学に由来し、顔の輪郭に沿う独特の形状が特徴です。「グアシャ」とは中国語で「火をかき出す」という意味を持っています。
Lefranc氏は「もともとは牛の角で作られた道具で、身体の一部を強くこすり、毒素を体外に排出する目的で使用されていました。カッピングと同じように、毒素は体の奥深くに入る前に皮膚の表層に現れると考えられており、皮膚を充血させることで毒素を解放できるとされていたのです」と説明します。
肌への効果
グアシャの使用目的は基本的にローラーと同様に「排出」を促すことです。特に非対称のハート型をしたものは、頬骨や眉弓、首の側面などの輪郭にフィットします。そのため、ローラーに比べて排出作用が強く、さらに筋肉の深い緊張を和らげる効果も期待できます。
「ローラーが手の動きをやわらげるのに対し、グアシャは平らな石であるため動きに強さを与えます」とLefranc氏は語ります。そのため、敏感肌や成熟肌では優しく扱い、摩擦を減らすためにオイルを使用することが推奨されます。
施術での活用
グアシャの一部には側面に突起がついているものがあり、これは額のシワを「櫛でとかす」ようにケアするために用いられます。また、頭皮への使用も可能です。「血液やリンパの循環を促進できます」とLefranc氏は述べています。
さらに、グアシャはアキュプレッション(指圧)の道具としても応用できます。「尖った部分を使えば顔の各指圧ポイントを刺激できるため、手や腕に緊張を感じやすい施術者にも有効です」と同氏は説明します。
材質の選択
グアシャは石や金属などさまざまな素材で作られています。金属は耐久性があるため、多くの施術者が金属製を選びます。石製のグアシャは大理石の床に落とすとすぐに欠けてしまうことがあります。
「アーユルヴェーダ由来の銅合金などの金属はデトックス効果を持ち、肌に触れることで毒素の排出を助けます」とLefranc氏は解説します。
カッピング(VENTOUSES)
血液とリンパの循環を促す道具
中国の伝統医学から再び紹介されるカッピングは、長年、背中に用いられて体内の毒素を排出する方法として知られています。カップによる吸引で組織の間にスペースを作り、血流や酸素供給が滞るのを防ぐ役割を果たします。この作用によってリンパ循環も改善されます。
施術での使用法
顔では、中心から外側へ、首では上から下へと動かすことで排出を促進します。また、口元や目元の細かいシワに局所的に使うのも効果的です。Lefranc氏は「カッピングは組織にふくらみを戻し、テーピングのようにファシアに働きかけることができます」と述べています。
カッピングは小顔ケアや排出促進、透明感、アンチエイジングの施術に組み込むことが可能です。ただし、誤った使い方をするとエラスチンやコラーゲン繊維を傷つける危険があるため、専門的な知識が求められます。
マッシュルーム型ツール(CHAMPIGNONS)
よりソフトなアプローチ
マッシュルーム型のツールはローラーとグアシャの中間的な存在です。転がさず、グアシャより丸みを帯びているため、肌へのアプローチはよりソフトになります。2つ同時に使用することで左右対称の施術ができ、顧客からの評価も高いといいます。
施術での使用法
目の周囲に円を描くように使用すると、より深いリラクゼーションを与えられます。「無限大の動きを目元で行うことで、さらなるリラックス感が得られます。また、グアシャと同様に顔の中心から外側へ、首では上から下へ動かして排出を促進できます。温冷効果を加えることも可能です」とLefranc氏は説明します。
さらに、マッシュルーム型は指圧の代わりとしても使用できるため、多用途で活用可能です。
材質
マッシュルーム型ツールに用いられる半貴石はグアシャやローラーと同様で、ローズクォーツ、オブシディアン、ジェイド、アベンチュリンなどが代表的です。
クライオボール(BOULES CRYOGÉNIQUES)
中国医学の推奨と逆のアプローチ
近年、冷却を用いた施術が人気を集めていますが、これは中国の伝統医学が推奨する「温める」という考えとは逆の発想です。特に目の周囲は温めることが美容面でも視力の健康面でも推奨されてきました。
Lefranc氏は「冷却は肌に温度ショックを与え、身体の奥の資源を呼び覚ます働きがあります。これはWim Hofメソッドに似ています」と説明します。
使用上の注意
ただし、クライオボールはすべての肌に適しているわけではありません。成熟肌や敏感肌に使用すると刺激が強すぎる可能性があります。「冷却は場合によっては肌を“焼く”ように作用します。特にクライオボールは肌に密着するため、摩擦が起こりやすいのです」と同氏は警告します。
そのため、問題のない肌に限定して朝の目覚めや即効的なリフレッシュに使用するのが望ましいとされています。特に排出ケアやアンチエイジング目的には不向きで、冷却によってリンパが停滞する恐れがあるためです。
Lefranc氏は「他のツールで十分に排出した後、仕上げに即効性のある“ひと押しの輝き”として使うのが最適です」と助言しています。
フェイスポインター(FACE POINTER)
筋肉の深部まで緊張を解くツール
フェイスポインターの技術性は見た目以上に優れています。このツールは二つの先端を持ち、一方は太めのシリンダー型、もう一方は三つの円筒がバネに取り付けられた円錐型です。これらは筋肉に押し当てた際に衝撃が伝わり、筋肉やファシアを深層から緩めるよう設計されています。
Lefranc氏は「ファシアに癒着があると、硬直が生じて表情ジワを固定化し、顔全体を下方向へ引き下げてしまいます。フェイスポインターはグアシャと同じく強い力を発揮できるため、セルフマッサージに用いる際は肩に余計な力を入れることなく、僧帽筋や頭皮、後頭下部の緊張を和らげることができます」と解説します。
施術での使用
フェイスポインターはセルフケアだけでなく、施術においても有効です。特に顎まわりの緊張に対しては、指を口腔内に入れて行うマッサージの代わりに利用でき、咀嚼筋に直接アプローチするのと同等の効果をもたらします。
また、このツールは施術者が顧客を座らせた状態で用いることが多く、シアツのセッションに近いスタイルで活用されます。Lefranc氏は「施術者は視覚的に構造の変化を確認しながら、緊張を緩め、バランスを取り戻すことを目的に使用できます」と述べています。さらに、体用のフェイスポインターも存在します。
プロフェッショナルへの恩恵
このツールの設計者Ena Namuri氏は、東京で夜遅くまで施術を続ける日本の美容プロフェッショナルの負担を軽減することを目的として開発しました。Lefranc氏は「施術者に強さと効率を与えることがこのツールの理念です」と説明します。
彼女自身もフェイスポインターを愛用しており、「私は日常的にこのツールを使っており、素早く効果的な排出ケアや僧帽筋、頭皮の緊張緩和に活用しています」と話しています。
リドキ(RIDOKI)
顔の指圧ポイントを刺激する道具
リドキは小さな突起が付いたローラーで、特に成熟肌に推奨されます。ベトナムの医療法「ディエンチャン」に基づき、顔の反射区を刺激して内臓に働きかけることが目的とされています。
肌への効果
このツールは特に首のケアに優れており、コラーゲン生成を刺激する作用があります。Lefranc氏は「首は顔の中でも最も早く老化が現れる部位です。皮膚が薄く負担がかかりやすいため、リドキを使うことでコラーゲンの産生を促し、シワの予防に役立ちます」と述べています。さらに、目尻や頬、口周りなど表情ジワが出やすい部分にも効果を発揮します。
ただし、赤ら顔(クープロース)を持つ肌には強い血流を促進するため不向きとされています。
カンサワンド(KANSA WAND)
エネルギーを整えるアーユルヴェーダの道具
カンサワンドはアーユルヴェーダに由来し、銅を含む合金で作られています。従来は「カンスボウル」をギーや澄ましバターとともに足裏に使用し、毒素を排出して体内の「火」のエネルギーを整える目的で使われてきました。
カンサワンドは数年前に登場したもので、半球状の先端がスティックの先に取り付けられ、顔に使いやすく改良されています。施術中は金属が体温で温まり、解毒効果を高めます。
Lefranc氏によると「使用中にオイルが黒ずむことがあります。これは体が解毒のチャンスを得て全身の毒素を顔に集めてしまうためです。したがって、全身を対象とするアーユルヴェーダの流れの中で、足から始めて顔に移る形で使うのが望ましい」とのことです。特に春の肝臓デトックスの時期にセルフマッサージで使用すると効果的とされています。
施術にマッサージツールを取り入れるメリット
ローラーやリドキのようにファシアを滑らせるツールや、グアシャやフェイスポインターのように施術者の力を補強するツールは、手技と組み合わせることで相乗効果を生み出します。顧客にとっては「感覚の旅」ともいえる多彩な体験が提供され、施術者にとっては身体的な負担の軽減にもつながります。
美容施術における専門知識の重要性と信頼性
Lefranc氏によれば、ローラーは簡単でリスクも少ないため特別な習得は不要です。しかし、フェイスポインターやグアシャのように力を伴うツールは、正しい知識と技術を習得して使うことが望ましいとされています。それは結果を最大化するためだけでなく、専門家としての信頼を築くためでもあります。顧客もこれらの道具を入手可能な時代だからこそ、プロフェッショナルは専門性をもって施術に臨むことが重要です。