世界の美容とヘルスケアビジネス情報を配信

FEATURED

注目の企画

SCIENCE

秋本番に備える温冷交代ケア──夏冷え残りを整える自律神経アプローチ

猛暑と冷房によって蓄積した“夏冷え残り”は、自律神経の乱れを介して疲労感や肌トラブルを秋に持ち越す。こうした生活者のリアルな不調感に対応する新たな市場テーマが「温冷交代ケア」である。スポーツ科学や温泉療法のエビデンスを背景に、美容・健康産業における製品開発やマーケティングの重要キーワードとして浮上しつつある。

「夏が終わっても手足の冷えが続く」「朝起きても疲れが抜けない」。

このような“夏冷え残り”を訴える生活者の声は年々増加している。冷房による末梢血管の収縮、冷たい飲食習慣、寝苦しい夜による自律神経の乱れは、秋にかけて疲労感・肌のごわつき・むくみ・透明感の低下といった症状として表面化する。

特に20〜30代女性は「くすみ」「むくみ」といった美容的変化に敏感で、SNS上では「夏疲れ肌」「冷房疲れ」といったキーワードが拡散している。30〜40代女性は仕事や子育てのストレスと重なり、睡眠の質低下や慢性疲労を訴える傾向が強い。さらに40代以上では更年期や代謝低下により冷えが慢性化しており、健康領域と重なるニーズが拡大している。

生活者が求めているのは即効性と持続性の両立であり、この需要に応える手段として温冷交代ケアが注目されている。

参照:水風呂・チラー.com

温冷交代ケアには大きく「サウナ」と「温冷交代浴(温浴)」の二つの入り口がある。

いずれも温冷刺激によって血管や自律神経を鍛える点では共通しているが、刺激の強度と得られる効果には差異がある。

サウナ:80〜100℃の高温環境で発汗を促し、水風呂で一気に冷却することで交感神経を強く刺激。短時間で血管の収縮と拡張を繰り返し、代謝促進・疲労回復・深いリラクゼーションを得られる。近年は「サ活」ブームを背景に、Z世代男性を中心に市場が拡大している。

温冷交代浴(温浴):40〜42℃の湯船と水風呂を交互に利用する比較的マイルドな方法。血流改善やリラックス感に優れ、初心者や日常的なセルフケアに適している。睡眠改善を志向する層や、美容・健康の両立を求める層に親和性が高い。

市場的示唆として、サウナは短時間・強刺激型の「トレンド市場」、温冷交代浴は持続的・日常習慣型の「シーズナル美容市場」と棲み分け可能である。消費者特性に応じた差別化訴求が戦略上不可欠だといえる。

「温かいお湯」と「冷たい水」を交互に浴びるという手法は古くから知られてきたが、近年はその効果が科学的に裏付けられている。

  1. 血流促進と筋肉の緩和
    温冷交代浴によって肩や腰の血流量が約1.5倍に増加し、筋肉の硬さが緩和されることが確認された。これは疲労感軽減に直結する成果である。
  2. 疲労回復と柔軟性の向上
    運動後に温冷交代浴を行うことで筋肉の硬さが速やかに低下し、関節の柔軟性が改善することが示された。単なるリラックス法を超え、アクティブな疲労回復法として有効である。
  3. 自律神経の安定化
    温冷刺激により交感神経と副交感神経の切り替えが整えられることも明らかになっている。ストレスの多い現代生活において、リセット効果は大きな価値を持つ。

このように、温冷交代ケアは「科学的セルフケア」として位置付けられる段階に入っている。

  1. 温冷テーマの製品設計
    入浴剤・バスソルト:炭酸ガスや温感成分とメントールを組み合わせた処方
    ジェル・パック:ホットタオル後のクールジェル、CICA配合マスクなど
    美容家電:温冷切替機能付き美顔器やスチーマー
  2. クロスカテゴリ戦略
    美容と健康を横断する商品設計が有効。サウナ施設や温浴スパでの体験から、家庭用製品へのクロスマーケティングまで「体験 × 製品」の連動が差別化要素となる。
  3. 安心・安全性の確保

高血圧や心疾患を持つ消費者にはリスクがあるため、ブランドは注意喚起や推奨方法を明確に提示する必要がある。安全性の担保が信頼獲得に直結する。

温冷交代ケアは「夏冷え残り」という生活者インサイトを出発点に、美容と健康を横断する新市場を形成している。サウナのトレンド性、温浴の習慣性、科学的エビデンスによる信頼感。この三つを掛け合わせることで、ブランドは「科学 × 習慣」を基盤としたシーズナル美容戦略を構築できる。今後、温冷交代ケアを軸にしたプロダクト提案は、秋冬市場における差別化の新たな成長ドライバーとなるだろう。

参考文献

[1]岡田直樹・片平誠人「全身シャワーを用いた温冷交代浴が運動後の疲労回復に及ぼす影響」『Panasonic Technical Journal』66巻1号、2020年、pp.111–115.
[2]澤田智紀・大川原洋樹・中島大輔・名倉武雄「温冷交代刺激が筋疲労と自律神経活動に及ぼす影響」『デサントスポーツ科学』43巻、2022年、pp.178–187.
[3]清水祐樹・河内泰司・柿崎勝「温冷交代浴効果を利用したドライバ肉体疲労軽減手法の開発」『自動車技術会論文集』52巻3号、2021年、pp.595–600.

Inner Beauty Award 2025 ―受賞商品発表―

  • Byline
  • New
美容経済新聞

美容経済新聞は、日本の美容業界に特化した専門的なニュースを提供するメディアです。業界の動向やトレンド、企業情報、製品情報など、美容に関する幅広いテーマを取り上げています。 編集部では、美容業界の取材や情報収集、分析を行い、業界内外の最新情報を主に美容業界関係者に向けて発信しています。私たちは「キレイをふやす」を企業理念として信頼性の高い情報提供を通じて美容業界の発展に貢献すべく努力しています。

  1. 秋本番に備える温冷交代ケア──夏冷え残りを整える自律神経アプローチ

  2. ビューティーの再発見──アイスタイルが提案する新店舗「@cosme STORE ニュウマン高輪店」

  3. 米TikTok規制不透明期、美容ブランドが取るべきKOL投資ヘッジ戦略

RELATED

気になるなら一緒に読んでほしい関連記事

PAGE TOP