自分の身だしなみを整える行為は、贅沢でも気まぐれでもありません。人が健やかに生きるために欠かせない基本的な行動であり、尊厳や心身の健全さと深くつながっています。特に、年齢や病気によって心身が弱まるときこそ、これらのケアはより大きな意味を持つようになります。私たちの業界には、サロンに通う方々と、自立が難しくなった方々の間に連続性がありません。外出が困難になると施術は途切れがちで、訪問対応をする専門家はごくわずかです。
執筆:Élodie Martinak(セラピスト・講師)
加齢とともに減少する自己ケア習慣とその重要性
幼少期から、ケアは普遍的なコミュニケーションの形として存在します。親が子どもに入浴させる行為、傷口にそっと触れるしぐさ、熱のある額に触れる優しいキスなど、これらは愛情や保護、安心感を伝えるものです。
大人になると、私たちはこれらの行為を自ら続け、心を落ち着かせ、自分らしさを確認し、自己表現にもつなげていきます。身だしなみを整えることは、身体と向き合い、清潔にし、潤いを保ち、手をかけ、大切に扱うという親密で温かい関係を育むことでもあります。
しかし、年齢を重ねるにつれて、こうした行動は難しくなり、時には消えてしまうこともあります。「誰のために? 何のために?」と気力を失ってしまう方もいます。それでも実際には、このタイミングこそ最も必要とされる時期です。自己ケアをやめてしまうことは、少しずつ自分らしさや喜び、尊厳を失っていくことにつながりかねません。
高齢者施設で美容ケアを提供するようになった理由

Élodie Martinak(セラピスト・講師)
私は十五年間、美容ケアの専門家として仕事をしてきました。以前はスパで働いていましたが、娘を出産した後、健康上の問題で自分が外出できなくなった時期がありました。そのとき、施術を受けられず困った経験をしました。
そこで、外出が難しい方や、依頼することにためらいを感じている方のために、自分の事業を立ち上げたいと思うようになりました。実際に訪問での活動を始め、七年間にわたって在宅ケアと、ブルージュ周辺にある六つのEHPAD(高齢者向け介護施設)での施術を組み合わせて働いています。
高齢者施設での施術を通じて、身だしなみを整える行為が再び身についたり、新しい感覚としてよみがえったりする場面を多く見てきました。フェイシャルトリートメントやハンドケア、軽いメイク、またはクリームを丁寧に塗るといったごくシンプルな行為であっても、自尊心や気持ちの明るさに強い影響を与えます。身体を再び自分のものとして感じるきっかけになり、「自分は今も大切に扱われる存在だ」と思い出していただけます。若い頃から習慣として身につけておくことが、生涯にわたるケア意識につながると考えています。
美容施術が心身の健康と認知機能を支える効果とは

美容ケアは、技術的な行為だけにとどまりません。相手との関係性を育む行為でもあります。施術の時間そのものが、寄り添い、耳を傾け、温かい存在であり続けるための機会になります。
施術での触れ合いは、医療の場で行われるような強制的な接触とは異なります。あくまでも優しく、選択的で、尊重に満ち、相手を安心させるために設計されたものです。
心をほぐす触れ合い
高齢者の中には、医療行為以外で触れられる機会をほとんど持てない方もいます。そのような方々にとって、心地よい触れ合いは欠かすことのできないものです。
以前、非常に内向的で、ほとんど接触を受け入れない方がいました。何度かハンドケアを重ねるうち、徐々に心を開いてくださり、ある日、ご自身の子ども時代について語り始めてくれたことがありました。
施術の時間は、言葉を交わし、信頼関係を育てる場にもなっていました。たとえば、おしゃれが大好きなある女性は、フェイシャルトリートメントの後に毎回声を上げて笑い「こんなに気持ちが軽くなるなんて忘れていました」と話していました。こうしたひとときは、まさに時間から切り離された小さな泡のような瞬間です。その人はもはや「高齢者」「入所者」「患者」「要介護者」といった枠ではなく、ひとりの女性として尊重され、見つめられ、耳を傾けてもらえる存在になります。
心身全体の健やかさを支える力
これらの施術は単なる心地よさにとどまらず、心身の健やかさに具体的な効果をもたらします。
やさしい触れ合いは血液やリンパの巡りを促し、ソフトなマッサージは筋肉の緊張をほぐして不安感を和らげ、睡眠を助けます。また、フェイシャルトリートメントは乾燥や赤み、かゆみが出やすい繊細な肌を守り、潤いを与えます。こうした基本的なケアは、肌のトラブルや不快感を防ぐことにも役立ち、高齢者の心身を支える大切な手立てになります。また、施術は五感を刺激し、落ち着きを促すため、認知機能の低下がある方にとっても大きな助けになります。こうした豊かな作用は、実は私たちの仕事に備わっている価値でありながら、十分に活かされていない部分でもあります。
加齢による自己喪失を防ぐ美容ケアの役割
加齢に伴う体の変化は、多くの場合「失うこと」として受け止められ、外出や交流を控えるきっかけになることがあります。鏡を見ることがつらくなり、避けるようになる方もいます。中には、おしゃれだけでなく、基本的な身だしなみの習慣まで手放してしまうケースもあります。
美容ケアは、こうした現実を消し去るためのものではありません。むしろ、寄り添いながらその人の今を受け入れ、支えるためのものです。フェイシャルトリートメントを施すことや、軽くメイクをする行為は「あなたは大切な存在です」というメッセージそのものです。
自分自身の姿を再び受け入れられるようになることで、心に温かさと尊厳が戻り、活動への意欲や他者とのつながりへの関心が芽生えます。これは孤立や気分の落ち込みを和らげるうえでも大きな効果があります。こうした方々を私たちのアプローチに取り入れることで、対象となる利用者を広げ、より包摂的な仕事へと発展させることができます。
高齢者の日常に美容ケアを取り入れるための実践ポイント
高齢者の日常に美容ケアを取り入れることは、必ずしも簡単ではありません。羞恥心や自立への思いを尊重する必要があります。以下のような工夫が役立ちます。
じっくり話を聞く姿勢を持つこと
まず相手を知ることが大切です。何を求めているのか、どんな不安があるのか。年齢を重ねた自分の体や触れられることに抵抗を感じる方もいれば、そうでない方もいます。心を落ち着かせる声がけと丁寧な対話が欠かせません。
プライバシーを尊重すること
ドアを閉める、仕切りを設ける、施術しない部分をタオルで覆うなど、細やかな気配りが尊厳を守り、安心感につながります。
家族に状況を伝え、協力を得ること
家族が訪問時にケアを続けられるよう、情報や方法を共有すると効果が長続きします。
施術内容を調整すること
手や足のマッサージ、やさしいフェイシャルトリートメント、軽いメイク、爪のケアなど、負担の少ない内容を選びます。身体の状態に合わせ、刺激が少なく安心して使える製品を選ぶことも大切です。
地域連携と情報発信で広げる高齢者美容ケアの可能性
このような施術を事業の中に取り入れるためには、まず、今の顧客に向けて積極的に話題にすることが大切です。多くの方が、高齢の親や親族を施設または自宅で支えており、こうしたサービスは、思いやりのある実用的な贈り物として提案できます。たとえば、お母さま、おばあさま、おじいさま、叔母さまに向けた、からだに負担の少ないケアのプレゼントという選択肢になります。
地域とのつながりを活かす
EHPAD(高齢者向け介護施設)やシニア向け住宅、在宅支援サービスに連絡し、提供内容を紹介することも有効です。デモンストレーションや体験型ワークショップを行うことで、理解が深まりやすくなります。また、理美容業、訪問看護師、介護支援の専門職など、地域のネットワークはあなたの取り組みを広めてくれる貴重な存在です。
SNSでの発信
高齢者や心身の弱さを抱えた方に向けて、思いやりを重視した施術を提供していることを明確に伝えます。写真や体験談(許可を得たうえで)を掲載し、ケアの質ややさしさについて安心してもらえるよう発信します。この取り組みには熱意と丁寧な説明が求められますが、人としても職業人としても大きな可能性を開きます。高齢の方々の尊厳を守り、ご家族に安心を届けることにつながり、ご家族や周囲の方々との関係づくりにも役立ちます。
生涯を通じて続く自己ケア習慣の重要性

人生を通して続く取り組みとして
これらのケアが人生の最終段階でとりわけ重要であるのは事実ですが、それはあらゆる年代にも同じことが言えます。若い頃から「自分を大切にする意識」を育み、年齢を重ねても続けられるようにすることが大切です。
自分を整えることは、外見を美しくするだけではありません。自分のために時間を使い、心地よさを与え、自分の価値を認める行為です。自分を尊重し、心の声に耳を傾ける姿勢でもあります。こうした習慣や考え方を顧客にも伝えていくことで、「健やかに年を重ねる」準備を整えることにつながります。人生がより繊細になる時期でも、これらの行動は自然で心を支えるものとして残るでしょう。
より人間的で包摂的な美容のために
美容とウェルネスの専門職として、私たちには重要な役割があります。それは、美の追求だけにとどまらず、人としての側面や関係性を含んだ幅広いケアの意味を見つめ直すことです。自分の身だしなみを整える行為は、生涯にわたって欠かせない行動です。あきらめや孤独、尊厳の喪失に抗うための行為でもあります。
EHPADでの活動を通じて、私はこれらのケアが一日の気分や心の状態を大きく変え、再び笑顔をもたらす場面を何度も見てきました。「自分を大切にする」という意識を私たち自身の実践と考え方に取り入れることで、より人に寄り添い、優しく、包摂的な社会づくりに貢献できると信じています。年齢を重ねることが「手放す」ことではなく、「人生を続けていくためのひとつの形」だと感じられる世界を目指していきたいと思います。
