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スタッフの幸福が生み出す美容ビジネス成長の10の鍵

執筆:Alexandra Cauchie(国際コンサルタント/化粧品・ウェルネス施設専門トレーナー)

各施設を訪ねるたびに、私は同じような現場の声を耳にします。施術スタッフの疲弊、身体的に厳しい労働、十分とはいえない報酬、過密なスケジュール、そして自分自身をいたわる時間も気力も残されていないという現実です。加えて、マネージャーの過労も目立っています。

では、日々の業務の中で、チームのパフォーマンスとスタッフの幸福をどのように両立させればよいのでしょうか。その答えのひとつは、チームの幸福を経営の中心に据えることにあるのかもしれません。それこそが、長期的に持続可能なマネジメントの鍵となるのです。

ウェルネス施設の成功は“満たされたチーム”から始まる

明確で共感を呼ぶビジョンを共有する

チームが調和を保ち、効率的に機能するためには、共通の明確で前向きなビジョンを共有することが欠かせません。強いビジョンは、日々の行動や一つひとつの仕事に意味を与え、メンバーのモチベーションを高めます。自分たちの行動の理由を理解できたとき、スタッフはより主体的に取り組むようになります。

ビジョンの具体例

ウェルネス施設におけるビジョンは、さまざまな形をとることができます。例えば「お客様満足度の徹底追求」「常に卓越性と革新を追い求めるケアの提供」「ホリスティックな健康分野でリーダーとなることを目指す」などです。方向性がどのようなものであっても、重要なのはすべてのメンバーがそのビジョンを理解し、共感していることです。

魅力的なビジョンを創るために

まず、自分たちが本当に達成したいことを明確に定義することから始めましょう。そのためには、施設の戦略的な方向性だけでなく、各メンバーがどのようにそのビジョンに貢献できるのかを丁寧に考える必要があります。

目的は単に枠組みを設定することではなく、チーム全体をワクワクさせる共通のプロジェクトに巻き込むことにあります。チームメンバーをビジョンづくりの過程に参加させることは、非常に有効な出発点です。ブレインストーミングの場を設け、意見を集め、日々の業務が施設全体の目標とどのようにつながっているかを説明します。これにより、ビジョンに正当性が生まれ、メンバーの納得と意欲が高まります。

スタッフ一人ひとりが「自分の役割が施設の成功にとって欠かせない」と実感できる環境づくりこそ、真の成果を生み出す基盤になるのです。

スタッフの目的意識を高めるビジョン共有の仕組み

1. チームを財務目標に巻き込む

スタッフを財務目標の達成に参加させることは、意識の向上と責任感の醸成につながる重要な鍵です。自分たちの仕事が収益にどのような影響を与えているかを理解することで、チームメンバーはより主体的に、そして意欲的に施設の利益向上に貢献しようとします。

数字を共有する

施術コスト、人件費、サービスごとの収益性などの重要な数値を共有することで、スタッフは自分の役割が施設の成功に直結していることを実感できます。単にデータを伝えるのではなく、日々の行動が企業の業績にどう影響するのかを理解してもらうことが大切です。

さらに、スタッフをコストや利益率の管理に関与させることで、効率性が高まり、財務面での一体感も育まれます。この透明性は信頼関係を強化し、結果が良くても悪くてもチーム全体で課題に取り組む姿勢を生み出します。

2. 建設的なフィードバック文化を育てる

チームが成長を続けるためには、建設的なフィードバックの文化を築くことが欠かせません。単に間違いを指摘するのではなく、学びと成長を促すオープンな対話の場をつくることが大切です。

「結果」よりも「改善」を重視する

定期的なフィードバックを推奨しましょう。ポジティブな評価も建設的な指摘も、具体的で明確、そして改善を目的としたものであるべきです。結果だけでなく、努力の過程や望ましい行動にも焦点を当てることで、チーム全体の成長を促します。

フィードバックはストレスの原因ではなく、成長のためのツールであるべきです。メンバーが安心して意見を受け取れる環境を整え、成果を認め合うことを自然な習慣にしましょう。

このアプローチは信頼と自立性を育み、マネジメントを成功へ導きます。的確なフィードバックは、チームを鼓舞し、全員がベストを尽くすための原動力となります。

信頼と主体性を育むウェルネスマネジメントの実践

3. 連帯感とチームスピリットを育む

ウェルネス施設では、顧客対応や施術の質が成功の鍵を握ります。結束力のあるチームは、顧客に特別な体験を提供し、働きやすく生産的な職場環境をつくります。

チームのための活動を企画する

連帯感を育てるには、まず交流の機会を設けることが大切です。カジュアルなミーティング、ウェルネス関連のワークショップ、社内イベントなどを通じて、メンバー同士の理解と信頼を深めましょう。こうした時間が協調性を高め、日常の協力体制を強化します。

競争より協力を重視する

それぞれが個人の成果だけでなく、チーム全体の成功に責任を持てる環境を目指します。助け合いと相互支援を評価することで、全員が同じ方向に向かって進む一体感が生まれます。

このような連帯的な環境は、チーム全体の幸福感を高め、サービスの質やスタッフ定着率にも好影響をもたらします。

4. 個人とチームの成果を称える

努力しても評価されないチームを想像してみてください。やる気が続かないのは当然です。ウェルネス施設でも、個人とチームの成果を認めることは、意欲と活力を保つうえで欠かせません。それはまるで庭の花を育てるようなものです。しっかり水を与えるほど、美しく咲き誇るのです。

例えば、顧客から特に高い評価を得たスタッフを、ミーティングの場で小さな贈り物や言葉で労うことも効果的です。チーム全体に向けて感謝のメッセージを伝えることも、自己肯定感を高める良い方法です。こうした小さな心遣いが、スタッフのやる気を引き出し、今後の業務への意欲と集中力を高めます。

成果を祝う

チームが共通の目標を達成したとき――例えば顧客のリピート率が上がったり、過去最高の施術数を記録したりしたときには、その成功を共に祝うことが大切です。チームランチや報奨金、社内チャレンジなどを行うことで、一体感が生まれ、成果がチーム全体の喜びとして共有されます。

快適で持続可能な職場環境を整える

5. 職場環境を最適化する

職場環境は、スタッフのパフォーマンスや満足度に大きく影響します。快適でない空間で働くことを想像してみてください。それは日々の気分を損ない、提供できるサービスの質にも悪影響を及ぼします。

スタッフの快適さを高めるために

職場環境を改善するには、空間設計に配慮することが重要です。施術室は人間工学に基づいて整備し、身体的負担を減らす設備を導入することが望ましいでしょう。高さ調整可能なベッド、十分な作業スペース、動きやすく快適な制服などは、スタッフの身体的快適さを大きく向上させます。

リネンの管理にも注意を

多くの施設で見落とされがちですが、リネンの流れを効率的に管理することは非常に重要です。大量のリネンを扱う施設では、よく考えられた運用体制が必要です。例えば、キャスター付きワゴンを導入してリネンを移動させれば、スタッフの負担を軽減し、疲労を防ぐことができます。リネンの動線を見直し、一日の必要分を保管できるスペースを設け、使用済みリネンの回収場所を確保することで、業務効率が向上し、作業のストレスも減少します。

スタッフのための休憩スペースを忘れずに

施術の合間にリフレッシュできる場所を設けることも不可欠です。短時間でも心身を休めることで、ストレス軽減だけでなくチームの絆が深まり、サービス品質の維持にもつながります。

6. 業務負担のバランスを取る

業務量の管理は、スタッフの疲労を防ぎ、サービスの質を維持するための基本です。過密なスケジュールや偏った業務配分は、疲弊やバーンアウトを招くおそれがあります。バランスの取れた勤務計画と業務設計を行うことが大切です。

休憩時間をしっかり確保する

繁忙期と閑散期の傾向を分析し、業務と休憩の配分を調整しましょう。比較的落ち着いた時間帯には、チームをローテーションさせて、休息を取ったり、備品の準備や在庫管理といった負担の少ない業務にあてたりすることも効果的です。

施術内容に変化をつける

1日に長時間、同じ種類の施術を繰り返すことは避けましょう。例えば、6時間連続でマッサージを行うようなスケジュールは、身体的にも精神的にも持続不可能です。施術内容を変化させることで、エネルギーの消耗を防ぎ、集中力を保てます。

施術の間に十分な休憩を設ける

施術と施術の間には、最低15分の休憩を設けることが理想です。多くの施設では、いまだに5〜10分しか確保していませんが、それでは長期的に持続できません。十分なインターバルを取ることで、顧客とのコミュニケーション時間が増え、商品の提案や顧客の定着にもつながります。

外部スタッフを活用する

繁忙期には、外部の契約スタッフをチームに加えるのも有効な手段です。臨時のサポートメンバーを確保することで、施術数を増やしつつ、常勤スタッフの負担を減らせます。これにより、サービス品質を保ちながらチームの疲弊を防ぐことができます。

業務を公平に分担する

業務量の不均衡は、単なる不満にとどまらず、深刻な影響を及ぼすことがあります。

タスクが不公平に割り振られると、チーム内に緊張が生まれます。負担が大きいメンバーは疲弊し、逆に仕事量が少ないメンバーは、自分が過小評価されていると感じることがあります。こうした状況は、チームの一体感を損ない、対立を生み、組織の協調性に悪影響を及ぼします。

スタッフの成長と幸福が施設の未来をつくる

7. メンバーのキャリア志向を支援する

すべてのチームメンバーには、それぞれのキャリア目標があります。これらの職業的な志向を支援することは、成長意欲を高め、長期的な定着につなげるうえで欠かせません。たとえば、マネジメント職への昇進の機会を設けたり、新しいスキルを習得するための研修を提供したりすることが考えられます。スタッフが自身のキャリア目標に対してサポートされていると感じると、仕事へのモチベーションと責任感が強まり、より長く施設に貢献するようになります。

キャリア目標を明確にする

まずは、スタッフ一人ひとりの目標を把握することから始めましょう。

個別面談を行い、今後の成長や希望するキャリアについて話し合うことが有効です。それが施設内での昇進であっても、業界全体でのキャリア発展であってもかまいません。こうした対話は、組織がスタッフの将来を尊重しているという姿勢を伝え、信頼関係を強化します。

学びの機会を提供する

目標が明確になったら、次はその実現を支援する学習機会を提供しましょう。

専門分野の研修、資格取得、業界コンテストへの参加などが効果的です。たとえば、特定の技術を深めたいスタッフやマネジメントスキルを身につけたいスタッフには、社外研修や社内トレーニングを受けられる環境を整えるとよいでしょう。

成長のチャンスを社内に設ける

社内でキャリアアップできる仕組みを整えることも、優秀な人材を引き留める手段です。

将来的にチームリーダー、研修担当、または運営管理職などの道が見えると、スタッフは今の職務にも一層意欲的に取り組むようになります。

8. 公正で魅力ある報酬と福利厚生を整える

報酬だけがすべてではありませんが、モチベーションを維持するうえで重要な要素であることは確かです。

現場では、労力と報酬が必ずしも釣り合っていないケースも見られます。限られた予算の中で、経営的な制約から賃金の調整が難しい場合もあるでしょう。それでも、チームの努力を正当に評価するための工夫は可能です。

インセンティブ制度を導入する

製品販売、サービス提供、再来店予約(リブッキング)などに応じた成果報酬制度を導入するのは有効な手段です。スタッフのやる気を高めながら、施設の収益向上にも寄与します。このような仕組みは、努力と成果がしっかり報われるという意識を醸成します。

魅力的な福利厚生を用意する

給与面での調整が難しい場合でも、福利厚生の充実によって満足度を高めることができます。社内サービスの無料利用、製品割引、社員向け特典などは、働く意欲やチームへの愛着を高める効果があります。こうした制度は、長期的な人材定着と職場満足度の向上につながります。

9. 仕事とプライベートの調和を保つ

要求の多い業界だからこそ、仕事と私生活のバランスを取ることが何より大切です。繁忙期が避けられないとしても、その後にはしっかりと回復の時間を設ける必要があります。無理を続ければ、疲労やストレスが蓄積し、最終的にはパフォーマンス低下や離職につながるおそれもあります。スタッフが安心して働き続けられるよう、柔軟な勤務体制や十分な休息時間を確保することが求められます。

回復日の柔軟性を確保する

激しい業務期間の後には、柔軟に休暇を取得できる仕組みを設けることが重要です。この制度により、スタッフは罪悪感を持つことなくしっかりと休養を取り、心身をリセットして再び高品質なサービスを提供できるようになります。

4日勤務制の導入を検討する

もう一つの選択肢として、週4日または4.5日勤務制を導入する方法があります。これにより、週あたりの労働時間を減らしつつ、サービス品質を維持することができます。スタッフにとっては、半日または1日多く休息を取れることが大きな利点となり、長期的な健康維持と活力アップにつながります。

休憩を計画的に取り入れる

一日の業務の中で「アクティブレスト(軽い運動)」や「デジタルデトックス」など、短時間のリフレッシュ時間を取り入れることも効果的です。小さな休憩をこまめに取ることで、たとえ多忙な日でもリセットでき、ストレスや疲労の蓄積を防ぐことができます。

チームの声に耳を傾ける

最後に、スケジュールやチームの要望についてオープンな対話を保つことが、疲弊を防ぐ鍵となります。スタッフ一人ひとりの意見を聞き入れることで、より現実的でバランスの取れた勤務体系をつくり、仕事と私生活の調和を実現できます。

10. 健康維持のための予防プログラムを導入する

繰り返しの動作や無理な姿勢、長時間労働は、筋肉痛や腰痛、さらにはストレス関連の不調を引き起こすことがあります。健康維持のための予防プログラムを導入することは、スタッフの健康を守り、チームの継続的な安定を図る有効な手段です。

リラックスの機会を設ける

まず取り組むべきは、定期的なリラクゼーションやウェルネスワークショップの実施です。

ヨガ、ストレッチ、施術前のウォームアップ、筋肉のリラクゼーションなどを日常のルーティンに取り入れることで、身体的な緊張を和らげ、けがを予防できます。このような「リセットの時間」は、スタッフの心身を整え、再び集中力を高める効果があります。

健康的な生活習慣を促す

また、食事や水分補給などの生活習慣の意識向上も欠かせません。適切な栄養摂取は、エネルギーと集中力を維持するために不可欠です。食生活や水分補給に関するワークショップを実施することで、チーム全体の健康意識を高め、日々のパフォーマンスを支えることができます。

スタッフの幸福を基盤にした持続可能な施設経営のまとめ

要求の多い職種だからこそ、スタッフの幸福を守りながら高品質なサービスを維持する仕組みづくりが欠かせません。

今こそ、スタッフを経営戦略の中心に据え、幸福を成果の源泉とする発想が求められています。なぜなら、成果を上げる施設は、まず満たされたチームから始まるからです。スタッフを大切にすれば、彼らもまたお客様を大切にしてくれるのです。

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編集部(フランス)

SPA DE BEAUTE編集部(パリ)…フランスのLes Nouvelles Esthétiques社が2016年に創刊したSPA向けの専門月刊誌です。スパの経営者や施設関係者を対象とし、世界のリゾート、ホテルスパ、ディスティニースパなどを特集。本誌は20数か国でライセンス供給されており、スパ業界で最も信頼されているメディアの一つとして高く評価されています。

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