タラサ志摩ホテル&リゾート 取締役社長今野華都子さん
監修:美容経済新聞
2004年第一回LPGインターナショナルコンテストフェイシャル部門で世界グランプリを受賞
花上:成人になられてからは生まれ育った仙台で農家に嫁がれて主婦業をされていたとのことですが、45歳のときに美容の世界に入られたきっかけはなんですか。
今野:私たちの夫婦には二人の子どもがいます。子どもが大きくなるにつれて学費などのお金が必要になってきたのを機に、仕事に就こうと決意しました。しかし、私には履歴書に書ける資格も、誇れる技術もありませんでした。さらに1998年といえば、今と匹敵する不況の時代。それでも、“何かをやって、お金を稼がなければならない”その想いだけで事務所を一室、借りることにしました。
花上:そこから、どんなお仕事を始められたのでしょうか?
今野:そこで始めたのは、まつ毛パーマのお店です。知り合いから技術を学び、自分のお店を開きました。お店の経営なんてしたことがありませんでしたから、どんな風にお金を稼げばいいのか? どんな風に集客をしていいのか? ノウハウなんてありません。さらに、ほとんど資金がないとこからスタートしたため広告を出すこともできなかったのです。そこで、私は老舗デパートの前に立ってお声掛けをしました。まつ毛パーマを知っている人はほとんどいなかったため最初は無視されました。しかし200人目ぐらいで興味を持ってくれる人に会い、あっというまに口コミで広がっていったのです。不況の時代にもかかわらず、次から次へとお客様がいらしてくださいました。その頃の私は、経験やノウハウがないからこそ、常識にとらわれない発想ができたのだと思います。「ない」ということは、創意工夫する勇気を与えてくれるんですね。
花上:なるほど。不況とはいえ、順調にお店をスタートしたのですね。今野さんの真剣な姿勢が、お客様にも伝わったのではないでしょうか。
今野:開業して3ヶ月もすると、売り上げは180万円ほどに。お客様はみるみるうちに増えましたが、それだけお客様を施術していると、ある問題があることがわかりました。それは、「一人ひとりのお客様の毛質が違うのに、市場で販売されているロッドが3種類しかない」ということ。その不便を見逃してはならないと思い、手づくりで12種類の道具を作りました。すると、あらゆるまつ毛の長さや性質に対応できるようになり、これまで解決できなかったお客様のどんな悩みやリクエストにも、応えることができるようになりました。人は真剣に悩むとちゃんと答えは出るもの。
目の前の問題に正面から向き合って、解決するために考えることがたいせつだと思いました。
花上:一つひとつの問題から逃げようとせず、正面からぶつかっていくのは簡単なことではないと思います。そんな風にして、施術のクオリティもどんどん向上されていかれたのですね。まつ毛パーマのお店をされていた今野さんですが、その後、フェイシャルに転向されましたね?
今野:はい。フェイシャルに携ったのは、お肌が荒れたお客様と出会ったこと。その方のお肌のお悩みを伺ったことがきっかけです。私自身もある程度年を重ねた頃から、女性としてシミやシワを気にするようになっていました。顔のお手入れやお化粧品に関心があり、多少の知識も持っていたので、そのお客様にできる限りのアドバイスをして差し上げたんです。そこから他のお客様にも伝わり、フェイシャルをメニューとして出すようになりました。お客様一人ひとりに肌の悩みがあることに気づき、「肌が荒れる原因はなんだろう?」、「なぜ、ここにシワができるんだろう?」と、皮膚生理学や大脳生理学、リンパなどの勉強をしながら、フェイシャルの道を突き詰めていきました。
花上:ご自分が悩まれていたことをきっかけに、お客様にもアドバイスするようになったんですね。
今野:はい。私は45歳からのデビューだったので経験が浅かったですが、経験の長さで競おうとしても、ないものは仕方がないですね。ですから、ないものを卑下するのではなく、「あるものを武器にしていく」という考え方で、私なりのアドバイスをしていきました。20代の素敵なエステティシャンがいらっしゃったとしても、40歳の悩みは実感としてはわかりませんよね。20代のお嬢さんよりも20年以上の経験があることを武器にして、お客様の悩みにリアルに応えていったのです。
花上:2004年には第一回LPGインターナショナルコンテスト フェイシャル部門で、世界110カ国の中から最優秀グランプリを獲られましたね。そのときはどんなお気持ちでしたか?
今野:おかげさまでフェイシャル部門において世界一という賞をいただきました。それは、ただひたすら、お客様一人ひとりのお悩みと向き合い、「どうしたらこの人をきれいにすることができるのか?」ということを日々、考えてきた結果なのだと思います。目の前に来る人のことを考えて、その人を喜ばせるためにはなにをしたらいいか。来る日も来る日も、真剣に考えていましたから。
花上:短いキャリアの中で世界ナンバーワンになられたのも、お客様に向き合う真摯な姿勢や、細やかな心遣いをされる中から勝ち取れたものなんですね。そこから、現在のポジションである『タラサ志摩ホテル&リゾート』取締役社長に至るまでにはどのような経緯があったのでしょうか。
今野:エステティシャンとして講演を依頼され、そこで出会ったのが、現在の代表取締役である野沢宜巳氏でした。野沢氏は、私が講演の演台に立つまでの10秒足らずの合間に「『タラサ志摩ホテル&リゾート』の社長はこの人だ!」という直感が走ったといいます。17年前、アジアで初めて代替療法のタラソテラピーを始めたのがこのホテルで、当時は一世を風靡しました。しかし、不況やさまざまな出来事を経て、私が野沢氏と出会ったときには、すでに36億円の累積赤字を抱えていました。ホテルの社長に、というお話をいただいたとき、私にはそのときの人生がありましたし、興味もなかったので、お断りしていました。しかしお誘いを受けている中で、人には運命というものがあるということを感じ、この仕事を引き受けようと思ったのです。
Profile
タラサ志摩ホテル&リゾート 取締役社長
日本エステティック協会認定エステティシャン。日本エステティック業協会認定講師。
2007年4月、まったく経験のないホテル業のトップに就任。
当時、経営不振だったホテルで従業員一人ひとりと向き合うことで再建に成功する。
著書に「運命を変える言葉」(知致出版)、「顔を洗うこと心を洗うこと」(サンマーク出版)などがある。