キリン、ビール苦味成分「熟成ホップ由来苦味酸」による認知機能改善とストレス状態改善を、臨床試験で確認
2021.04.14
編集部
キリンホールディングス株式会社(東京都中野区)のキリン中央研究所は、順天堂大学と連携して、ビール苦味成分として知られる「熟成ホップ由来苦味酸」が、物忘れの自覚症状を有する健常中高齢者の認知機能の一部である注意力およびストレス状態を改善することを明らかにした。
超高齢社会の日本において、認知症や加齢に伴う認知機能の低下は大きな社会課題となっているが、認知症には有効な治療方法がないことから、食事などの日常生活を通じた認知機能の維持改善に着目。
同社は、ビール苦味成分であるホップ苦味酸に認知症予防効果や認知機能改善効果、抑うつ改善効果がありとの知見があったが、ヒトでのエビデンスは十分ではなかった。今回、物忘れの自覚症状を有する健常中高齢者を対象に、ホップ由来苦味酸の1つである熟成ホップ由来苦味酸が、認知機能および気分状態へ及ぼす影響を評価するランダム化二重盲検比較試験*1を実施した。
その結果、摂取12週目において分配性注意機能を評価する符号数字モダリティ検査の結果が熟成ホップ由来苦味酸の摂取群では、プラセボ群と比較して有意な高値を示した。また、唾液中ストレスマーカーの1つであるβエンドルフィン濃度が熟成ホップ由来苦味酸の摂取群で、プラセボ群と比較して有意な低値を示した。さらに、アミロイドβと結合してシナプス毒性の抑制などに関与するトランスサイレチンの血中濃度が、摂取12週目に熟成ホップ由来苦味酸の摂取群で、プラセボ群と比較して有意な高値を示した。
これまで東京大学などと実施した研究報告で、熟成ホップ由来苦味酸は脳腸相関の活性化を通じて認知機能改善やアルツハイマー病予防効果を示すことが報告されていたが*2、今回の臨床試験でも同様のメカニズムによって認知機能やストレス状態が改善したと考えられる*3。
尚、同研究成果を2021年3月18日(木)~21日(日)に開催された「日本農芸化学会2021年度大会」で発表。一般演題1,299件の中から選定された31演題に贈られるトピックス賞を受賞した。
同社は今後、キリングループ独自素材である熟成ホップ由来苦味酸を活用し、大学や自治体などと連携しながら脳の健康サポートが可能な社会の実現に向けた取り組みを進めたいとしている。
*1 参加者を無作為に偽薬と実薬の群に分け、試験完了までいずれの群かわからない、治験で用いられる試験方法
*2 文献情報
論文タイトル:Hop bitter acids containing a β-carbonyl moiety prevent inflammation-induced cognitive decline via the vagus nerve and noradrenergic system.
発表者:阿野泰久、大屋怜奈、近藤恵二、高島明彦、中山裕之、他
雑誌名:Scientific Reports, 2020 Nov 18;10(1):20028. doi: 10.1038/s41598-020-77034-w.
*3 2020年6月12日付リリース「物忘れの自覚症状がある人を対象としたヒト試験でビールに含まれる「熟成ホップ由来苦味酸」が認知機能と気分状態を改善することを初めて確認~順天堂大学との共同研究~」
- 参考リンク
- キリンホールディングス株式会社