ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業株式会社（神奈川県横浜市）は、細胞内の “エネルギー工場” であるミトコンドリアの「クリステ」（補足資料1）について研究し、
①老化した細胞では、クリステ形成を促進する因子※1の発現が減ってしまう　（※1 OPA1と呼ばれる因子）
②ホップエキスには、クリステ形成を促進する因子の発現を増やす作用がある
ことを探求し、“クリステは酸素を利用してエネルギーを生み出す作用があるのでクリステ形成を促進すると細胞を活性化することができる”と考えられることを2021年3月26～29日にオンラインで開催された日本薬学会第141年会にて発表した。

ミトコンドリアは、酸素を使って細胞に必要なエネルギーを作りだす細胞内小器官※2（※2 細胞の中の特定の機能を持つ構造の総称）。そのための場所がミトコンドリアのクリステと呼ばれる構造。クリステが多いと、生産ラインがたくさんある工場のように、より多くの酸度をを使い、細胞を活性化できると考えられる（補足資料1）。しかしクリステの状態は年齢により少なくなると考えられているので、クリステ形成を促進する因子に着目した。

細胞は分裂できる回数が決まっており、培養細胞を繰り返し分裂させることで老化した状態を再現した。老化させた真皮線維芽細胞でクリステ形成促進因子の発現量を調べたところ、老化していない細胞に比べて減っていることが確認んされた（図1）。

減ってしまったクリステ形成促進因子を増やすエキスを探索するため、老化した状態の細胞にさまざまなエキスを添加する実験を行った結果、ホップエキスにクリステ形成促進因子の発現を増やす作用を発見した（補足資料2）。
電子顕微鏡を用いて実際にクリステを観察したところ、細胞老化により減少していたクリステの構造が、ホップエキスの添加により回復していることが確認できた（図2）。

同研究では、クリステという構造に着目したことで、新たな細胞活性化の手段を見出し、さらに同社はエネルギーの生産ラインにあたるクリステだけでなく、工場にあたるミトコンドリア自体の量を増やすことにも挑戦。紫茶（ムラサキチャ）のエキスにミトコンドリア生合成を促進する因子の発現を増やす作用を見出している（補足資料3）。
これらを上手に活用することで、より効果的なエイジングケア効果が可能となると抱負を述べている。

【補足資料1】 ミトコンドリアとクリステ
ミトコンドリアは酸素を活用し、細胞内のエネルギーを産生する細胞内小器官（図3）のひとつ。ミトコンドリアは内膜と外膜という二重の脂質膜からなり、内膜は酸素を使ってエネルギーを作る働きがある。内膜が折りたたまれた構造はクリステと呼ばれ（図4）、折りたたみ構造を取ることでエネルギーを作る場をたくさん確保していると考えられている。よって、クリステの形成を促進することでミトコンドリアの働きを高めようと考えた。

【補足資料2】 ホップエキスのクリステ形成促進因子の発現を増やす作用
分裂を繰り返し老化した真皮線維芽細胞にホップエキスを添加し、クリステ形成促進因子の発現量に対する作用を確認した。ホップエキスを添加すると、添加していない場合に比べ、発現が増加することが確認された（図5）。

【補足資料3】　紫茶エキスのミトコンドリア生合成促進因子の発現を増やす作用
ミトコンドリアはエネルギー産生の工場に当たり、工場自体を増やすことも細胞の活性と高める有効な手段であると考えられる。
分裂を繰り返し老化した真皮線維芽細胞を使い、ミトコンドリア生合成促進因子※3（※3 PGC-1αと呼ばれる因子）の発現量を増やすエキスを探索したところ、お茶の一種である紫茶（ムラサキチャ）のエキスにその作用を見出した（図6）。