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世界の化粧品市場2025年展望:P&G・LVMH・ロレアルの戦略と日本企業の課題

世界の主要化粧品企業の時価総額一覧

順位化粧品会社時価総額(億円)
1The Procter & Gamble Companyアメリカ548,885
2LVMH Moet Hennesy Louis Vuittonフランス397,750
3L’Orealフランス337,051
4Unilever PLCイギリス228,889
5Beiersdorf AGドイツ50,145
6The Estée Lauder Companies Inc.アメリカ31,059
7花王日本28,450
8Godrej Cosumer Productsインド21,837
9資生堂日本9,398
10Proya Cosmetics Co.,Ltd.中国7,482
11Amorepacific Corporation韓国7,276
12Coty Incアメリカ6,341
13ロート製薬日本5,612
14Interparfums. Inc.アメリカ5,437
15LG H&H Co., Ltd.韓国5,271
16Shanghai Chicmax Cosmetics Co., Ltd.中国5,080
17e.l.f. Beauty Inc.アメリカ5,024
18Guangdorg Marubi Biotehnology Co., Ltd.中国3,756
19コーセー日本3,722
20Natura & Co Holding SAブラジル3,360

世界市場の競争環境と収益予測

世界の化粧品市場は、高級ファッションブランドの化粧品およびスキンケア市場への参入加速、韓国化粧品会社の海外戦略強化、ソーシャルメディアを駆使した大衆向け化粧品の台頭など競争が一層激しくなってきている。ドイツの統計データ会社スタティスタの調査によると、世界の美容・パーソナルケア市場は2025年に6770億ドルを超える収益を生み出し、市場は2025年から2030年の間に年率3.37%で成長すると予測されている。

美容経済新聞社では、世界市場で化粧品事業を展開している上場企業の時価総額を算出して(2025年5月1日の株価と為替レートで円換算)、上位20社を取り上げた。

アメリカの大手プロクター・アンド・ギャンブル(以下P&G)が時価総額3811億ドル、日本円でおおよそ54兆8880億円で首位を獲得した。フランスのLVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループ(以下LVMH)は39兆円で2位、世界最大の化粧品会社ロレアルは33兆円で3位となった。

世界最大手企業の強みと戦略

P&Gの戦略と収益構造

P&Gは、ビューティ事業の一環として、日本から誕生したプレミアムスキンケアブランド「SK-Ⅱ」、「オレイ(OLAY)」、男性グルーミングブランドの「オールドスパイス(OLD SPICE)」、ヘアケアブランドでは「ハーバルエッセンス」、「パンテーン」などの豊富な製品を世界市場で販売している。同社のアニュアルレポートによれば、2024年度の年間売上は、前年比2%増の840億ドルと堅調に業績を伸ばし、その内の18%が美容部門だった。2025年1~3月期の決算では、美容部門のオーガニック売上高は2%増加。厳しいマクロ経済環境に直面しながら製品イノベーションとプレミアム製品への投資が、美容・グルーミングカテゴリーの成長を支えた。特にパーソナルケア分野では、消費者がプレミアム製品への買い替えを継続し、中国市場における販売量の低迷を相殺した。今後も美容部門での製品イノベーションが継続される見通しで、さらなる成長が期待されている。

LVMHのグループ構成と事業拡大

LVMHは、ワイン&スプリッツ、ファッション&レザーグッズ、パフューム&コスメティクスなど6つのセクターに集約される75の著名なメゾンから構成されるグループ。パフューム&コスメティクス事業では、「ゲラン」、「クリスチャン・ディオール」、「フレッシュ」、「ベネフィット」など16ブランドを展開している。2024年度のグループの年間売上高は846億8300万ユーロだった。その内、パフューム&コスメティクスは10%の84億1800ユーロ。グループの売上高が減少する中、パフューム&コスメティクスは前年比2%増加した。2024年秋、傘下セゾン「セリーヌ」がカラーコスメ事業に参入した。LVMHはスキンケアの新興ブランドの強化に合わせて成長市場のビューティ事業のビジネスを一層強化している。

ロレアルの事業構造と成長戦略

ロレアルは、プロフェッショナルプロダクツ事業本部、コンシューマープロダクツ事業本部、リュクス事業本部、ダーマトロジカルビューティ事業本部という4つの事業部体制下、37ブランドのビューティ製品を150ヵ国以上で販売している。2023年度の売上高は前年比7.6%増の418億ユーロで、コンシューマープロダクツ事業本部が151億ユーロ、リュクス事業本部が149億ユーロと売上の7割以上を占める。各部門はそれぞれの市場向けに独自の美容ビジョンを掲げて研究開発に取り組んでいる。リュクス事業本部では、「ランコム」、「イブ・サンローラン」、「ヴァレンティノビューティ」、「キールズ」、「シューウエムラ」などのブランドを保持し、コンシューマープロダクツ事業本部では「ロレアルパリ」、「メイベリンニューヨーク」などの化粧品ブランドを展開する。プロフェッショナルプロダクツ事業本部では「ロレアルプロフェッショナル」、「ケラスターゼ」、「Redken(レッドケン)」をサロンを中心に展開する。幅広いブランドポートフォリオを持つロレアルのビジネス戦略は、企業買収を積極的に進めて、成長市場でのビジネス展開を拡大すること。2023年にオーストラリア発祥の「Aesop(イソップ)」をブラジルのナチュラ・アンド・コーから25億ドルで買収しリュクス事業の傘下に入れており、今後の飛躍が注目されている。

日本の化粧品会社の現状と課題

日本の企業では、花王株式会社、株式会社資生堂、ロート製薬株式会社、株式会社コーセーと合わせて4社が世界での市場価値を示した。花王は時価総額2兆8450億円で米化粧品大手エスティローダに続き7位と健闘した。

花王の2024年12月期通期連結決算(2024年1月〜12月)報告によれば、売上高は前期比6.3%増の1兆6284億円、営業利益は同比27.8%増の1466億円と増収増益を記録した。化粧品事業の売上高は2441億円で、「センサイ」、「カネボウ」、「ソフィーナ」などのブランドが好調だった。ヘルス&ビューティケア事業ではUVプロテクションなどのスキンケア事業が牽引して4240億円を計上した。花王は、ファブリックホームケアなどの安定収益事業領域で創出したキャッシュをスキンケア、化粧品、ケミカルの成長ドライバー領域に投入してグローバル成長を目指している。2025年の戦略として、化粧品事業は中国依存からのシフトを早め、各市場でのブランディングを強化する方針としている。

資生堂の2024年度の売上高は、前期比1.8%増の9905億8600万円でコア営業利益は同比8.7%減の363億5900万円だった。日本、ヨーロッパ市場で注力ブランドは継続的に成長したが、中国市場とトラベルリテールの減収とアメリカ市場でのドランク・エレファント(Drunk Elephant)の回復の遅れが大きな打撃を与えた。日本を代表する化粧品会社の迅速な経営再生が問われている。

ロート製薬は製薬会社からスキンケア事業への展開に成功した日本企業の代表と言える。1970年代にメンソレータム商標使用権を獲得するなどでスキンケア市場に参入した。2001年の機能性化粧品「Obagi(オバジ)」を皮切りに、2004年には「肌研(ハダラボ)」シリーズを開始した。メイク市場へは、2014年「SUGAO」の発売で本格参入し、ビューティ事業は現在のロート製薬の主軸といえるまでに成長している。

コーセーの2024年度の売上高は前年比7.4%増の3227億5800万円で営業利益は同比8.6%増の173億6400万円だった。中国市場において減収となったものの、日本の主要ブランド「雪肌精」、「ONE BY KOSÉ」、「エスプリーク」及び欧米を中心に展開する「タルト」が売上を大きく伸ばして、増収に貢献した。同社は昨年12月にタイの化粧品会社 PURI CO.,LTD(ピューリ社)を買収しており、アジア市場でのプレゼンス拡大を目指す。

日本の化粧品会社の課題は、海外市場でどのように商品価値を高め売上を伸ばすかにあるだろう。欧米のメーカーに比べて日本の化粧品メーカーの海外売上比率は高いとは言えない。資生堂の海外売上比率は約5割、コーセーは3割、花王(化粧品事業)は1割以下であるのに対して、世界最大手ロレアルは7割を超えている。海外戦略で、中国市場に頼れない現状では、欧米市場での新たなる挑戦に加え、高度経済成長が見込まれる東南アジアでの化粧品市場開拓が必須と考えられる。

新興企業の台頭とグローバル展開

韓国化粧品会社を代表するアモーレパシフィック、LG H&H(生活健康)の2社もランキングに名を連ねた。アモーレパシフィックは、「アモーレパシフィック」、「イニスフリー」、「エチュード」、「IOPE(アイオペ)」、「SIENU.」などのブランドを展開する韓国最大手の化粧品会社。クッションファンデーションはアイオペが開発して、世界市場でKビューティのトレンドを誕生させたと評価が高い。

LG生活健康はThe History of Whoo、O Hui、belifなどのハイエンド化粧品を展開している。韓国企業の躍進の背景には、2019年に民間主導で成長を遂げていた化粧品産業を韓国政府が主導する政策を投じたことに起因する。政府が国産メーカーの戦略的な海外進出を支援して、韓国の化粧品輸出量拡大を後押しした。Korea .netのウェブ版(2025年1月6日)によれば、2024年の韓国の化粧品輸出額は102億ドルに達したという。国別で見ると、1位は中国(25億ドル)、2位はアメリカ(19億ドル)、3位は日本(10億ドル)だった。

中国の化粧品会社では、Proya Cosmetics(プロヤ・コスメティックス)、Shanghai Chicmax Cosmetics(上海チックマックス・コスメティックス)、Guangdorg Marubi Biotechnology(カントン・マルビ・バイオテクノロジー)3社の成長が際立つ。2006年創設のプロヤ・コスメティックスは主力ブランド「プロヤ」を中心に科学的なスキンケアを展開している。アリババのTmall、バイトダンスのDouyinの急成長に後押しされてEコマースでの売上を飛躍的に伸ばした。近年では、ドイツの化学メーカーBASFと共同開発に着手するなど製品開発をさらに活発化した。これらの中国の化粧品会社は新興のアジアンビューティとして、日本、韓国の化粧品会社を脅かす存在になる可能性は十分にある。

参考資料
・ドイツの統計データ会社スタティスタ
https://www.statista.com/outlook/cmo/beauty-personal-care/worldwide#
・P&G annual report
https://s1.q4cdn.com/695946674/files/doc_financials/2024/ar/2024_annual_report.pdf
・ロレアル会社概要
https://www.loreal.com/en/group/
・ロレアル 2023年度アニュアルレポート
https://www.loreal-finance.com/system/files/2024-03/LOREAL_2023_Universal_Registration_Document_en.pdf
・LVMH
https://www.lvmh.com/jp/publications
・花王2024年決算報告
https://www.kao.com/content/dam/sites/kao/www-kao-com/jp/ja/corporate/investor-relations/pdf/presentations-fy2024-01.pdf
・花王の分析記事
https://www.fashionsnap.com/article/2025-02-06/kao-financialresult-2024/
・花王と資生堂分析
https://irnote.jp/article/2025/05/10/522.html
・資生堂決算報告
https://corp.shiseido.com/jp/ir/pdf/ir20250210_162.pdf
・ロート製薬
https://www.rohto.co.jp/ir/investors/step/
・コーセー
https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS02128/de9f3fa3/7880/468a/9792/1dfda54b26e9/140120250212569882.pdf
・アモーレパシフィック
https://www.apgroup.com/int/en/investors/amorepacific-corporation/ir-reports/quarterly-results/quarterly-results.html
・韓国化粧品の海外市場での売上高/Korea.net
https://japanese.korea.net/NewsFocus/Business/view?articleId=264475
・ジェトロの韓国化粧品市場分析
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2024/434e59f8a7b837ec.html
・Proya Cosmetics(プロヤ・コスメティックス)
https://www.proya-group.com/en/

ヌーヴェル日本版(LNE)公式サイトwith美容経済新聞 2025年6月正式リリース!

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ヴァレリー・康子

顧問記者(国際ビジネス、マーケティング)

Yasuko Valery/早稲田大学大学院卒。英インデペンデント新聞社東京支局オフィスマネージャーを経て、日本経済新聞社ロサンゼルス支局で米国西海岸の流通、産業分野を専門に記者経験を積む。本紙では主に、米国欧州の海外メーカー、ブランドの動向、海外市場の動向、新規ビジネスモデルなどを担当。現在はロンドンに在住

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