効果的で、収益性が高く、魅力的かつ独自性のあるロイヤルティプログラムを構築するには、顧客のニーズや期待を深く理解することが欠かせません。顧客の満足と再来を促すためには、ロイヤルティ戦略が重要な要素となります。スパの開業には、細心の注意と複雑な戦略が求められます。しかし、開業はあくまでも第一歩に過ぎません。成功を左右するのは、その後の展開にあります。オープンした後は、顧客を呼び込むためのコミュニケーションが極めて重要となります。初回の来店は、比較的ハードルが低いものです。お客様は一度は足を運んでくださり、あなたは全力で満足を提供します。しかし、美容業界の競争は激しく、顧客のロイヤルティは簡単には得られません。では、どうすれば顧客を長期的に定着させ、さらにあなたのスパの“アンバサダー”となってもらえるのでしょうか?
執筆:Galya Ortega
ロイヤルティ戦略の土台づくりに欠かせない「全体設計」
この種の戦略には一つのパラドックスがあります。それは、どんなに優れたアイデアを持ち、どれほど多くのデータを収集し、特典やメリットを設計したとしても、最初から実行計画をすべて設計しておかない限り、その情報に飲み込まれてしまうという点です。データが膨大かつ整理されていなければ、活用するどころか混乱を招くおそれすらあります。
事前に設計すべきロイヤルティ戦略の基盤
実装の準備段階は軽視できません。むしろ、これはスパ運営のDNAともいえる基礎作業です。万人向けの「正解」は存在しません。まずは、「自分たちはどのような存在か」、そして「顧客との“親密な”コミュニケーションは何か」を考えることが出発点となります。
どれほど優れたITツールや分析ファイルがあっても、それらはあなたの顧客の性質とその消費習慣を反映していなければ意味をなしません。<例えば、よく知られたコスメブランドを扱っているのか、あるいは施術者のハンドテクニックそのものが付加価値となっているのかによって、分析すべきデータはまったく異なります。そうした全体像をできる限り明確に把握したうえで、はじめてCRM(顧客関係管理)ツールの活用が可能になるのです。これは、ニュースレターやスマートフォン通知、館内掲示といったコミュニケーション手段についても同様です。
「誰でも歓迎」は危険。まずは信頼できるコア顧客を育てる
「誰もが顧客になり得る」と考えるのは危険です。「多数がリピーターになってくれる」という期待も現実的ではありません。まずは、しっかりとスパを信頼し、再来してくれる核となる顧客層を築きましょう。その層が新たな顧客を呼び込む礎となります。
ロイヤルティ戦略の成功に不可欠な3つの基本要素
データ分析を徹底すること
顧客の消費傾向を分析するために、CRMツールを活用し、行動パターンに応じてプログラム内容を柔軟に調整しましょう。
明確なコミュニケーションを保つこと
プログラムのメリットを伝えるために、ニュースレター、スパ内掲示、モバイル通知などを通じて一貫した情報発信を心がけましょう。
適切な言葉を選ぶ
ロイヤルティ戦略、特に顧客の定着を目的としたコミュニケーションにおいては、意図に応じた「キーワード」の選定が不可欠です。顧客に対して何を伝えたいのか、その意図を明確に言葉にして発信しましょう。
例えば、「限定商品」「革新性」「オリジナリティ」といった表現を使ってみてください。また、「満足保証」「満足いただけることをお約束」「卓越したカスタマーサービス」、あるいは「迅速」「効果的」「確実な結果」といった成果を打ち出すことも効果的です。こうしたキャッチコピーは、あらゆるツールにちりばめて繰り返し使うことで、やがてあなたのブランドの“DNA”として定着していきます。
満足度と再来率を高めるロイヤルティツール活用術
ポイント付きロイヤルティカードや月額制メンバーシップ
毎月一定のサービスに無制限または割引でアクセスできるサブスクリプションプランを用意する方法です。また、来店や購入ごとにポイントが貯まるロイヤルティカードを発行し、一定数のポイントで特典と交換できる形式も有効です。例えば、「1ユーロ=1ポイント」とし、未販売在庫の処分を兼ねた商品プレゼント、施術1回無料、30分のマッサージ、ハマムやサウナのセッション、フェイシャルサービスの無料提供などが挙げられます。
魅力的に映るこの仕組みですが、フランス国内では他国に比べ効果がやや限定的だとする調査結果もあります。その理由は、フランスの消費者は個人情報を提供することに対して慎重であり、コントロールできない状況に抵抗を感じやすい点にあります。また、GDPR(一般データ保護規則)などによる規制が厳格で、企業側も慎重になりがちです。加えて、複雑で透明性に欠けるプログラム内容も敬遠される要因の一つです。
誕生日特典の提供
顧客の誕生日に特別な割引やプレゼントを提供する方法は、非常に好感度の高い戦略です。年に1回という希少性がパーソナルな関係性を深め、「自分だけの特別扱い」として印象に残ります。ただし注意点として、内容が「チープ」「作為的」「マーケティング色が強すぎる」と感じられると逆効果となり、顧客を失ってしまうリスクがあります。あくまで“本物の贈り物”と感じてもらえる工夫が必要です。
無料カウンセリングやミニサービス
例えば、短時間のマッサージや無料相談などを定期的な来店者に提供する方法です。新しい施術や製品を紹介する“お披露目”の機会としても有効で、映画の試写会のような体験価値を与えることができます。
パーソナライズされたフォローアップ
来店リマインダー、顧客の嗜好に合わせた提案、誕生日や母の日、合格祝いなどの特別なメッセージの送付などが挙げられます。ただし、これを実施するには顧客ごとに詳細な履歴や好み、施術中の会話内容までを反映した緻密なデータ管理が求められます。そのため、紙や口頭の記録をデジタル化し、CRMシステムで管理する作業と維持に相応の労力が必要となります。
顧客ごとのパーソナルケアプログラム
過去の履歴や好みに基づいたオーダーメイドの施術プログラムを設計・提供する手法です。これは前述のパーソナライズドフォローアップの延長線上にあるアプローチで、手間はかかりますが非常に高い満足度を得られます。顧客からの評価も非常に高いです。
サプライズギフトの提供
顧客のロイヤルティに感謝して、小さなプレゼントや個別メッセージを添えたギフトを送付する方法も有効です。例えば、一部のスパではNetflixやSpotifyなどのサブスクリプションギフトを「ウェルネスのための贈り物」として提案しています。こうした提案は、顧客のライフスタイル、習慣、志向に合致するかどうかがカギとなります。
顧客のロイヤルティを高めるイベントと紹介戦略
VIPデーの開催
ロイヤル顧客のための特別なイベント「VIPデー」を企画してみましょう。追加割引や限定施術、ウェルネスセッションなどを組み合わせた内容にすることで、特別感を演出できます。この「VIPデー」は非常に効果的なアイデアです。なぜなら、顧客同士が顔を合わせる機会ともなり、自分が「特別なクラブの一員」であるという意識を育むからです。
紹介プログラムの導入
顧客が紹介によって自らポイントを獲得できる仕組みは、今後のスパ経営において重要なカギとなります。顧客自身が“広報担当”となり、紹介を通じて新たな顧客を呼び込み、既存顧客のロイヤルティもさらに高まります。この紹介プログラムを設計する際は、分かりやすく、魅力的で、かつ収益性のある形に構築することがポイントです。紹介によって、新規顧客が来店し、既存顧客には割引、無料商品、金銭的特典などが還元されます。
紹介者への特典:既存顧客が新たな顧客を紹介した場合、ポイントや割引を提供します。また、友人を無料または割引価格で同行させることができる「紹介者デー」を設けることも可能です。
ダブルポイント制度:紹介された顧客が施術を受けるたびに、紹介者は通常の2倍のポイントを獲得します。
推薦特典:新規顧客を紹介した顧客に対して、割引や無料サービスを提供します。ただし、贈呈内容は採算性の範囲にとどめるよう注意が必要です。
特別なキャンペーンの実施
こうしたキャンペーンは、スパに“生命感”をもたらす重要な施策です。準備は大変ですが、その分ポジティブな効果が期待でき、スパが常に進化し続けているというイメージを顧客に与えます。何より、スパが「コミュニティを創造する存在」として評価されるようになります。この“コミュニティ”こそが、あなたの顧客基盤です。とりわけリピーターは、その一員であることに誇りを持ち、選ばれた存在であると感じるようになるでしょう。
季節限定キャンペーン:祝祭日やイベント、季節に応じた特別プロモーションを打ち出して、集客を促進します。
VIPナイトイベント:ロイヤル顧客向けに夜間のイベントを開催し、新製品のデモンストレーションや無料施術体験などを提供します。
ワークショップやセミナー:アロマテラピー、音浴、瞑想、リラクゼーション技術など、ウェルネスに関連したテーマで体験型ワークショップを開催します。
パートナーシップによる特典提供
さまざまな形で展開できるこのパートナーシップ戦略は、ロイヤルティ強化とスパの提供価値拡張において、非常に有効な要素です。これには周辺ビジネスとの積極的な営業活動が伴いますが、単なる施術提供にとどまらず、外部との連携によってスパのアイデンティティを広げ、より安定的な顧客ロイヤルティを育てることができます。例えば、提携先からの特典として、レストランでのディナー招待、商品サンプル、スポーツクラブの優待などを顧客に提供することが可能です。
地元企業とのコラボレーション
地域のレストランとの提携による割引ディナー、映画館での特別セッション、スポーツクラブのレッスンなど、他業種とのコラボレーションによって、割引やセットオファーを提供することができます。こうした提携には、個別に交渉を行う必要があります。ご自身で対応することも可能ですが、専任の営業スタッフを採用することも検討すべき選択肢となります。
無料の付加サービス
飲み物、健康的なスナック、試供品など、小さな心配りもリピーター獲得には有効です。
サステナブルな取り組みがロイヤル顧客を育てる理由
このトピックは、ロイヤルティ戦略において非常に重要です。なぜなら、こうした姿勢が、スパの価値観や信念を顧客に示すことになるからです。そして顧客は、こうした取り組みに非常に敏感に反応します。
エコ活動に対する報酬
例えば再利用可能なタオルの使用や、エコ関連のワークショップへの参加など、環境に優しい行動に対して追加ポイントを付与する仕組みは、非常に好意的に受け止められる傾向にあります。
環境に配慮した製品の導入
環境に優しい製品やサービスを積極的に導入し、それらを購入した顧客に対してボーナスポイントを提供しましょう。
アプリとSNSで実現する顧客との継続的な関係構築
この分野は、現在のスパ業界では十分に活用されていないロイヤルティ戦略のひとつです。専用アプリを導入することで、あらゆる面で可能性が拡大します。アプリは、新世代のコミュニケーションツールであり、まるでパーソナルアシスタントのような役割を果たします。
専用アプリの開発
顧客がポイントを確認したり、トリートメントを予約したり、限定オファーや通知を受け取れるアプリの開発を検討してください。
ニュースレターやブログの配信
新サービスやウェルネス情報、特別オファーを定期的に配信することで、顧客との関係性を強化できます。
SNSでの情報発信
SNS上での活発な情報発信は、コミュニティとのエンゲージメントを高め、プロモーションの拡散や顧客の声の収集にもつながります。
品質向上を支えるフィードバックと改善プロセス
スパの現場では日々多くのことが起きています。サービスは常に進化し、適応し、変化しています。この「継続的な改善」こそが、成功の鍵となります。そのためには、顧客アンケート、監査、ブラインドテストなどを実施し、自らの在り方を見直す必要があります。顧客は改善の姿勢を高く評価してくれます。また、自分の意見が反映されることで、そのプロセスに参加しているという誇りを感じます。
アンケートとレビュー
定期的に顧客の声を集めることで、サービス向上のヒントが得られます。
フィードバックに対する報酬
アンケートやレビューを記入した顧客には、ポイントや割引などの報酬を用意しましょう。
スタッフの継続教育
高品質なサービス提供を維持するために、スタッフの定期的な研修は欠かせません。
美容ビジネスにおける持続的成長を導くロイヤルティ施策
これらの施策を組み合わせることで、既存顧客のロイヤルティを高めると同時に、新規顧客の獲得につながる、魅力的かつ独創的なロイヤルティプログラムを構築することが可能になります。