株式会社アルテ サロン ホールディングス 代表取締役会長 C.E.O吉原直樹さん
監修:美容経済新聞
花上:転職された会社ではどのようなお仕事をされていたのでしょうか?
吉原:転職したのは26歳の時。
美容室チェーンを展開している会社で私は美容室のマネージャーの仕事を任されました。
課せられたミッションは、“既存店舗の運営を軌道に乗せること”。それまで新規店舗立ち上げのお手伝いはしてきましたが、運営までを見るのは初めての経験。
それは思いのほか大変な仕事でした。
なぜなら私が配属された美容室には元・暴走族や不良上がりの子たちが多くいて、牙をむくような空気感が漂う環境だったからです。
私は彼らのやる気を出すために、積極的にコミュニケーションを取ったり、有名美容師を講師に招いて講習会をしてもらったり、コンテストへの出場を勧めてみたりと、いろいろな施策を続けました。
すると次第に店舗全体の志気が上がってきて、売り上げも少しずつ伸びていきました。
3~4年かけて徐々に軌道修正していったわけですが、その状況は奇しくも、まるでかつて私が憧れていた青春ドラマのようでした。
生徒を更生させていく教師のような感じで美容師たちのマインドを高めていったのです。
花上:その後、吉原さんは28歳のときに美容師免許取得の勉強を始められたそうですが、何かきっかけがあったのでしょうか?
吉原:コンテストへの出場を重ねる中で、ある美容師がチャンピオンになりました。
それを機にスタッフ全員のモチベーションが急上昇。他の大会でも次々に入賞者が出たりして、非常にいい状態になってきました。
しかし、彼らが技術者として自信をつけていくにつれて、今度は技術者ではない私が軽く見られるようになりました。
そのような状況に歯ぎしりをおぼえ28歳で一念発起し、通信制の美容学校に通い始めました。
そして卒業する頃には自分のお店を持ちたいという想いが強くなっていたので、思い切って独立することを決意。
1986年8月、横浜の大口という場所で最初のお店をオープンしました。30歳のことでした。
花上:「HAIR MAKE Ash」の原点となったお店ですね?
どんなお美容室だったんですか?
吉原:駄菓子屋の2階にある、家賃8万5000円、たった10坪の小さなお店でした。
セット面は4席。
古い建物で美容室らしからぬ佇まいでした。はじめは集客のために、料金は非常に安く設定しました。まずは安さでお客様を取り込んで、徐々に指名が取れるようになってきた頃から、少しずつ値上げをしてブランディングを図ったのです。
花上:料金を一度設定したら、なかなか変更することは難しいように思いますが。
吉原:考え方によるのではないでしょうか。私はタカラベルモント時代からピンからキリまでさまざまな美容室を見てきました。
料金設定の仕方もいろいろ目にしてきました。そのような中で感じたのは、まずは“お客様に体験してもらうことが大事”ということ。
多くの美容室では初めから高めの料金に設定していることが多いですが、それは往々にしてプライドの表れであり、お客様の視点には立っていないように感じました。
とくに開業して間もない時には自分の力でお客様を集めようと思っても限界がありますから、極論を言うならばタダでもいいから体験していただいて価値を示すことが大事だと思うのです。
お客様がお店の技術やサービスに納得して、価値があると判断すれば、お金を払ってでも指名してくださるようになるのですから。
花上:「お客様の視点に立つ」ということがポイントですね。
吉原:はい。「プロとしての視点」はもちろん大事ですが、偏りすぎると経営の面からすれば邪魔になることが多いんです。
お金を払ってくださる「お客様の視点」に立つことはもとより、業界から離れた「客観的視点」を持つことも大切だと思います。
“他のお店ではどれくらいの技術・サービスをどれくらいの料金で提供しているのか?”を、身をもって体験してみたり、いろいろな業界の情報を調べて、自分のいる業界の立ち位置を俯瞰してみたりすることも有意義ではないでしょうか。
花上:つねにいろいろなポジションに立って自分のいる場所を確認することが大事ですね。
Profile
1956年神奈川県生まれ。
78年埼玉大学教育学部卒業、同年4月タカラベルモント株式会社に入社。
1981年美容室チェーンに転職し、店舗開発、店舗運営を手がける。
28歳で自らも美容師免許を取得するため、美容学校に入学。31歳で美容師免許を取得。
1986年に個人事業主として横浜市に美容室を開業、88年に有限会社アルテを設立。
東京、神奈川を中心に「Ash」ブランドの「のれん分けフランチャイズ方式」という美容師の独立支援システムで業績を伸ばす。
2004年8月にJASDAQ市場に上場。
現在、株式会社アルテ サロン ホールディングス代表取締役会長としてグループ全体の指揮をとる。
著書:『「世界で戦える日本」をつくる新発想』(幻冬舎)