漢方医学は生体システムのレジリエンスを高める

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2017.11.20

編集部

第137回漢方医学フォーラム「超高齢社会におけるフレイル・サルコペニアと漢方~伝統医学と先進医学の融合による高齢者医療~」が17日、都内で開催され、講師の大阪大学大学院医学系研究科 特任教授の萩原圭祐氏は「今の社会や医療現場に欠けている“お互いをいたわる”ことに漢方がとても有効だ」と訴えた。

超高齢化社会の日本においては、介護・寝たきりといった課題がある。この介護の前段階として「フレイル」が注目されている。フレイルは体重減少、易疲労感、筋力低下、歩行スピードの低下、身体活動性の低下の5項目のうち、3つ以上が該当する状態を言う。

目下、フレイルはその定義の領域が拡大されつつあり、高齢期における筋量減少・筋力低下を指す「サルコペニア」のほか、うつや認知症、孤独や閉じこもりもフレイルに関わる症状として注目されている。サルコペニアの予防治療法として、運動があるが「なかなか続かない」(萩原氏)のが課題。そこでホルモン治療もあるものの、「ポリファーマシーの問題があるので、漢方薬が有効」(同氏)との考えを示した。

近年、漢方薬はその効果を示す機序が解明されつつあるが、「漢方医学は生体を一つのシステムとしてとらえており、生体システムのレジリエンス(回復力)を高めることで薬効を発揮する」(萩原氏)。

皮膚の乾燥に悩む老人が、更年期の情緒不安などによく使われる加味逍遥散を飲んで改善した症例に言及。「実は患者は心の悩みを抱えていた。それが皮膚の乾燥という形で現れた」(萩原氏)といい、実際科学的に見ても、脳と腸には相関関係があることがわかっており、うつ病になると身体症状も伴いやすい。

レジリエンスは、システム、企業、個人が極度の状況変化に直面したとき、基本的な目的と健全性を維持する能力のことをいい、その概念は多岐にわたる。2008年のリーマンショックも、大手金融機関の相互不信が招いたとされるが、医療機関においても同様に当てはまる。「今の医療現場はギスギスしていて、レジリエンスが低下している。この状態は医療従事者だけでなく患者にも良くない。お互いをいたわりあう関係性は治療の上でとても重要なこと」(萩原氏)と強調した。

「どうせ病気なんか治らない」「どうせ漢方なんか効かない」といった状況では、レジリエンスが発揮されにくい。そこで、漢方医学独特の診断法である四診に言及。「聞診では患者の悩みの本質を聞き、切診では(単に患者の体を触るのではなく)患者の深い部分とつながっていることを感じる」(萩原氏)ことにより、生体システムの関係性を把握し、レジリエンスの障害となるものを理解し、治療につなげていくことの重要性を訴えた。

フレイルについては、中国最古の医学書「黄帝内経・素問 上古天真論」にすでに記載があると指摘。フレイルは漢方医学の「腎虚」に相当するもので、老化促進モデルマウスに牛車腎気丸を投与して効果を上げた研究例を紹介した。

具体的な成果としては、牛車腎気丸は活性化ミクログリアからのTNF-αの産生抑制を介して、疼痛閾値を改善していることが基礎的解析により明らかになった。「この処方を作った人と対話している気持ちになった。先人の知恵はすごい。漢方は迷信ではないかと思われがちだが、昔の人の知恵が隠れているもの。その知恵を活かせば共生可能な超高齢化社会を実現できると強く思っている」(萩原氏)と強調した。

参考リンク
大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座

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