【連載】化粧品が起こすイノベーション・この技術に注目㉑AI・AR技術と仮想メイク(中)~ロレアル、モディフェイス買収、デジタルサービス加速~
2020.05.19
編集部
世界最大の化粧品会社仏ロレアルは、カナダ・トロントに本社を置くIT企業のモディフェイスを買収した。モディフェイスは、アプリの基盤となるAR技術を提供企業の先頭を切っていたARベンチャー。
顔や肌の画像分析に特化した企業として2007年に創業、これまで100を超える企業へ技術提供実績を誇る。画面に映った自分の顔で化粧やヘアカラーを本物そっくりに試せる拡張現実(AR)や人工知能(AI)技術を持ち、AIによる肌診断サービスを開発した。
モディフェイスは30以上の特許を取得しているが、これまで美容ブランドとの提携で使われた技術は大きく分けて2つある。
1つはカメラで捉えた人間の顔や髪の動きをリアルタイムに追いながら、画面上で任意の化粧を施したり色を変えたりできる技術で、これがメイクシミュレーションアプリに使われている。
もう1つは顔の画像をもとに皮膚のシミやシワなどの状態を分析する技術で、こちらはメイクシミュレーションほど広く利用されていないが、コア技術をスマートフォンやウェブサイト及びリアルな店頭のミラーなど様々なプラットフォーム向けに供給してきた。また、モディフェイスは少なくとも2014年からロレアルと取引があり、デジタル広告のカスタマイズやヘアカラー・ヘアスタイルシミュレーションアプリ、グループ傘下企業等の肌状態診断ソフトといった用途に技術を提供してきた。
ロレアルでは、デジタルサービス加速戦略の一環としてモディフェイスを買収した。肌診断サービスをパソコンやスマートフォンでの化粧体験、SNS向けに美しく見えるツールとして使ってもらい化粧品の販売拡大を狙うほか、化粧品の店内(インストア)販売での差別化につなげる。
現在のところ、こうしたAR・AI技術でできることやその完成度そのものが感動を呼び話題となっているが、他のあらゆる技術と同様、今後より広く普及するにつれコモディティ化していくと考えられる。そうなったとき、技術を使う企業に問われるのは、単に技術を先んじて取り入れるだけでなくそれをいかに顧客にとって使いやすい、付加価値の高い形で提供できるかということになる。
そのためには、ロレアルとモディフェイスが緊密な関係を保ちながら、より良い体験をスピーディに提案していくための体制作りが求められる。美容とAR・AI技術が深く手を組んだことで、想像もしないような新しい成果を出すことを期待したい。