【連載】化粧品が起こすイノベーション・この技術に注目㉒美白技術(上) ~メナード、美しい肌は幹細胞が生み出すことを実証~

2020.05.25

特集

編集部

美白とは、メラニン色素の生成をおさえ、しみ・そばかすなどの色素沈着が少ない、白くて明るい肌の色のことを指す。メラニン色素は、色素形成細胞(メラノサイト=表皮の基底層にあるメラニン生成細胞のこと)内でチロンナーゼという酵素からつくられる。メラニン色素の生成をおさえ、もって生まれた肌色に近づけてくれる安全な外用剤を美白剤といい、美白剤を配合した医薬部外品(薬用化粧品)を美白化粧品と呼ぶ。また、美白を阻害するしみやそばかすは、メラニン色素が皮膚の局所で増加し、沈着したために生じる。

我が国では、1989年にヒトでの臨床試験を経た医薬部外品に効能表示が行われたことを契機に、美白化粧品と呼ぶようになった。
メラノサイトは、表皮の基底層にあるメラニン生成細胞のこと。メラノサイトは、神経系とも密接なつながりがあり、不安やイライラなどの精神的ストレスがつづくとしみができやすい。こうした美白について化粧品各社の取り組みを検証した。

日本メナード化粧品株式会社(愛知県名古屋市)は、幹細胞の技術を化粧品開発に応用する研究に取り組んだ。
研究は①メラノブラスト(皮膚上皮や毛包に存在するメラノサイトの前駆細胞)等の色素幹細胞観察②メラニン生成能力がいつ備わるか③メラニン生成能力に対する紫外線の影響やメラニン生成に関わる細胞の研究④皮膚のシミ部分にある細胞の特性研究⑤刺激物質がメラニン生成に関わる細胞の増殖とシミの原因の解明などに取り組んだ。

①の色素幹細胞の観察は、メラノブラストのメラノサイトへの成長過程を観察したもの。一般的に知られていなかった色素幹細胞特有のマーカーを発見し、その染色に成功。さらに、メラノブラスト、メラノサイトも同様に特有のマーカーを染色して色素幹細胞からメラノブラスト、メラノサイトへと成長していく過程も確認した。これによって色素幹細胞からどのようにして肌のメラノサイトが生まれるのか、が明らかになった。

②のメラニン生成能力の研究では、 メラニン生成能力がメラノブラストの段階で備わることを発見した。メラニンは、チロシンというアミノ酸から酵素の影響でドーパ、ドーパキノン、メラニンと変化して作られる。酵素の生成には、転写因子が関わっており、酵素と転写因子の働きが活発になるとメラニンが多く生成されることを掴んだ。

③の紫外線がメラニン生成能力に及ぼす影響の研究では、幹細胞からメラノブラスト、メラノサイトに成長する過程で、紫外線によるメラノサイトのメラニン生成能力への影響を調べた。その結果、メラノブラストの段階で紫外線の影響を受けることによってメラニン生成能力が高まり、最終的にメラニン生成能力の高いメラノサイトになることを突き止めた。
シミのある細胞の特性については、シミのある部分とない部分の色素幹細胞、メラノブラスト、メラノサイトの数を比較した結果、全ての細胞がシミのある部分で多くなっていることを突き止めた。また、表皮細胞から「WNT1」というタンパク質が多く分泌されていることやWNT1が出る要因としてWNT1の遺伝子を制御している部分の「メチル化」が関わっていることも突き止めた。

④のメラニン生成に関わる細胞の増殖とシミの原因の解明は、WNT1には、色素幹細胞を刺激して色素幹細胞の増殖やメラノブラストへの分化を促進する作用があることを発見。その結果、色素幹細胞とメラノブラストを増やし、最終的にメラノサイトの数が増え、それによって、メラニンが過剰に生成されるようになり、シミとなることを解明した。

⑤の細胞増殖とシミの原因解明については、WNT1には、色素幹細胞を刺激して色素幹細胞の増殖やメラノブラストへの分化を促進する作用があることを発見した。

同社は、こうした一連の美白研究により美しい肌は、幹細胞が生み出すことをエビデンスとして実証した。

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