【連載】幹細胞化粧品開発元年【3】富士フイルム、再生医療を米セルラー、J-TECと三位一体で推進(上)
2015.09.14
編集部
富士フイルム株式会社(東京都港区)は、化粧品分野に続いて人工多能性幹細胞(iPS細胞)を中心とした再生医療分野に新規進出した。再生医療は、買収したiPSベンチャーの米セルラー・ダイナミクス・インターナショナル(CDI社)と国内初の再生医療製品を開発・販売する株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC=ジャスダック上場、愛知県蒲郡市)とが三位一体となって推進するもの。しかし、これらの子会社と三位一体となって再生医療に取り組む態勢を確立したものの、幹細胞を応用した化粧品(幹細胞化粧品)の開発に取り組むかは現段階で今ひとつはっきりしない。
再生医療分野で経産省が最も期待している民間企業は、再生医療業界を牽引する富士フイルムだ。
同社のiPS細胞や再生医療などの先進技術に関わる研究開発体制は、先進技術の研究に長期的に取り組む「先端コア技術研究所」をはじめ広範囲にわたる高機能性有機材料の開発研究を行っている「有機合成化学研究所」、インクジェットをはじめとする新しいマーキング技術の研究開発を行っている「アドバンストマーキング研究所」の3つのコーポレ―トラボがある。
これに加えて医薬事業の強化を図るため、「医薬品・ヘルスケア研究所」や新しい医療として注目される再生医療の研究・開発を推進する「再生医療研究所」、さまざまな領域にわたる高機能性材料の研究開発を行っている「高機能材料研究所」などがある。
こうした同社の研究開発体制の中で、iPS細胞を中心とした再生医療事業は2015年4月に総額3億700万ドル(約370億円)で、株式公開買い付け(TOB)により傘下に収めたCDI社(2013年7月、ナスダック上場)とJ-TECが三位一体で推進している。
米セルラー社は、2004年にヒトES細胞(胚性幹細胞)の製作方法を発見したウィスコンシン大学のJames Thomson教授によってマディソン市に設立された。現在、ウィスコンシン州とカリフォルニア州の二ヶ所に研究施設を持つ。また、2010年に京大の知的財産管理会社がCDI社に対して海外の会社としては初めて山中伸弥京都大教授らが開発したiPS細胞製法の基本特許を非独占的にライセンス供与する契約を結んでいる。
特に、富士フイルムが米セルラー社に白羽の矢を当て買収したのは、独自の自動製造技術を武器に心筋や神経などのiPS細胞を医療機関や研究機関向けに製造・販売し実績を積んでいること。同時に、動物試験の代わりにiPS細胞を活用して創薬の開発期間の短縮やコストの削減、開発の確率向上につなげるなど、iPS細胞で新薬開発に高い技術力を持つことなどを評価した。
一方、富士フイルムは2014年12月にJ-TECを傘下(連結子会社)に収め、再生医療事業に取り組んでいる。
J-TECは、自家培養表皮「ジェイス」(2007年製造販売承認)と自家培養軟骨「ジャック」(写真=2012年製造販売承認)を国内で初めて商品化。再生医療製品として保険収載されるなど再生医療メーカーとしての基盤を確立した。2015年3月には自家培養角膜上皮が希少疾病再生医療品に指定されるなど新薬開発を含めた再生医療事業の拡大が続く状況にあり期待は膨らむ。
だが、現状において化粧品分野での再生医療を応用した幹細胞化粧品開発の動きが見えない。