訪問型セラピストという職業には、多くの利点があります。 特に、自身でスケジュールを自由に組めることや、顧客との特別な関係を築ける点が挙げられます。しかし、この情熱的な仕事を、繁栄し持続可能なビジネスへと転換するためには、 技術的なスキルを超えた多様な能力を身につけることが不可欠です。
初心者の方も、すでに活動を開始している方も、ご自身のビジネスを効率的かつ収益性の高い形で運営するために必要なスキルを身につけながら、事業を構築するための重要な10の鍵をご紹介します。
執筆:Isabelle Benmansour(ビジネスコーチ)
明確なビジョンと目標を持つこと
すべてのビジネスにおいて成功への第一歩は、ご自身の活動に対して明確なビジョンを定義することです。起業とは、職業面でも個人面でも一つの旅のようなものです。
起業は一つの旅
それは、到達すべき目的地(目標)を設定し、そこへ向かうルート(行動計画)を決め、必要な手段(予算、パートナー、リソース)を整えるという意味において、まさに文字通りの旅です。しかし同時に、それは内面的な旅でもあり、自分自身や周囲の世界について多くのことを学ぶ機会となります。起業は、起業家としてだけでなく、一個人としてもあなたを成長させてくれます。この旅は多くの経験に満ちており、素晴らしいものですが、複数の側面においてしっかりと管理しなければなりません。
ビジョンがなければ……
旅の準備をする際には、目的地に到着したときにどのような体験をするかというビジョンをすでに持っているものです。そのビジョンがあるからこそ、準備にも力が入ります。例えば、「休む」「楽しむ」「リラックスする」「新しい国や文化を発見する」といった目標を立てます。もしこうしたビジョンや目標がなければ、行き当たりばったりの旅になってしまいます。旅であれば、それでも問題ないかもしれません。しかし、それが生活を支え、家族を養うためのビジネスであれば、話は別です。行き当たりばったりでは、あまりにリスクが高いと言えます。
ビジョンとは、ご自身のビジネスがどのように成長していってほしいか、そしてそのビジョンが達成されたときに自分がどのように感じていたいかを描いたものです。実現したいことだけでなく、それに伴うポジティブな感情、例えば「満足感」「充実感」「目標を達成した誇り」も一緒に思い描くことが大切です。
ビジョンの一例
以下は、ビジョンとそれに伴う目標の例です。
「卓越した施術で、地域で評判の訪問型セラピストになる」
このビジョンに伴う目標の例として以下のことが挙げられます。
- 今後1年間で、常連客を50名新規に獲得する
- 毎年2回、技術向上のための専門研修に参加する
- 地域での知名度向上のため、美容ブログを立ち上げる
すべてのビジョンには具体的な目標が伴わなければなりません。目標とは、ビジョンを実現するための具体的なアクションなのです。
習得すべきスキルその1:短期・中期・長期の明確なビジョンと目標を持つこと
例えば、SMART(具体的・測定可能・達成可能・現実的・期限付き)な目標の立て方を学ぶことが有効です。
市場を分析し、適切なサービスを構築する力を持つこと
次のステップは、ご自身がこれから活動していく「土壌」をより深く知ることです。それは、旅に出る前に目的地となる国について情報を集めるのと同じようなことです。
旅に出発する前には、様々なことを確認するものです。
- どのような予防接種が必要か?
- 入国や移動のために必要な書類は何か?
- 危険な地域や、逆に絶対に訪れるべき場所はどこか?
こうした情報を調べておくことで、旅を最大限に楽しむと同時に、予期せぬトラブルを避けることができます。
実は、ビジネスにおいてもまったく同じことが言えるのです。本格的にスタートする前に、ご自身の市場をよく知り、理解することが大切です。そうすることで、どこに足を踏み入れようとしているのかが明確になります。
例えば、以下のようなポイントを把握しておく必要があります。
- 対象となる顧客層は、どのようなニーズを抱えているか?
- 業界内で現在注目されているトレンドは何か?
- 自身が活動する地域で人気のあるサービスはどのようなものか?
旅と同じように、このような分析を行うことで、周囲の状況に柔軟に適応し、無駄な失敗を避けることができます。需要のないサービスや、すでに地域で飽和状態となっているサービスを提供することは避けたいところです。市場を深く分析することにより、顧客の期待に応える独自のサービスを構築できるようになります。さらに、革新的または専門性の高いサービスを提供することで、競合との差別化を図ることも可能です。
デジタルマーケティングを活用して認知度を高めること
旅から帰ったとき、多くの人が写真を見せたり、思い出を語ったり、印象深いエピソードを共有したりしたくなります。
それはなぜでしょうか?
それは、感動を伝えたい、誰かに影響を与えたい、あるいは同じような旅をしたいと思わせたいという気持ちがあるからです。この考え方は、訪問型セラピストとしてオンライン上での存在感を築く際にもそのまま当てはまります。
SNSの目的は「感情的なつながり」を生むこと
SNSでは、フォロワーと感情的なつながりを築くことが重要な目的となります。施術のビフォー・アフターの写真や、満足したお客様の声、美容に関するアドバイスなどを投稿することで、自身の技術をアピールできるだけでなく、信頼関係も育まれます。
投稿を見た顧客は、次のような反応を示すかもしれません。
- あなたの施術や美容アドバイスに感化され、「自分もこの人のケアを受けてみたい」と思う
- 投稿に「いいね」やコメントを残し、あなたの仕事を自分の知人にシェアする──まるで旅の写真を共有するかのように
目指すべきは、顧客やフォロワーが美容サービスを受けたいと思ったときにあなたを思い浮かべるようになることです。それは、魅力的な旅行写真を見て目的地を選ぶ心理に近いものがあります。
習得すべきスキルその3・4:自分を知ってもらうためのマーケティング戦略を持ち、顧客を継続的に獲得・維持する力
オンライン上でのプレゼンスを確立する力
サービスおよび製品の販売技術を最適化すること
訪問型セラピストは、単に施術を提供しているだけではありません。顧客にとっては、トータルな体験を提供しているのです。
顧客を定着させるためのアドバイス
思い出深い旅から帰った際、友人たちにこう聞かれることがあるでしょう。
- どうやってその旅行を計画したの?
- お土産には何を買ったの?
それと同様に、施術を受けた顧客も、アフターケアや日常生活での活かし方についてアドバイスを期待しています。施術の後には、肌質に合った製品を提案したり、長期的な効果を高めるための追加ケアをおすすめしたりすることができます。これは、旅行中に自分で体験したアクティビティをもとに、次の観光先を提案するような感覚です。目的は、単に「販売すること」ではなく、パーソナライズされた有益な提案によって、顧客との関係を深めることにあります。
顧客に「無理なく楽しむ」術を提供する
旅慣れた人が、限られた予算で最大限に楽しむ計画を立てるように、あなたも顧客が美容にかける予算を有効に活用できるようサポートすることができます。
例えば、以下のような提案が考えられます。
- 定期的な施術メニュー
- お得なパッケージプラン
- 少し贅沢なプレミアムケアで特別感を演出
旅の後に思い出として「お土産」を買うように、あなたの提案する美容アイテムも、顧客にとっては自宅で体験を再現できる“思い出の一部”となるのです。美容液やクリームが、その日の施術の「記憶」となって手元に残ります。
習得すべきスキルその5:サービスおよび製品の効果的な販売技術を身につけること
賢く財務を管理すること
旅行と同じように、ビジネスにおいても予算管理は極めて重要です。休暇中に出費を把握せずに過ごしてしまった場合、最後のアクティビティを楽しむお金が足りなくなる恐れがあります。これは、ご自身のビジネスにもそのまま当てはまることです。
財務状況をしっかり把握する
効果的な財務管理とは、収入と支出を丁寧に追跡することを指します。キャッシュフローの管理は、将来の投資計画を見通す力と同じくらい重要です。日々の支出(たとえば、施術用の機材費や交通費)を予測しつつ、将来的な事業成長のチャンス──例えば新しい研修の受講や設備の購入──にも備える余地を残しておくことが肝心です。さらに、予期せぬ支出に対応するための「安全クッション」を常に確保しておくことも忘れてはなりません。旅行の際に緊急予算を組んでおくのと同様に、事業にも備えが必要です。
習得すべきスキルその6・7:適切な財務管理能力を持つこと、事業の成長を見据えた戦略的な運営計画を立てること(開発プランの設計など)
一貫性のある強いブランドイメージを持つこと
人気のある観光地への旅を計画する場合、出発前からある種のイメージを抱いていることが多いはずです。写真や旅行者のレビュー、目的地のウェブサイトなどを通じて得た印象が、旅先の選定や期待する体験に大きく影響します。
顧客にどう見られたいですか?
ビジネスにおいても、まったく同じことが言えます。ブランドイメージとは、施術予約をする前からお客様の中に形成される「あなたに対する印象」のことです。それは単なるロゴや名刺デザインにとどまりません。コミュニケーションの仕方、施術時の雰囲気づくり、そして施術後に顧客があなたについて語る言葉──そうしたすべてがブランドイメージに含まれます。一貫性があり、かつプロフェッショナルなブランドイメージを確立することで、専門家としてのポジションを明確にすることができます。もし「高品質な施術の専門家」として認識されたいのであれば、顧客と接するあらゆる場面で、その印象が伝わるよう意識することが必要です。
習得すべきスキルその8:ブランドイメージを確立・維持する能力を身につけること
ネットワークを広げ、パートナーシップを築くこと
旅行をしたことのある方なら、最も心に残る体験の多くが「旅先での出会い」から生まれることをご存じかと思います。ビジネスの世界でも、まったく同じことが言えます。良いコラボレーションやパートナーシップは、思いがけない扉を開き、あなたの活動の幅を広げてくれます。訪問型セラピストとしてのあなたが、他の美容専門家(ヘアスタイリストやメイクアップアーティストなど)や、地域の商店(たとえば、フローリストやショコラティエなど)とネットワークを構築することは、事業の成長にとって非常に有益です。
このような相乗効果により、新しい顧客層へのアプローチが可能になり、サービスの交換やパック商品の提案が実現し、知名度の向上にもつながります。ちょうど優れた旅行ガイドが、ガイドブックに載っていないスポットを案内してくれるように、ネットワークはあなたの世界を広げてくれます。また、成長のパートナーは取引先の業者でもあります。彼らは、あなたのビジネスをともに支える「チームメイト」でもあることを忘れないでください。
習得すべきスキルその9:ネットワークを構築し、パートナーを持つこと。例えば「Congrès International Esthétique & Spa(国際エステティック&スパ会議)」のような業界イベントや、「LinkedIn」などのプロフェッショナルSNS、あるいは地域のイベントなどを活用して関係を広げましょう。
サービスの多様化と継続的なスキルアップ
旅行に出かけるたびに、同じ場所ばかりを訪れたり、同じアクティビティだけを繰り返していたら、やがて飽きてしまうことでしょう。これは、美容の仕事においても同様です。
情報を常にアップデートする
顧客の関心を引き続き集め、かつ市場の変化に対応していくためには、サービスの多様化が不可欠です。施術の種類を増やしたり、美容アドバイスの幅を広げたり、特定の技術を導入することは、新たな旅行先を発見するようなものです。新鮮さやワクワク感を顧客に与えることができ、結果的に満足度やリピート率の向上にもつながります。最新トレンドに常にアンテナを張っておくことで、新たな顧客ニーズに柔軟に対応できるようになります。それにより、競合他社との差別化も実現しやすくなります。
習得すべきスキルその10:サービスの幅を広げ、美容技術における専門性を高めること
競争力と収益性を両立した価格設定を行うこと
料金設定は、ビジネス運営の中でも最も繊細なテーマの一つです。新規顧客を惹きつけるための魅力的な価格と、事業の存続を支える十分な利益率──そのバランスを取る必要があります。
価格を決定する際には、以下の要素を考慮しなければなりません。
- 各施術にかかる時間(移動時間、準備、撤収時間を含む)
- 使用する製品のコスト
- 移動にかかる費用
- 各種経費(保険、機材、マーケティング等)
また、価格はご自身のブランドポジションにも連動させるべきです。例えば、高級志向のサービスであれば、それにふさわしい価格設定が求められます。市場は常に変化しているため、価格を定期的に見直すことで、競争力と利益性を同時に維持していくことが重要です。
習得すべきスキルその11:コストを正確に算出した上で、顧客の期待や自分の市場での立ち位置を踏まえた、適正かつ収益性の高い価格設定を行う力
レジリエンス(回復力)と粘り強さを育てること
起業とは、成功と困難が交錯する道のりです。そうした中でも進み続けるためには、精神的なレジリエンスを育てることが欠かせません。
レジリエンスとは?
それは、困難を乗り越え、状況に柔軟に適応しながらも、目標を見失わない力のことです。つまり、失敗や予期せぬ状況に直面しても立ち上がり、前進し続ける精神的な強さを指します。物事が思い通りにいかなかったときは、その原因を冷静に分析し、改善のための具体的な行動を取ることが大切です。「運が悪かった」「景気が悪いから仕方ない」といった他責的な思考では、成長につながりません。
習得すべきスキルその12:起業に伴う予期せぬ困難にしなやかに対応できるよう、自分自身の内面を強化し続ける力
要点まとめ:成功のための10の鍵とその本質
この記事で紹介した「訪問型エステティック事業を成功に導く10の鍵」は、それぞれに対応するスキルとともに成り立っています。これらのスキルは、財務管理、マーケティング、そして自己成長といった複数の領域にまたがり、ビジネスの各フェーズ──立ち上げ、創業、成長、拡大、そして定着──において横断的に発展させていくべきものです。
加えて、以下のような項目にも習熟しておくことが、事業の健全な運営には不可欠です。
- 効率と収益性を高めるための業務プロセスの最適化
- 自身の権利と義務の理解(法的知識の習得)
- 顧客との良好な関係性の維持とパーソナライズされたサービスの提供
これらのスキルは、事業の成長とともに自然に磨かれていくものです。ぜひ、今回ご紹介した「10の鍵」を日々の実践に取り入れ、あなたのビジネスが長期的に成長し、持続可能であり続けるための礎としていただければ幸いです。