漢方自動問診システムで、漢方がより身近に

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2017.03.13

編集部

近年、急速な社会環境の変化や生活習慣病の増加などを背景に、漢方治療が見直されてきている。

漢方医学には西洋医学と異なった独自の診察方法や処方があり、現代医学的検査に慣れている患者側から見ると、漢方医が何をしているのかわかりにくい。

また、漢方を学ぶ西洋医も、膨大な古典の経験知識を頭に叩き込むのは果てしない年月が必要になり、すぐに臨床現場で的確に実践することは難しい。

慶応義塾大学と東京大学が開発中の漢方の「自動問診システム」は、漢方医がどのような診察をして処方を出しているかという一連の過程を可視化することで、「漢方をより身近に感じてもらう」(慶応義塾大医学部 助教の吉野鉄大氏)とともに、人工知能が診断・処方まで行う“未来の漢方医サポーター”として期待されている。

同システムの開発は、厚生労働省の補助事業として、慶應義塾大 教授の渡辺賢治氏を中心に2008年5月からスタート。同大のほか、千葉大学、富山大学、自治医科大学、東京女子医科大学、亀田メディカルセンター、飯塚病院の計7施設がプロジェクトに参画して、これまでに約8,000人分の診療データを集め、東大で解析作業を行っている。診療データは多ければ多いほどよく、目下「1万2,000人分の収集を目指している」(吉野氏)。

同システムは、タブレット端末に自分の症状を入力することで、漢方独自の“虚実寒熱”“気血水”を診断してくれる。具体的には、食欲、睡眠、気分、日ごろの不調などの質問があるほか、症状がどれほどつらいのかを0から100までの数値で表現できるよう工夫されている。質問数は女性が87問、男性が79問あるが、患者の入力意欲が萎えないように「問診項目は減らす方向で考えている」(吉野氏)。

現状、同システムは“証”を出すまでをサポートできるようになっているので、患者は自分の診察順が回ってくる間の時間を使って入力操作。これにより、医師は診察前に患者の問診を終えることができ、診察時間の短縮につながる。短縮された分は、他の診察に時間を充てることができるようになる。

漢方は経験値を必要とする医療でもあることから、漢方治療の経験の浅い医師や、漢方的診察に不慣れな医師などが同システムを利用することも想定される。また、漢方の各流派ごとの診断方法も“見える化”できる可能性を秘めていることから「教育ツールとしても使用できる」(吉野氏)。

同システムはまだ研究開発中で、いくつかの課題もある。例えば、慶応義塾大以外の病院で使用すると、虚実の証の一致率が下がるという問題。これは、同じ患者でも診る医師によって、導き出される証が異なるためだが、「どの医師も重視している診察項目は似ている。どこからどこまでを虚証あるいは実証とするのか線引きの問題」(吉野氏)だという。

現在、気血水の解析に取り組んでいるが、予測が難しく、虚実寒熱ほど高い確率が出せていない。これは例えば、気虚であり血虚でもあるといった複合的な証がよく起こりうることに起因しており、漢方の病態が数学的にハッキリと分けられないためだ。

このように、人工知能だけで正確な診断を行うことが難しい中で、診断までしなくても、薬を選択できるようにできないかトライしているところ。「症状と所見があれば、処方に飛ぶこともあり得なくない。一部上手くいったことがあり、その論文も書いた」(吉野氏)といい、ある意味、“方証相対”の日本漢方らしくもある。そこで「将来的には、漢方専門家のいないドラッグストアなどで利用できるようになれば」(同氏)としている。

漢方医学は、過去の膨大な経験治療の知見から成り立っている。そうした知見を的確に引き出しから取り出していくことは大変な作業。こうした知見を引き出す作業は「明らかにコンピュータの方が得意。だから、処方までは人工知能に任せて、その後、患者とどのように接して、病気についてどういうアドバイスができるのか、といったことに力点が置かれるようになると、良い臨床ができるのではないかと思う」(吉野氏)。

参考リンク
慶應義塾大学医学部漢方医学センター

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