【連載】化粧特許と知的財産権⑥SANSH0、化粧品事業で稼ぎながら医薬品事業推進(下)

2019.06.4

特集

編集部

SANSHOは、抗がん剤などの本来の研究の合間をぬってCPAの皮膚への影響や、肌ダメージへのアプローチなど化粧品開発に取り組んだ。CPAの配合量はもちろん、ほかの成分との相性や実際に肌に試す段階では、お茶の水女子大学の学生や職員、OGの方々などの協力を仰ぎ、一人ひとりの肌の状態を確認しつつ、何段階もの試験を経て2008年にCPA配合エイジング化粧品「グレイス」を商品化した。

同社は、さらに、毛髪研究に取り組んだ。天然型のCPAをヒト毛乳頭細胞に添加し、1~2日後の細胞数で効果を確認した。また、繊維芽細胞にCPAを添加、発毛促進のホルモンの遺伝子発現をメッセンジャーリボ核酸(m-RNA)で調べた。
その結果、特に効果が高い繊維芽細胞増殖因子(FGF)の場合、何も添加しない時の3倍の効果を示した。

薄毛の男性約20人を対象とした実証試験では、CPAの0.5%濃度水溶液を1~6カ月間、塗布し効果を明らかにした。女性でも効果はあるが、毛がまったくないケースや通常の肌では発毛しなかった。
こうした試験によって同社は「環状ホスファチジン酸」に高い育毛効果があることを特定し2012年に、国際特許を出願。また、国内の大手化粧品会社や台湾企業2社が育毛化粧品として販売するなど育毛事業に参入した。

同社は化粧品事業で得た収益を基に医薬品事業を実施している。医薬品事業に関しては、変形性膝関節症の治療薬の開発に取り組んでおり、非臨床試験段階から海外の製薬メーカーと特許ライセンス契約(マイルストーン契約)を締結して製造販売前であっても開発段階が進むごとに収入が得られるようにしている。同社のライセンス収入は現在、売上高の約半分程度を占めていると見られる。

通常、医薬系ベンチャー企業はベンチャーキャピタル等からの出資を受けることが多い。同社は、化粧品事業の収益で、出資を受けることなく経営の独立を保っている。現在、海外での臨床試験等を進めている段階であり、医薬品の製品化に向けて取り組んでいる。

同社は、海外でも医薬品や化粧品を製造販売することを視野に入れて米国・欧州・中国・台湾などに特許出願。また、事業を行う上では商標権も重要であるため、海外の多数の国で商標出願している。また、技術の一部は公開せずにノウハウ化して模倣対策に役立てている。
ともあれ、知財権の活用で、化粧品事業に力を入れ、化粧品事業で稼いだ収益を医薬品事業に充当して成長を図るなど同社の事業展開が益々、注目される。

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