【連載】化粧特許と知的財産権⑫富士フイルム、化粧品事業を第二創業として英断(下)

2019.07.5

特集

編集部

写真フィルム業界は、ピークを打った2000年以降、デジタル化の熱波に押し流され、渇水期のダム湖のように、市場そのものが蒸発してしまった。2000年の世界の総需要を100とすると、2011年は1桁台まで落ち込んだ。

そこで、富士フィルムHDは、ピーク時の2000年後に構造改革を断行し、全社プロジェクトの中から写真フィルム事業で培った技術を使って新分野の化粧品事業の断行を決断。「第二の創業」に踏みだした。

写真フィルムの半分は、肌の真皮の主成分コラーゲンでできている。ベースのフィルム上に感光層としてコラーゲンの膜を20層ぐらい塗り重ねて厚さ20ミクロン(ミクロン=1000分の1ミリ)にする。1層1ミクロンのなかに成分の粒子をナノ(1000分の1ミクロン)のサイズで入れて乳化させ、分散させた。

2006年に本格的な商品開発にあたって肌のバリア機能保つこと。同時に、紫外線による肌の老化を防ぐスキンケアの機能価値を重視して開発に取り組んだ。

「化粧品の理想は、必要な成分が必要な場所に効果的に届くこと」を基本セオリーにして威力を発揮したのが、写真フィルムで培ったナノ乳化分散のナノテクノロジーだった。

一時的な保湿でなく、肌の乾燥を防ぐには、外側の角層の細胞と細胞の間に、セラミドという脂質の分子が規則正しく並ぶ必要がある。これが水分の蒸発を防ぐ。そこで、肌が持っているセラミドと同じ構造のセラミドを開発し、角質に浸透させ、隙間を埋めた。ところが、セラミドの性質は、凝集して塊になりやすく並べたいところまで届かない問題があった。

それを解決したのがナノテクノロジーだった。並びやすさを維持しつつ、微細なまま分散させるという矛盾を両立させた。また、表皮の下にある真皮の主成分コラーゲンは、肌のハリ弾力を維持する。一般的な水溶性コラーゲンは粒子が大きく、肌表面にとどまって潤いは与えるが内部まで浸透しない。

そこで、ナノ単位に極限まで微小化したコラーゲンを作成。真皮内の線維芽細胞に働きかけてコラーゲンの産出を促し、肌自身がコラーゲンを生み出す手助けをするようにした。また、写真フィルムと人間の肌には、もう1つ、共通性があった。写真フィルムの劣化も、肌の老化も、紫外線により内部に活性酸素が発生するのが原因。この活性酸素を除去する抗酸化技術においても、同社は、独自の最先端技術を持っていた。

社内で過去に比較検討された約4000種の抗酸化物質から、アスタキサンチンという赤い天然の色素成分を選定。その活性酸素消去能力は、美容業界で注目を浴びるコエンザイムQ10の1000倍とされた。ただ、アスタキサンチンは、ナノ粒子化すると粒子同士が結合して、肌の奥まで浸透しない。そこで、長年の研究で蓄積された約20万種の化学物質のデータベースをもとに最適な乳化剤を見つけ、ナノ粒子を安定させたまま浸透させることに繋げた。

第二の創業以降、スキンケア化粧品やサプリメントなど予防領域に進出すると同時に、約20万種の化学物質のデータベースを活かし、医薬品の治療領域へも事業を拡大した。フィルム技術、化粧品技術等で培った知的財産は、3領域合わせた売上高が2018年に1兆円に達するなど「総合ヘルスケアカンパニー」を確立した。

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