【連載】化粧品が起こすイノベーション・この技術に注目㉓毛髪成分・素材開発(上)

2020.06.1

特集

編集部

毛髪が何でできているのか、成分構成まで知っている人は意外に少ない。毛髪成分の8割はタンパク質で構成され、そのうち「ケラチンタンパク質」が70%、「非ケラチンタンパク質」等が10%を占める。中でも、タンパク質は、髪のツヤやハリ、強度、保護、水分保持などすべてに影響している。また、外部の刺激から毛髪内部を守る「キューティクル同士」や髪の毛の内部にある繊維状のタンパク質でできている層の「コルテックス同士」を連携し、髪のうるおい保持に欠かせない成分「CMC皮質」の役割も大きい。

髪が傷むと指通りが悪くなり、ツヤが失われる。これは、髪を包む薄い膜であるキューティクルがダメージを受け、タンパク質などの内容成分が流出、空洞になることが原因と指摘されている。この状態の髪に必要なのが「CMC脂質」だ。CMC脂質は、外的な刺激から髪を保護し、髪の内容成分の流出を防いで水分を保持する働きがある。その他、コルテックス内のマクロフィブリル間には、髪の色を決める赤・黄色~黒・褐色の顆粒状の色素「メラニン色素」や毛髪の水分を一定に保つ天然保湿因子「NMF」が存在する。

毛髪の成分にしっかり保持されている「水分」には「タンパク質結合水」「CMC保持水」「NMF保持水」がある。しかし、200度以上の熱で毛髪から離れてしまうため、アイロンなどでダメージを受けやすい。
こうした中、化粧各社やかつら会社の毛髪成分、素材開発は極めて活発だ。代表的企業の毛髪成分・素材開発の取り組みを検証した。

株式会社アデランス(東京都新宿区)は、バイオ素材開発ベンチャーのSPIBER株式会社(山形県山形市)と共同で、構造タンパク質を活用した「人毛でも化繊毛でもない新毛髪素材」の共同開発に乗り出したことを明らかにした(2019年3月)。
共同開発は、SPIBERが持つ構造タンパク質繊維技術とアデランスが長年培ってきた総合毛髪開発力を組み合わせることで、新たな毛髪素材の創出を実現する。
SPIBER は、毛髪としての特性を満たすタンパク質を遺伝子レベルで設計し、微生物を用いた発酵プロセスにより原料となる構造タンパク質を取得する。さらに、構造タンパク質を毛髪素材に最適な形状や物性となるように加工するための新たな繊維化技術の開発、製造条件の検討を進める計画。

アデランスでは、これまでの毛髪開発の知見を基に、得られた構造タンパク質繊維に対して毛髪のような風合いや特徴を付与するための加工や染色、カール付けなどを行い、製品としての評価を進める。すでに同社は、基礎特性や各工程に関する研究を開始しており、関連特許も4件出願した。引き続き両社の技術と知見を集結し、2年後にも構造タンパク質繊維を素材とした毛髪剤の商品化を目指す方針。

植物資源をベースに発酵プロセスで生産される構造タンパク質は、ナイロンやポリエステルなどの化学繊維のように主な原料を石油に頼ることなく、繊維やフィルム、樹脂など多種多様な素材への加工が可能。今度の共同開発の背景には、毛髪原料をこれまでの石油から構造たんぱく質という新毛髪素材に転換する動きとして注目される。

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