【連載】化粧品が起こすイノベーション・この技術に注目㉔女性心理と化粧品開発(中)~資生堂、脳科学を商品開発に応用~
2020.06.9
編集部
株式会社資生堂(東京都中央区)は、脳科学の知見を活用して
①化粧品の開発
②マーケティングや販売活動
③化粧療法の研究等に取り組んでいる。
脳科学の知見を商品開発の領域で活用することについて同社は、化粧品の香りや触感が脳にどう働きかけるのか、皮膚の変化と脳活動の関係などを調べ、商品開発に生かしている。
第2はマーケティングや販売活動の領域。たとえば、店頭で販売を担当するビューティーコンサルタントの服装や動作がどのようなものであれば顧客は心地よいと感じるのか。脳科学を応用してそれを導きだし、ビューティーコンサルタントの行動規範として活用している。
第3は、五感を刺激する化粧が呼び起こすさまざまな効果に着目し、高齢者への「化粧療法」の領域での活用を進めている。いわば、脳を活性化させる「化粧療法プログラム」の研究に取り組んだ。
同社が脳科学を商品開発に活用した狙いは、近赤外線分光法という脳の光計測により、脳の表面付近の血液の流れを測定することで、香りの評価を商品開発に生かすこと。具体的な成果として香り成分を含んだスキンケア化粧品「キオラ」の開発に繋げた。
人間の右脳は「ストレス脳」、左脳は「リラックス脳」だが、このストレスモード、リラックスモードの脳と香りの成分の関係についてキオラの開発をスタートした。
実験では、右脳が活性化している女性のストレス脳が1カ月間、朝晩香りをかいだ結果、左脳が活性化し、リラックスした状態に変化していることがわかった。
同社は、リラックスモードの脳が身体に及ぼす影響について研究を進め、スキンケアでリラックスした女性をさらに、メーキャップで元気にする、ということを目指して取り組んでいる。
この研究については現在、高齢者を対象とした化粧療法プログラムのなかで進めている。
同プログラムは、高齢者にとってもなじみの深い「化粧」という行為を通して認知症の予防や症状の改善に役立てることを目指したもの。
具体的には、高齢者施設をビューティーセラピストが訪ねて化粧教室を開き、高齢者の方のQOL(Quality of Life)向上を目指すもので、1970年代の早い時期から全国の高齢者施設で活動を行っている。
この活動の中で「高齢者が化粧をすると元気になる」ことが実証されている。その要因を探るため、プログラム実施前後の脳活動やそのほか心身の変化の測定等を行い、その科学的な検証を進めている。