【連載】化粧特許と知的財産権⑫富士フイルムHD、知的財産活動を活性化し企業価値を向上(上)

2019.07.3

特集

編集部

富士フイルムホールディングス株式会社(HD、東京都港区)は、知的財産本部で知的財産の運営管理、戦略等を推進している。同本部では、企業活動のさまざまな場面で創造される価値を、同社の優位性に確実に結びつける活動を知的財産活動であると考えている。

同本部の活動は、発明生産支援、特許出願・権利化といった従来の典型的な知的財産活動に加えて同社事業・研究開発戦略を支援するための戦略的な他社競合分析や事業優位性を導くための工業標準活動なども含む極めて広範な活動を展開している。同社の知的財産戦略の位置付けを図に示す。
知的財産戦略の位置付けは、事業戦略および研究開発戦略をさまざまなフェーズで下支えするものであり、それら全てのフェーズで知的財産活動を活性化することで、企業価値向上を目指している。
製品を生み出す研究開発活動によって形成される技術資産のうちで無形のもの(発明、考案、著作表現、ノウハウなど)は、特許権や実用新案件、著作権といった知的財産権として権利化し、保護していく必要がある。この活動は、知的財産創造として表されている。獲得した知的財産権は、同社製品の競争力を維持し、競合の参入を排除。また、他社技術のライセンスを獲得する原資ともなる貴重な財産といえる。

こうした財産を守るために、時には競合他社との間で生じる訴訟、係争案件を解決。また、ライセンス交渉によって事業化に必要な実施権を確保する活動にも取り組んでいる。
さらに、研究開発段階で基礎的な研究成果をスピーディーに導入して事業化に結びつけることを目指す企業間連携や産学官連携による共同研究成果を確実に知的財産として確保する一方、保有する知的財産を活用する観点からは、特許ライセンスからのロイヤルティによる収益を既存事業や新規事業のための研究開発への再投資に活用する取り組みにも注力している。

このような同社の知的財産が開花し、知的財産権として莫大な収益を生み出したのが化粧品事業の成功である。
かつて主力だった写真フイルム技術から派生した特許や実用新案を化粧品の開発に応用し、事業の構造転換に成功したまれなケースとして注目される。
現在、主力化粧品の「アスタリフトシリーズ」や「ナノフィルト」は、ヘルスケア&マテリアルズソリューション部門(2019年3月期売上高1兆390億円)のライフサイエンス事業が担当している。
「すでに、アスタリフトに代表される化粧品事業は、100億円の大台に乗せた」ともいわれるが同社のコメントがはっきりと公表されない中で、真意のほどは定かでない。しかし、化粧品事業が100億円の大台に乗り成長軌道に乗った背景には、知的財産戦略が功を奏したことと無縁ではない。

 

#

↑