「シナモンマスク」でインフルエンザを予防
2017.04.17
編集部
春は、インフルエンザが流行する季節。予防策として、ワクチンを接種したり、うがいや手洗いをしたりする人は多い。漢方薬を飲むことも対策の一つだが、ユニークなアプローチとして、生薬の香りでインフルエンザ予防ができる新型マスクが年内にも登場する予定だ。
千葉大学医学部附属病院 診療教授・和漢診療科長の並木隆雄氏が開発した「シナモンマスク」は、マスクの内側に生薬の桂皮(シナモン)が入ったパックを装着する仕組みで、すでに基本設計を完了し、実用化にめどをつけた。感冒の初期に使われる主な漢方薬には、桂枝湯、葛根湯、小青龍湯、大青龍湯、桂枝加葛根湯などが挙げられるが、いずれも桂皮が入っているのが特徴。この桂皮は、インフルエンザの発症を未然に防ぐ効果があると注目されてきたものだ。
「シナモンマスク」の開発のヒントになったのは、並木氏の同僚だった助教が2006年に発表した論文。桂皮の香り成分である「シンナムアルデヒド」は、口から飲用するよりも、適切な量を鼻や口から吸入する方が、インフルエンザに対して高い予防効果を発揮することがわかった。
論文によると、マウス実験において、「シンナムアルデヒド」を飲用(10日間)した場合、マウスの生存率は30%にすぎないが、吸入(同)した場合では80%に高まる結果が報告されている。このことから、「人間でも直接吸入すれば、インフルエンザの予防になるのではないか」(並木氏)と考え、桂皮をマスクに装着するアイデアがひらめいた。「飲用では体全体を回ってから必要なところに届くので時間差があるし、肝臓で代謝されてしまう。吸入すれば、直接インフルエンザが感染した細胞に届く可能性がある」(同氏)。
桂皮をマスクに装着する発想は良かったが、揮発成分だけに、いかにして香りを閉じ込めるかが大きな課題となる。当初のプロトタイプのマスクでは、アルコール抽出を採用していたので、「液体漏れもあったし、アルコール臭かった」(並木氏)。そこで、材料を固形化して粉末に改良することに成功。粉末技術は特許になっており、株式会社常磐植物化学研究所(千葉県佐倉市)が担当した。ただし、必要な時に香りを吸入できるように、ある一定量の「シンナムアルデヒド」を揮発させる技術、いわゆる徐放性を高める方法は現在も研究中だ。マスクについては、三井化学ファイン株式会社(東京都中央区)が開発した。
「シナモンマスク」の臨床試験は今年3月に終えた。一般人50名を募り、1日8時間・4週間連続でマスクを使用してもらうという試験で、使い心地や副作用がないか、安全性を確認した。現在、内容を解析中だが、「皮膚の弱い女性はかぶれやすいことがわかった」(並木氏)ので、使用上の注意が必要となりそうだ。
「シナモンマスク」の販売時期は今年11~12月になる見通しで、価格は200円前後になる模様。使用上の注意があるため、「対面販売に限定したい」(並木氏)考えで、ドラッグストアでの販売予定はない。対応可能なインフルエンザウィルスの型種類は4種類のほか、新型にも予防対策となりうることが期待できるという。
「漢方薬は“飲んで効く”ものであったが、(シナモンマスクの開発により)“嗅いでも効く”という新しい効果を実現した。シナモンの香りは、インフルエンザの予防効果があるのだという新しい認識を広めていきたい」(並木氏)としている。
- 参考リンク
- シナモンマスクでインフルエンザの予防