第1期対談第2回 “目標を達成して終わり”ではないサロンへ
2015.05.15
admin
日本のエステティックサロンは「目的的」
価格競争に負けてしまう恐れも
花上:それに比べ、一般的なエステティックはとても“無機質”という印象があります。
野嶋:とても目的的というか、痩身が叶えられればいい、脱毛してそれで終わり、そんな味気なさはあるかもしれませんね。しかし本来の「エステティック」とは、ゴールを満たすだけでなく、曖昧な“キレイになりたい”という気持ちまでも満たしてくれる、居心地の良い場所であるはずです。欧米のスパはまさにその願望を叶えてくれる場所で、滞在型でどこかテーマパークのような要素がある。顧客をファンにし、時間消費を促しているのです。しかし、日本ではまだまだ難しい。
花上:DNA診断をする美容室も出てきているようです。
野嶋:“キレイになりたい”という願望に上手くリンクさせるようにしているのですね。本来ならば、エステティックサロンの方がしやすいはずです。
花上:なぜ目的達成型のサロンではいけないのでしょうか。
野嶋:目的達成型だと、価格競争に負けてしまうのです。価格を下げれば瞬間的には顧客が来るのですが、顧客のゴールが満たされると客足は途絶えてしまう。例えば脱毛。今の若い世代は「毛」に対する嫌悪感が強く、「就活前に脱毛を終わらせてしまおう」と思っている。一方で、40・50歳代の女性は「こんなに安いのならば自分も」と思っている。現在の脱毛市場はこの2つの顧客層で成り立っているのですが、いずれも、脱毛が完了すればもうサロンには来なくなってしまいます。顧客のゴールが満たされたら、次はどうするのか。ブライダルなど別のビジネスでカバーするのか、あるいはもっと安売りにするのか。しかし安売りにした場合、クーポンを乱発しさらに安売りをかけている店に顧客が流れてしまうため、自店も価格を下げざるをえなくなる。この繰り返しです。
花上:美容家電が飛躍的に進化していますから、“サロンに行かなくとも、自分でやってしまおう”という消費者が出てきます。
野嶋:必ず出てくると思います。一方で、「この店でなければ」と利用客に思わせるような世界観、価値観、コンセプトを持った店は強い。これらに共感した利用客が来てくれるからですね。人口減少時代にあって、市場はどんどんシュリンクしており、景気も先行きが見えません。こんな時代だからこそ、自分たちのサロンの“顔つき”をはっきりさせ、サロンのあり方を消費者に提案する。これが必要になるはずです。
共感、居心地、緩やかなつながり
「サードプレイス」の要素が必要に
花上:サロンのアイデンティティを求められているように感じます。それは決して、何かで飾り立てるわけではない。ソフトウェアをもう一度見直そうということですね。
野嶋:自店で何を売りたいのか、顧客の何を満たしたいのか、もう一度考え直す必要がありますね。エステティック業界全体でこれをできるようになれば強いですよね。
花上:機能的な側面だけでは、サロンの特徴を打ち出すのは難しいのでしょうか。例えばどのような取り組みがありますか。
野嶋:クーポンはあくまでも来店のきっかけにすぎません。立地がいい、会社帰りに立ち寄れる、そんな“利便性”だけでは、他店に負ける恐れがあります。例えば、オーガニックコットンを使ったタオルに変える。パウダールームにオーガニックコスメを置く。これだけでも、“自然由来のものを使っていて好感が持てる”“環境に優しそう”というイメージを顧客に抱いてもらえるはずです。
▼この企画について
美容経済新聞では、サロン経営に携わる方に役立つ情報を常にお届けしています。2015年は、論説委員である野嶋朗氏を迎え、今後の市場の変化にいかに対応していくべきか、ヒントを探って参ります。
- 連載記事
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- 第1回 モノが売れない今、売るべきなのは?
- 第2回 “目標を達成して終わり”ではないサロンへ
- 第3回 サロンが「サードプレイス」になる条件
- 第4回 海外客の受入れで“勝ち”サロンになる
- 第5回 競争に残る「仕組み」が強い会社
- 第6回 2018年問題、その時、美容業界に何が?
- 第7回 コンプライアンスを守るーーケーススタディと共に
- 第8回 前受金ビジネスを再考する
- 第9回 新たなマーケットも?イールドマネジメントとは
- 第10回 新時代の担い手たち『ミレニアル世代』とは?
- 第11回 市場開拓の余地あり! “オヤジ”たちに注目せよ
- 第12回 業界全体でレベルアップ! 「共創」の時代とは
- 第13回 「マーケティング4.0」の現在こそ、技術力の見直しを
- 第14回 顧客の「ファン化」にもう一度、注力せよ
- 第15回 サロンの「ブランド作り」を徹底する
- 第16回 自社の「教育」そのものをビジネスにする!
- 第17回 ご贔屓さまによる「クチコミ紹介率=リファーラル率」向上を目指す
- 第18回 顧客の「QOL」に即した商品・サービス提案をせよ
- 第19回 企画とコミュニケーションこそが広告宣伝となる
- 第20回 顧客とつながる3つの「tion」
- 第21回 新卒社員マネジメント考①
- 第22回 新卒社員マネジメント考②
- 第23回 ポイント経済圏とは
- 第24回 人生100年!? 「健康寿命」とキャリアを再考する
- 第25回 モノはもう売れない! お客さまが求めているのは“新たな体験”だ
- 第26回 時間を有意義に使ってスキルアップ!「オンラインサロン」とは
- 第27回 脱「のれん分け」!? 日本版フランチャイズを改革せよ
- 第28回 雇用後のミスマッチをなくす! 会社説明会と入社後フォローアップとは
- 第29回 やみくもに「おもてなし」はもう古い。「当たり前品質」こそ飛躍の鍵だ
- 第30回 人をつなぎとめ、リピートにつなげる「フリンジサービス」って?
- 第31回 ケアメニューの広がりとモチベーションの関係
- 第32回 化粧品の「オーガニック」って何? 誰も言えない“基準”
- 第33回 ゆく年くる年……2017年総括と2018年これから
- 第34回 売り方ひとつでエステティックはもっと変わる!
- 第35回 「コミュニケーション能力」、具体的には?
- 第36回 美容業界、採用の傾向とは?
- 第37回 人手不足の美容業界、考えるべき「人時生産性」とは?