第1期対談第10回 新時代の担い手たち『ミレニアル世代』とは?

2015.11.1

業界展望

編集部

身近に15歳〜29歳の『ミレニアル世代』はいるだろうか。人口の約15%を占めるこの世代の価値観が大いに変わってきていると、美容経済新聞論説委員 野嶋朗氏は指摘する。これからの消費の主役であり、働き手となるこの世代について、美容経済新聞編集長 花上哲太郎がインタビューを行った。

等身大の自分を大事にする
“がんばらない”世代

野嶋 花上さんは『ミレニアル世代』あるいは『ジェネレーションX』という言葉を聞いたことがありますか?

花上 詳しくは知りませんが、どちらもビジネスの世界で話題になっていますね。

野嶋 その通り、とても注目を浴びています。『ジェネレーションX』とは、いわゆるバブル世代のこと。人口ボリュームが大きく、景気がよかった“いい時代”を知っている。基本的に競争が良しとされ、頑張ってステップを上がっていくことをモチベーションとしている世代です。少し見栄っ張りなところもある。雑誌やマスメディアに影響されがちで、個性という点ではやや弱いかもしれない。

花上 40歳代後半から50歳代前半の、ちょうど我々の世代ですね。

野嶋 顧客ターゲットとしては“いい客”だと思います。なぜなら、「モテ」や「見栄」という意識が美容へのニーズにつながるから。マチュア世代、オトナ世代、美魔女などと言われていますが、この世代をターゲットにしているお店も多い。ヘアサロンではその傾向が顕著です。一方で、またこの世代がターゲットなのか、という疑問が生じるのも確か。そこで注目されてきたのが『ミレニアル世代』です。

花上 我々の世代とはどのように異なるのでしょうか。

野嶋 まず、“がんばらない”という思考。もともと教育業界で注目されてきた世代なのですが、ゆとり教育が見直され、レポートやディスカッションを通して「考える」という作業を重視して育てられた世代です。キラキラ、ピカピカとしたものに意味などない、“飾り付けなんていらないじゃん”と思う。虚勢を張ることなく、等身大の自分を大事にする。上の世代とは全く価値観が違うと捉えたほうがいいでしょう。

広告戦略も見直しが必要
サービスや商品への“共感”が鍵

花上 この世代を対象にしたビジネスは、これまでとは手法を変えなくてはならないですね。

野嶋 お金を使うのが楽しい、消費が楽しいというのがバブル世代の考え方でした。だからこそ美容サービスにお金を落としてくれたのです。一方で、“大事なものを長く使いたい”というのがミレニアル世代。簡単にお金を使うことをしないので、どこにアピールするかをよく考えなければなりません。

花上 CMや広告の効果も疑問ですね。

野嶋 物心がついた時からPC、携帯、スマホを使ってきた世代ですから、店選びのプロセスが違います。雑誌が売れないとよく言われますが、この世代にとってメディアはスマホだけ。ゲームだってスマホです。メディアを通したイメージ戦略よりも、クチコミによる比較検討が圧倒的でしょう。ビジネスモデルも変わると思います。

花上 サービスや会社のことをどのように知ってもらうのがいいのでしょうか。

野嶋 まず、自分たちの企業姿勢を理解してもらう、ファンになってもらうというのが挙げられるでしょう。トレンドに左右されず、自分らしさを大事にする。そんな自分にふさわしいと思ったサービスや商品がすでに決まっているから、あまり迷うことがない。きらびやかさよりもシンプルを大切にする。社会貢献や調和を重視する。だからこそ、商品やサービスへの“共感”を得ることが重要になります。

花上 ミレニアル世代の価値観が我々とは違うというのは実感としてわかります。ただ、正直なところ理解するのは難しい。

野嶋 本質的に理解するのはなかなか難しいでしょう。しかし、15歳〜29歳のミレニアル世代は人口の約15%を占めます。この15%の価値観は、けっして無視できる数ではありません。

「社会問題を解決したい」
学生が企業に求めるものとは

花上 市民社会が成熟してきたという印象を受けます。ヨーロッパ型の社会になってきたのかもしれませんね。

野嶋 ブランドの作り方については、ヨーロッパの事例を研究している会社もありますね。覚えておきたいのは、この世代は働き方も異なるということ。競争社会を経験してきたバブル世代は、たくさん残業してでも成果を出したい。一方でミレニアル世代は「共創」ですから、長時間労働ではなく、和を大事にしながら効率よく働きたいのです。

花上 採用の現場も変わりそうです。

野嶋 よく耳にするのは、「社会問題を解決したい」と考える学生が多いということですね。かといって、福祉に進みたいということではない。メーカーやサービス業でこの目標を果たしたいのです。もちろん売上げを出すことが会社の意義ですから、日々の仕事が理想と乖離しているのは覚悟のうえでしょう。ただ、例えば“業界に向けて有益な情報を発信している会社で働いている”“社会に還元し、社会を変えることを目標とする企業で働いている”ということに充足感を覚える人が増えているのです。

花上 利己的で儲けばかりを考えている会社、社会悪を感じさせる会社は採用が難しくなっているかもしれないですね。

野嶋 経営者が商品やサービスに対する熱い思いを語ったところ、大いに喜ばれたという例も聞きます。エステティックや美容サービスにおいても、「こうしたい」という理想はどのオーナーも持っているはずですから、ぜひスタッフの前で話してほしいですね。

花上 採用に課題を感じている企業も多いと思います。ミレニアル世代の新たな価値観を知る必要がありそうですね。本日はありがとうございました。

 

▼この企画について
美容経済新聞では、サロン経営に携わる方に役立つ情報を常にお届けしています。2015年は、論説委員である野嶋朗氏を迎え、今後の市場の変化にいかに対応していくべきか、ヒントを探って参ります。

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執筆者:編集部

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