第1期対談第1回 モノが売れない今、売るべきなのは?

2015.05.1

業界展望

admin

アベノミクス以来、少し上向きになったといわれる景気。しかし、予想より手応えを感じていないというサロン経営者は多いのではないだろうか。いま現場で起こっている消費のパラダイムシフトに、どのように対応するべきなのか。美容経済新聞論説委員 野嶋朗氏に、美容経済新聞編集長 花上哲太郎がインタビューを行った。

モノが売れない、消費意欲が喚起できない……
いま売り場では何が起こっているのか

花上:景気の上向きを実感できないという声を経営者の方からよく伺います。なぜなのでしょうか。

野嶋:これは美容業界に限らないのですが、一般論としてあらゆるモノが売れない、モノを売りづらいという現象が起こっている。これが大前提です。かつては、お給料が出た“車を買おう”“海外へ行こう”など、目新しいものに飛びつく傾向があったのですが、今はこうした欲求が薄れている。世の中にモノが余って溢れているというのが現状です。そして、これは東京などの大都市に限りません。地方でも同じことが起こっているのです。

花上:確かに、一般的にモノに対する欲求が薄れてきたように感じます。

野嶋:すでに、売場にモノを置いているだけでは売れないという時代です。ならばどうすればいいのか。たとえば、商品のストーリーを提示し、消費者とモノとのマッチングを提案し、共感を巻き起こすことで改めて消費を連鎖させる。顧客とのコミュニケーションを積極的にとる。このように、売り手にインテリジェンスが求められているのです。産地や生産者を公表したり、成分を表示したりといった動きが広まっていますが、これも消費者の共感を得るための試みのひとつです。つまり、売場が非常に重要になってきている。すでに“売場がこれまでと変わった”と感じている方も多いのではないでしょうか。

花上:振り返ると、「遊べる本屋」をキーワードにした『ヴィレッジヴァンガード』は、売場に独創的な工夫を凝らすという、先駆者的な存在でしたね。野嶋さんが注目している試みとして、どのようなものがありますか。

野嶋:『TSUTAYA DAIKANYAMA T-SITE』などはまず挙げたいですね。売場の作りがこれまでの書店とはまったく異なるのです。例えば、イタリアワインの本の隣に、トスカーナ地方について書かれた本があるんですね。“これまで興味を感じたけれどアクションできなかった”という情報に、うまく繋がれるようになっている。興味を高め、さらにその興味の隣にあるものを刺激する。消費の連鎖を起こすようにしているのです。

花上:消費の連鎖を起こす必要性は、サービス業も迫られています。

野嶋:美容サービス業はその機会がたくさんあると思います。例えば、「美容」と「健康」。「健康」と「長寿」。こうしたキーワードは互いに結びつきやすいですね。ダイエットしたいから食べるものを見直そう。ではファスティングに挑戦してみようか。運動もしよう。ストレッチから始めてみようか。生活全体の質も見直してみよう――このような感じです。

花上:ファスティングのコースを開始しているエステティックサロンが登場してきています。表面的な部分だけでなく、中からキレイになろうという視点が注目されているのですね。

野嶋:2015年4月にオープンした『二子玉川ライズS.C. テラスマーケット』の『蔦屋家電』は、家電を取り扱っています。“なぜ書店が家電を売るのか?”と思われるかもしれませんが、実はとても密接に関わっています。

例えば、漠然と“キレイになりたい”と思っている女性がいるとします。美容を実現するためには、健康は欠かせない。健康は日々の食事でできているものですから、食事の質を高める必要がある。一日の始まりに大切な「朝食」の重要性が見直されています。朝食の質を高める家電は、いいジューサーが必要になる――

このように、消費者のライフスタイルと接続する「モノ」を上手に提案しているのです。消費者は、家電を通してライフスタイルを買っているのですね。TSUTAYAでは、代官山、二子玉川の他に『湘南T-SITE』でも同じ取り組みをしています。スローフード、スローライフの提案のために、地元の食材を使ったレストランがあったり、自転車を扱ったりしている。モノとサービスを上手く組み合わせることで、消費を刺激し合っているのです。また、さまざまな化粧品ブランドを一つのブースに一挙に展開し、顧客が商品を自由に選べるようにした『イセタン ミラー』もその一つですね。この取り組みは、美容サービスはとても参考になるはずです。

花上:美容室で面白い事例があると聞きました。

野嶋:都内に美容室を展開している『SORA』が3月に、『SALON & アンド』という美容室を祐天寺にオープンしています。美容室に、書店、雑貨、そしてカフェを併設した店舗で、これはつまり、コーヒーやカフェカルチャーという“時間の過ごし方”、あるいはセンスのある暮らしを提案しているのです。生活者の価値観に、自分たちの価値観を一致させようとしている。美容室が提案する価値観に共感した人は、このサロンにずっと通うようになるのでしょうね。

 

▼この企画について
美容経済新聞では、サロン経営に携わる方に役立つ情報を常にお届けしています。2015年は、論説委員である野嶋朗氏を迎え、今後の市場の変化にいかに対応していくべきか、ヒントを探って参ります。

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