第1期対談第13回 「マーケティング4.0」の現在こそ、技術力の見直しを
2016.02.1
admin
価格競争や技術力で差別化を図る時代から、自己実現を叶える場所へと、時代は大きく変わりつつある。だが、基礎的な技術や接遇が追いついていないサロンも多いと、美容経済新聞論説委員 野嶋朗氏は指摘する。どのような対策をとるべきか、美容経済新聞編集長 花上哲太郎がインタビューを行った。
サロンで自己実現を叶える「マーケティング4.0」
大切なのは基礎的な技術力
花上 美容業界、エステティック業界において、サロンのどのような点を顧客に訴求するかが難しくなってきています。
野嶋 エステティックサロンを例に挙げると、まだエステティックが定着していなかった時代は、技術の善し悪しで差別化を図っていました。これが「マーケティング1.0」です。しかし、業界全体のレベルが向上してきた現在、技術力があるというだけでは、顧客には魅力として映らなくなってきています。
花上 1.0ということは、それ以降もあるのでしょうか。
野嶋 顧客満足や消費者の意識を大事にし、顧客が何を考えているのかを優先して考える。これが「マーケティング2.0」。これまでにも何度か触れましたが、サロンが提供したい価値観や世界観を確立し、顧客の共感を得るというのも現在の流れです。これが「マーケティング3.0」。さらに、「自己実現を叶えるのがサロンである」という考え方が「マーケティング4.0」であると考えます。例えば、顧客は“痩せたい”“キレイになりたい”とサロンに来るのですが、それを“自分らしい人生を叶える”といった別のワードに置き換え、それをその人の自己実現と捉えて応援する。また、その欲求をサロンとして、スタッフとしてサポートするのが使命である、とスタッフの働きがいを重視する。これがサロンで自己実現を叶えるということですね。
花上 美容業界に身を置く者として、この推移はよく実感できます。
野嶋 ただ、大事なのは「マーケティング1.0」から「マーケティング4.0」までは「切りかわり」ではなく「積み重ね」であるということ。最近問題だと感じているのは、かけ声はいいけれど、中身が伴っていないなというサロンが多いことです。顧客やスタッフの自己実現を図ることを目的にしてはいるけれど、肝心な技術や接遇が追いついていない。バックヤードに入ると物が散乱している……。基礎的な足腰ができていないと、「マーケティング4.0」を目指していても、結局は価格競争に陥ってしまうのです。
花上 「積み重ね」であるというのがポイントですね。技術力や製品の力の大切さは、経営者として日々実感しているところです。
野嶋 サロンが提供したい世界観を創り出したあと、それをいかに技術に落とし込むかというところを考えなければ、絵に描いた餅になってしまいます。
組織に現場監督者を置き
ある程度の権限を与えることが肝要
花上 具体的にはどのような対策をとるべきでしょうか。
野嶋 まず提案したいのが、メニューやコンテンツの責任者を組織の中に置くということ。例えば、特定のメニューに関する技術や接客に、経営者と同じぐらい責任をもって担当するという人が必要です。最近では、「技術責任者」「ディレクター」といった役職を設け、1、2人で小さな組織を監督するという会社も増えてきています。
花上 よく理解できます。経営者の理念をどうやって現場で表現するか、そのクオリティをどう保つかというのは非常に大切です。
野嶋 マーケットとコミュニケーションをとるのが「マーケティング」ですから、顧客を理解し、顧客が実現したいことを支える『技術』をまず大切にすべきです。現場で何を提供するか、それを監督している人こそが権限を持つべきではないでしょうか。
花上 取締役が発言すると、数字の目標の話ばかりになる。
野嶋 数字だけを追うと技術力が落ちて事故が起きる恐れさえもあります。現場を最もよく理解している人がある程度の裁量をもって組織を動かすこと。これが、真の「マーケティング4.0」を実現するために、基礎的な体力を育てる肝になります。
花上 エステティックは営業力ではなく技術力の会社であるという認識を、もう一度確かめることが大事ですね。本日はありがとうございました。
▼この企画について
美容経済新聞では、サロン経営に携わる方に役立つ情報を常にお届けしています。2016年は、論説委員である野嶋朗氏を迎え、今後の市場の変化にいかに対応していくべきか、ヒントを探って参ります。
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- 第12回 業界全体でレベルアップ! 「共創」の時代とは
- 第13回 「マーケティング4.0」の現在こそ、技術力の見直しを
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- 第16回 自社の「教育」そのものをビジネスにする!
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- 第18回 顧客の「QOL」に即した商品・サービス提案をせよ
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