第1期対談第3回 サロンが「サードプレイス」になる条件

2015.06.1

業界展望

admin

花上:「共感」というのが一つのキーワードですね。

野嶋:もうひとつ、「サードプレイス」も挙げられると思います。家庭や生活拠点を「ファーストプレイス」、職場を「セカンドプレイス」だとすると、「サードプレイス」は、コミュニティや居心地のよい場所を指します。『STARBUCKS COFFEE』がよく引き合いに出されますね。「サードプレイス」の特徴には、以下の8つがあります。

1)お客さまが喜んでやってくる。自分の居場所として心地良さを感じられる。
2)サロンの中では皆、平等。誰でも来られるし、偉い人だからといって特別扱いされるわけではない。
3)お客さま同士、またはお客さまとスタッフの間は笑顔に溢れ、さり気なく気持ちの良い会話が数多く交わされている。
4)気軽に行ける場所にあり、店に入りやすい雰囲気に満ちている。
5)いつも来ている人がいる。だからといって常連だけの入りにくさもなく、自然なウェルカム感がある。
6)怖い雰囲気、落ち着かない色使い、特殊な空間ではなく、誰もが溶け込みやすい。
7)明るく爽やかな陽気さが感じられる。騒がしいほどではないが、会話は多く、難しい顔をした人は見かけない。その場にいると気分が良くなる。
8)暖かい感情がわき起こり、自分にとってもう一つの部屋、家のような感覚にさえなる。
――いかがでしょうか。当てはまるような場所はありますか?

花上:近所の焼鳥屋を思い出しました。そこはものすごく美味しいわけでは決してないし、安いわけでもないのですが、ほぼ毎日、なぜか自然と足が向いてしまう。店主との話が面白いし、そこにいる人たちとの会話も楽しいのです。

野嶋:その焼鳥屋さんはあまり儲からないし、決して売上規模は大きくないのかもしれない。しかし、不況に強いのは、確実にそういう店でしょう。「仲間感」「緩やかなつながり」「コネクト」――若い世代では特にこれが顕著です。「目的的」つまり、単に食事を済ませて終了ではない、もっと満たされる何かがある。顧客と積極的に関わり、関係性をしっかりと作っているサロンは強いと思います。いかに長続きするサロンを作れるか。それには、すでに時代錯誤となったベルトコンベア的な売り方を止めなければなりません。

花上:サロンの中で新しい人間関係を構築しなければならないのかもしれませんね。

野嶋:その場が心地よいと感じる。だからそこに行きたい。顧客のこの価値観をもっと大事にすべきではないでしょうか。そうした居心地の良さを作るのは、決して回数券やクーポンではないのです。顧客と積極的にコネクトしていく、感情を共有する――もちろん、すべての店がこの方向性を目指す必要はありません。しかし、こういう店は長続きすると思います。

わざわざ足を運びたくなる
サロンへとシフトチェンジを

花上:先ほど美容家電の進化という話が出ましたが、ネイルサロンではそれが顕著です。

野嶋:“セルフでジェルネイル”と、サロンに通わずに自分で済ませてしまう女性も多いですからね。しかし一方で、比較的年齢層の高い女性は、ジェルネイルなどではなく、自爪のケアだけでサロンを利用する人も多いようです。爪のお手入れだけであっても、通う時間と価値があるサロン。それは、日常の煩わしさから解放される空間であったり、スタッフとの会話であったりするのかもしれませんが、ケアのために通う顧客を大切にするというサロンは、エステティックサロンや美容室にとって、とてもヒントになると思います。特にエステティックサロンは「ケア」の要素が強いですからね。

花上:ビジネスモデルの切換え時なのかもしれません。

野嶋:手遅れになる前の今、シフトチェンジを図るべきだといえます。技術、立地、サービス……何を大事にし、何を顧客に訴求すべきか、改めて見直してみてはいかがでしょうか。レンタルビデオを利用しない時代が来るだろうと予測し、TSUTAYAはいち早く転換を図りました。ライフスタイルを提案し、売る。その根本にはインテリジェンスがあります。これを美容に置き換えたらどうなるでしょうか。景気はすぐにシュリンクするでしょうし、モノはもっと売れなくなる。そういう時代にあって、強く残るサロンを作るにはどうすべきなのか。インテリジェンスをもって売場=サロンを見直し、顧客の消費意欲を喚起していく。同じ業界だけでなく他業種にもよくアンテナを張り、情報収集をすることから始めてはいかがでしょうか。

花上:顧客にとって居心地の良い、第三の場所にどうしたらなれるか。サロンの発想が試される時ですね。本日はありがとうございました。

 

▼この企画について
美容経済新聞では、サロン経営に携わる方に役立つ情報を常にお届けしています。2015年は、論説委員である野嶋朗氏を迎え、今後の市場の変化にいかに対応していくべきか、ヒントを探って参ります。

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