第1期対談第5回 競争に残る「仕組み」が強い会社

2015.07.1

業界展望

admin

経営の多角化を図るため、「教育」に注目している方も多いかもしれない。「教える」ということで売上げの柱を立てることはできるのか。美容経済新聞論説委員 野嶋朗氏に、美容経済新聞編集長 花上哲太郎がインタビューを行った。

日本の美容が優れている理由は教育にあり
教育システムを海外へ輸出することも

花上:店舗独自の教育システムを外部に向けて発信することで、新たな売上げを立てようという試みが広まっています。

野嶋:背景には、海外、特にアジアの美容業界の拡大があります。人の身体に関わる安全、健康、クオリティに対して、アジア人の意識が急激に高まっています。それに対して、教育は足りていません。日本のサロンの衛生管理はたいへんに優れています。さらに、オペレーションやサロン独自の土壌もありますから、これらを教えるだけでも売上げの大きな柱となるはずです。

花上:具体的にはどのような事例がありますか。

野嶋:『QB HOUSE』は代表的なものでしょう。他者に教えることでスタッフが成長するのです。40歳、50歳のスタッフがこれまで吸収してきたことを伝えるのは素晴らしいことですし、それによってスタッフの自信も回復していく。会社の業績もアップします。教える先として大きなチャンスになるのは、国内ではなく海外、とりわけアジアです。髪質や美白に対する信仰など、アジア人には共通項がたくさんある。欧米のやり方よりも日本のマニュアルを知りたいという国は多いのです。他には、教えることで普及を目指す『JETRO』『HABIA JAPAN』や、オーナーが集まって講習会を行う『アジアビューティ アカデミー(ABA)』があります。

花上:他業種をみると、製造業は、教育システムがしっかりしていますね。

野嶋:トヨタ自動車の「熟練工」や「改善」など、「トヨタ生産方式」が代表的ですね。一方で美容サービスをみると、まだ技術者が“職人”の領域を越えていないのです。“見て覚えろ”が主流で、技術者が教育者にならない。教育者、指導者が不足しているように思います。

花上:一方で、日本の美容サロンにける、現場スタッフの向上心は目を見張るものがあります。それは『エステティックグランプリ』を見ても明らかですね。

野嶋:その向上心に応えるためにも、ぜひ指導者が育ってほしいと思います。

ミシュラン、ICAM……
欧米の教育システムをモデルに

花上:欧米は教育システムをすでに輸出しています。

野嶋:それには理由があって、国内の資源が乏しく生産に頼れないという国が多いのです。彼らが作るのは、ソフト、教育、コトです。モノなんか作らない。例えば『ミシュラン』の格付けや『ICAM』などの権威付けは、とても上手なやり方ですよね。日本も資源が乏しくなっていくわけですから、欧米のやり方を目指すべきだと思います。欧米では、モノを作ったとしても、モノをプロモーションするわけではなく、「コト」をプロモーションしています。世界観を表現するなど、「コト」を売ることができれば、インテリジェンスは高まります。

花上:仕組みを売っている会社は強いですね。

野嶋:モノだと価格競争に陥ってしまうのです。一方で仕組みやフレームは持ち運びが自由。“うちのやり方なら、この化粧品、この機械ではないと絶対にだめ”という、これを作り上げることができれば強いのです。競争が起こった時に、残るのはこの仕組みが強い会社だと思います。

花上:日本の優れたオペレーションをパッケージ化して、輸出することで売上げを立てる。モノを売る際には、「コト」も同時に売る。国内では、指導者を育成し、スタッフの教育システムを強化する。どちらも日本の美容サービスが生き残っていくには欠かせませんね。本日はありがとうございました。

▼この企画について
美容経済新聞では、サロン経営に携わる方に役立つ情報を常にお届けしています。2015年は、論説委員である野嶋朗氏を迎え、今後の市場の変化にいかに対応していくべきか、ヒントを探って参ります。

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